パブリックビューイングの会場の様子©B.LEAGUE
Bリーグのアジア進出が活況だ。5月22日から25日にはフィリピン・マニラにて「Bリーグチャンピオンシップファイナル」のパブリックビューイングを含む大型イベントを開催。レギュラーシーズン中には台湾からの観戦ツアーも実施した。狙いや今後の展望について、Bリーグ国際事業グループの岡本直也、木村一博に聞いた。
盛況だったフィリピンでの大型イベント
フィリピン・マニラの大型ショッピングモール「Gateway mall」を、Bリーグのロゴが彩った。チャンピオンシップファイナルのタイミングに合わせ、子どもを対象にしたバスケ教室や3x3の大会、大画面での試合観戦――。光と音による華やかな演出に引き寄せられるように、1階の特設会場に人々が集まった。2階、3階の吹き抜け部分にも連日多くの見物客が連なった。
「フィリピンでここまで大規模なイベントを行うのは初めて。集客や運営などいろいろな心配ごとがありましたが、連日盛り上がってよかったです。一般参加者による3x3トーナメントは我々の想像を超える白熱ぶりでしたし、パブリックビューイングにゲスト出演したドワイト・ラモス(レバンガ北海道)の熱狂的な人気もすごかった。改めて、フィリピンにおけるバスケットボール人気の高さを感じさせられましたし、現地の方からは『フィリピンではなかなかない、クオリティーの高いイベントだった』というお言葉をいただきました」
現地を訪れた木村はイベントについてこのように振り返った。
男女が一つのコートでプレーした3x3 のトーナメント©B.LEAGUE
今回のイベントの催し物は、いずれもフィリピンの社会課題とリンクした内容だった。例えば、子どもたちに体を動かす楽しさと適切な水分補給の大切さを伝える「B.Hope ASIA Jr. Clinic」は子どもの肥満率の高さと教育格差。男女混成のトーナメント「B.Hope Asia 3x3 Challenge」はジェンダー理解。着なくなったユニフォームを回収し、子どもたちに寄付する「Pass It Forward」は貧困といった具合だ。
「国内に2つのプロリーグがあって、大学リーグも2つあって、NBAも人気。たくさんのリーグが乱立しているフィリピンで、どうやってBリーグの価値を押し出していくかを考えたときに、まずは純粋にローカルコミュニティーのためになることをやろう、と決めました」
岡本は今回のイベントの背景についてこのように話した。
クリニックでは子どもたちが楽しくプレー©B.LEAGUE
「BREAK THE BORDER」「NBAに次ぐ世界2位のリーグへ」というミッションを掲げるBリーグは、2016年の創設以来、さまざまな海外事業に取り組んできた。2020年7月に国際事業グループが立ち上がり、2020~21シーズンより「アジア特別枠」を導入。24~25シーズンは中国、台湾、韓国、フィリピンなど14の国・地域から12人がBリーグでプレーした。
Bリーグがアジアに目を向けた取り組みを行う理由について、岡本は次のように説明する。
「一番の目的は、各国のバスケットボールファンに知っていただくことによるビジネス的な展開です。強化の面で言うと競技性と多様性。アジア中から素晴らしい選手が集まる、いわゆる『アジア人選手のショーケース』を目指すことで、リーグとしての魅力をいっそう高めたいと思っています」
人口減の日本を飛び越え、人口増加率が高く、若い世代の多いアジア圏に商機を見出そうとしている企業は枚挙にいとまがないが、Bリーグも同様の道筋を歩んでいる。
パブリックビューイングにゲスト出演し、地元で圧倒的な人気を見せたドワイト・ラモス(右)©B.LEAGUE
まずフィリピンにターゲットを絞ったわけは……
ちなみに、アジア特別枠の所有国籍として最多なのはフィリピンの7人。今回のイベントもフィリピンで行われた。ここには上記のような思惑に加え「バスケットボール」という文脈も絡んでくる。
バスケットボールを国技とするフィリピンは、アジアにおいて突出した競技人気とカルチャーを誇る国だ。国中の至るところにバスケットボールのゴールがあり、「ギラス・フィリピナス」の愛称で親しまれる男子代表の試合には老若男女が熱狂。自国開催となった「FIBA バスケットボールワールドカップ2023」のドミニカ共和国戦では、大会史上最多となる3万8115人が会場に詰めかけた。
