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松脇は2020-21シーズンの新人王候補のひとりだ ©TOYAMAGROUSES

ルーキーらしくないルーキー松脇圭志、八村塁に挑んだ日々も糧に描くバスケ未来図

2021.05.13

この5月に24歳となる富山グラウジーズのルーキー松脇圭志(よしゆき)は、普段から「ルーキーっぽくない」と言われることが多いらしい。「周りからよく言われます。ルーキーというよりベテランみたいに見えるなあって。なんでですかね」と本人は笑うが、ルーキーに見えないと言われるのにはもちろんそれなりの理由がある。

一言で言えば彼がもたらす安定感だろうか。ハードなディフェンス、精度の高い3Pシュート、強いフィジカルなど武器と呼べるものは多いが、それに加え、ゲームの流れを読んで有効なプレーを選択する“ルーキーらしからぬ”冷静さが光る。もっとも「まだまだ身につけなければならないものは山積み」と本人が言うように、更なるステップアップのための課題は少なくないだろうが、それもまた松脇ののびしろだ。日本代表候補に名を連ねる3x3の舞台でも「オリンピックを目指します」と言い切る顔は晴れやかで頼もしい。

高校で鍛えられたメンタルとディフェンス力

福岡県出身。シューターとしての資質は西福岡中学校時代から注目されていた。3年生の時の全国中学生大会決勝では、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)を擁する奥田中学校(富山)と戦い、36得点の活躍で優勝の立役者となった。高校は茨城の名門・土浦日大へ。

「土浦日大が強いことは知っていましたが、どんなチームなのか、どんなバスケットをするのかなど詳しいことは何も知りませんでした。進学を決めたのはチームメートの山崎純が土浦に行くと聞いたから。山崎とまた3年一緒にプレーしたいなと思ったんです。思えば単純な理由ですよね(笑)」

だが、その単純な理由による選択が松脇のバスケ人生を変えることになる。入学後、まず驚いたのはこれまでに経験したことがない練習の厳しさだった。が、それにも増してきつかったのはメンタルだったという。

「メンタルといっても土浦日大には上下関係の厳しさはなく、人間関係で悩むようなことはありませんでした。きつかったのは練習に対する姿勢だったり、考え方だったり、今まで自分が意識してこなかった基本的なことです。僕はそういった面が未熟だったので、毎日めちゃめちゃ怒られていました。めちゃめちゃ鍛えられたと思います(笑)」

土浦日大時代にメンタルを鍛えられたことが今につながっている ©B.LEAGUE

一方、技術面で苦労したのはディフェンスだ。「まずディフェンスで自分のリズムをつくれと言われ、こちらも徹底的に鍛えられました」。中学まではスコアラーとして軸足をオフェンスに置いてきた松脇にとって、日々追い込まれるディフェンスの練習は「地味できつくて楽しくないもの」だったが、必死で食らいついていくうちにディフェンスのやりがいや面白さに目覚めていく。

「ディフェンスって数字には表れないけど自分の守りが流れを変える時があるし、場合によって勝敗を分けることもあります。自分の力がついていくにつれて相手エースの守りを任されることが増え、それがモチベーションにもなりました。ディフェンスから自分のリズムをつくるという意味も分かってきて、自信にもつながったと思います。それは間違いなく自分が成長できた部分ですね。今、自分のストロングポイントを聞かれたら3Pじゃなくてディフェンスって答えますもん(笑)」

八村塁相手に挑んだ3度目の決勝

新たな武器を手に入れた松脇は主力の座を勝ち取り、3年生の時の国体ではインターハイ優勝校の明成高校(宮城)を破って優勝を果たす。だが「3年間で最も心に残っている試合は?」の問いには、同じ明成に敗れたウインターカップ決勝を挙げた。相手エースの八村と頂上を争うのは全中から数えて3回目。その中で唯一敗れたのがウインターカップだ。