日本においては20~21シーズンにフィリピン人選手第1号としてサーディ・ラベナ(元・三遠ネオフェニックス)が加入。以降もキーファー・ラベナ(横浜ビー・コルセアーズ)、ドワイト・ラモス(北海道)、カイ・ソット(越谷アルファーズ)らフィリピン代表の主力たちがBリーグに参戦。サーディのデビュー戦の海外用YouTubeライブは同時接続91万を記録し、カイ・ソットの試合もコンスタントに30万を稼ぐ。現在は2社がBリーグの放映権を所有しており、年間100試合超を放映。ある調査会社の2024年の報告によると、フィリピン全土におけるBリーグの認知度は80%だった。
Bリーグではアジアにおけるビジネス展開を3つのフェーズに分けて設計している。フェーズ1はバスケットボールが人気な国から選手を呼ぶこと。フェーズ2はその国に放映権を売るなどして、認知を高めること。そしてフェーズ3はBリーグを直接的に体感できるイベントなどを開催して"認知"を"好き"に変えること。フェーズ3まで到達したフィリピンは、アジアで最もこの戦略が進んでいる国と言える。
フィリピン市場における今後の目標となるのは、長期的なパートナーシップの締結だ。「今回のイベントでは日系企業の現地法人5社にスポンサーについていただきましたが、今後はリーグ全体の長期的なパートナーさんをお迎えできれば、と考えています。Bリーグのロゴとブランドを最大限使い倒してもらって、ブランディングやマーケティングに役立てていただきたいですね」(岡本)
すでに動き出している台湾での認知度拡大
フィリピンで一定の成果を挙げた現在、リーグが次なるターゲットとしているのが台湾だ。フィリピンと同様にバスケットボール人気が非常に高い台湾は、Bリーグで活躍する台湾人選手だけでなく、富樫勇樹(千葉ジェッツ)や河村勇輝(メンフィス・グリズリーズ)といった日本人選手の人気も高い。2022年3月に開設された台湾向けのBリーグのインスタグラムのフォロワーは2.1万人(6月現在)。昨年11月、台湾出身のガディアガ モハマド アルバシール(秋田ノーザンハピネッツ)と游艾喆(滋賀レイクス)が対戦した際には観戦ツアーが組まれ、台湾から約20人のファンが駆けつけた。
滋賀でプレーする游艾喆は地元・台湾で大人気を誇る(撮影・松本龍三郎)
「我々がプロモーションの対象としている国にはいくつかの基準があって、1つはバスケットボールの人気が高いこと、2つ目はBリーグとのレベル感……要するにBリーグでプレーできる選手がいるかどうか、そして最後は日本という国に親和性を持っていること。台湾は放映権も売れたので、ファイナルが終わり次第、どんどんいろいろな提案を進める予定です。インドネシアやモンゴル、レバノンあたりにも注目していますね。いずれも国の規模としては決して大きくありませんが、いろいろな国と連携し、盛り上がりを作っていくことで、いつか大きな絵になっていくのではと考えています」(岡本)
2020年のチェアマン就任以来、一貫して海外施策を打ち出している島田慎二はここまでの歩みを振り返って言う。
「海外事業は結果が出るまでに時間がかかるものなので、経営判断的に難しくはあります。ただ、『困難があってもBリーグはグローバル戦略を強化する』と腹を決めています。放映権、認知度の向上、PR、コングロマリット(財閥企業)などのスポンサーの獲得やリーグへの出資――。全国各地のアリーナ施策の際、自治体にも『外国人観光客にとっても魅力的な試合をして、人口減少にも対抗しましょう』とお話しさせてもらっています。せっかちな私としては気をもむこともありますが、手応えを感じています」
「BリーグをNBAに次ぐ世界2位のリーグにする」。2023年7月に島田チェアマンが宣言したこの言葉を聞いた多くの人が、絵に描いた餅として受け取ったに違いない。しかし、男子日本代表の躍進や、東アジアスーパーリーグにおけるBリーグ勢の2連覇といった競技面での成果、そして今回紹介した裏方たちの奮闘によって、そこに至るまでの道筋がかなり明確に見えてきた。
岡本は「海外の関係者からは『アジアはもうBリーグだ』という風潮が生まれつつある」と話す。アジア各国と連携し、お互いの知見と財産を共有し合いながら、BリーグはアジアNo.1リーグ、そして世界へと歩みを進めていく。(文・青木美帆)