いいスタートを切り、第3クオーターまでリードを奪いながら逆転負けを喫した試合。悔しさもひとしおだったのではないか。「負けたんですけどね、やっぱり1番忘れられない試合です。自分の高校3年間の集大成というか、(自分の力を)出し切れた気がするんです。僕は土浦日大に入ってバスケット選手の根本を変えてもらいました。3年間で得たものをチームメートと一緒に出し切れたというか。負けたのは悔しいし、もちろん勝ちたかったけど、それでも最後の最後までやり切った、そんな充実感がありました」

富山グラウジーズのスタメンとしてプロデビュー

卒業後、日本大学に進んだ松脇は高校時代に手に入れたものを土台として、更なる成長を見せていく。「シュートひとつにしてもただ打つのではなく、考えて打つようになりました。プレーの選択、判断、そういったものを自分の頭で考えるようになったと思います」。4年生の時には主将に就任。秋のリーグ戦では並みいるライバルたちに競り勝ち、見事3P王に輝いた。富山グラウジーズから特別指定選手としてのオファーがあったのはそんな時だ。

日大では主将としてチームを支える役割も担った ©B.LEAGUE

新型コロナウイルスの影響を受け、2019-20シーズンのBリーグは途中で中止となった。そのため試合に出る機会はほぼなかったが、「短期間でもプロの世界を肌で知るいい経験ができた」という。そして迎えたルーキーシーズン、松脇を待っていたのは「スタメン出場」という思いもよらない出来事だった。

「スタメン起用の話を聞いた時は心底びっくりしました。ええ~、なんで~、なんで自分?ってなりました(笑)。ディフェンスを買ってもらえたのかどうか分かりませんが、起用された以上は精一杯頑張ろうと、それしか頭になかったですね」

レギュラーシーズン60試合を終えた富山の中で、松脇がスタメン出場したのは33試合。途中で先発からベンチスタートになったことに関しては「やっぱり得点に絡む場面が少なかったからだと思っています」。だが今は、シックスマンとしてコートに出ることにやりがいを感じているという。ベンチでは常にゲーム状況をしっかり見て、自分が出たらやるべきプレーを考える。「だから逆に戦いやすいというか、自分に合っているような気がしますね」

3x3とチャンピオンシップ、松脇が目指す大舞台

「自分に合っている」という意味では、日本代表候補になっている3x3も同じだと考えている。ハーフコートで戦う3人制は同じバスケであっても5人制とは似て非なるものと言われる競技だ。「日大の先輩に当たる長谷川誠さん(3x3日本代表チームアソシエイトヘッドコーチ)に声をかけてもらったのがきっかけだった」という松脇は、「5人制に比べて当たりが強いし、展開も格段にスピーディー。ディフェンスとアウトサイドシュートが肝になるので、自分にめっちゃ向いていると思います」と言う。もちろん直近の東京オリンピックは視野に入っているが、もし開催されなかったり、最終メンバーから外れるようなことがあったりしても、次のオリンピックを目標に継続していきたいと意欲的だ。

しかし、目前の目標はなんといっても5月13日に開幕するチャンピオンシップ。どこが相手であってもやることはひとつ。チーム一丸となって持てる力を出し切ることだ。

岡田(左)は前々シーズン、前田(右)は前シーズンの新人王だ ©TOYAMAGROUSES

「富山ってほんとにいいチームなんですよ。例えば水戸(健史)さんみたいに36歳でもあれほどのパフォーマンスを見せてくれる先輩もいるし、若手ではシュートがガンガン入る前田(悟)さんとか岡田(侑大)とか、年齢に関係なく全員が同じ方を向いて頑張れるチームなんです。その中で自分は必要とされる選手になりたい。コートに出たら、あいつならやってくれると思われるような選手になりたいです」

それでは最後の質問。「岡田選手は前々シーズン、前田選手は前シーズンの新人王ですが、松脇選手も富山第3の男として新人王を意識していますか?」

「うーん」と考えた後、返ってきたのは「特別意識はしていませんね」という答え。が、その後、再び「うーん」と考えて「自分がやるべきことをやって、その結果もらえることになったとしたらうれしいです」と答えた。その顔に大きな笑みが広がる。「新人王は一生に一回。こう見えて、僕もルーキーですから!」(文・松原貴実)