フィギュアスケート

特集:駆け抜けた4years. 2020

フィギュアの花道、20日に引退エキシビション 明治大5年・鎌田英嗣(上)

エキシビションの練習をする鎌田英嗣(すべて撮影・浅野有美)

1月末に青森であった国体は、明治大スケート部フィギュア部門5年生の鎌田英嗣(獨協)にとって忘れられない試合になった。引退試合で初めてトリプルアクセル(3回転半)に成功したのだ。日本スケート連盟の強化選手に選ばれ、ジュニアグランプリ(GP)シリーズを経験したが、シニアでは思うような成績が残せず、もがき続けた。220日には5歳から通い続けたシチズンプラザ(東京都新宿区)のリンクで、有志による引退エキシビション「HIDES ON ICE」(ヒデッツ・オン・アイス)が開かれる。実直にスケートと向き合ってきた鎌田の競技人生を2回にわけて振り返る。

【動画】フィギュア・明治大5年鎌田英嗣、引退エキシビション「HIDES ON ICE」練習風景

引退試合でトリプルアクセル成功「ドラマみたい」

1月31日、三沢アイスアリーナ。鎌田は引退試合となる国体成年男子のフリーに臨んでいた。現役最後の演技を前に、鎌田の目には涙が浮かんでいた。支えてくれた先生方、一緒に練習してきた仲間、青森まで駆けつけてくれたファン。多くの視線が鎌田に注がれていた。

冒頭はこの日のために練習してきたトリプルアクセル。高校時代から練習してきたが、大会で成功したことはない。鎌田はタイミングを確かめながら流れに乗って踏み切った。鋭い回転とともに右足が氷に着いた瞬間、「わぁっ」と大歓声が上がった。「降りた!」。フィギュア人生最後の試合で、初めて決めてみせた。「なんか、よくできてるドラマみたいだと思いました」

拍手と声援で、一瞬、曲が聞こえなかった。それでも続く3回転ルッツ-3回転トーループの連続ジャンプ、後半の3連続ジャンプなど、大きなミスなくまとめた。初のトリプルアクセル成功には「間に合ってよかった」と、心底ホッとした表情で言った。SP16位から、フリーでは118.24点の5位と巻き返し、167.98点の総合8位に入った。卒業を先送りし、納得いくまで競技人生をまっとうしようとした鎌田。やりきった気持ちでリンクを後にできた。

5歳で始めたスケート、仲間と切磋琢磨

鎌田はスケートが好きな父に連れられてシチズンプラザのリンクで滑り始めた。スケート教室に入り、川越正大コーチの指導を受けるようになった。「リンクにいけば先生方からかわいがっていただけて、それが楽しくて通ってました」

本格的にスケートに打ち込むようになったのは小学3年生のとき。同じリンクには同学年の梶田健登(23)がいた。人前で踊るのが得意な鎌田と、ジャンプはうまいが、シャイな梶田。お互いのよさを認めながら切磋琢磨(せっさたくま)してきた。

森望(左)と菅原生成(右)と談笑する鎌田英嗣

あこがれの選手は2010年バンクーバーオリンピック代表の織田信成さん。「ジャンプの高さがあって、軸がきれいで、いいな」。織田さんも戦う全日本選手権を目指すようになった。

宇野昌磨の衝撃「何をしたら60点も!」

子どものころの試合で一番印象に残っているのが、小5で出場した全日本ノービス選手権だ。鎌田は東京ブロックを勝ち進み、全国大会の切符を得た。フリーのみで競う大会で、鎌田の得点は33.85。東京ブロックでは高い点数だ。その大会で優勝したのは別のブロックから勝ち進んだ、2018年平昌オリンピック銀メダルの宇野昌磨(22、トヨタ自動車)だった。

小4だった宇野が出した得点は60.37。鎌田は目を丸くした。「何をしたら60点も出るんだ、と。スピードもあるし、軽々と踊るし、衝撃でしたね」と笑う。

エキシビションでは過去のプログラムを披露する

宇野のほかにも、大会には後に全日本選手権で争うことになる宮田大地(法政大卒)、中村優(しゅう、関西大)らがいた。「世界が広がったとき、自分はこんなに下手だったのかと残念な気持ちもありましたけど、全日本に出たという誇らしい気持ちもありました。もっとうまくなりたいという気持ちになりました」

スケートと勉強を両立 ジュニアGPシリーズに出場

中学受験をして獨協中学校から獨協高校へ進学。勉強も頑張りながら川越コーチの下で練習を積んだ。当時は男子では珍しかったトリプルアクセルも練習で跳んでいた。とくに高2の夏は追い込んだ。「アスリートのような生活をしてました。食事も睡眠も、スケートのために何ができるか、24時間ずっと考えてました」

ジャンプが安定し、いい結果が出るようになった。2013年全日本ジュニア選手権で10位。高3になると、強化選手にも選ばれ、国際舞台も経験。ジュニアGPシリーズの2戦に出た。明治大進学も決まり、順風満帆。周りも自分もそう感じていたスケート人生だったが、そううまくはいかなかった。

上の世界を知ったからこその責任感、重圧

高校生活も終わりに近づくころ、モチベーションの維持に悩むようになった。「強化選手はどの試合でもミスをしない。トップであり続ける選手はそんなヒーローのような人が多くて。自分もそうなりたかったけど、どの試合も負けちゃいけないという気持ちになって怖かった。僕は不器用だから、常に全力。モチベーション100を維持しようとしちゃったんです。100を保つのはトップ選手でも無理なのに……」

国際大会を経験し、トップの世界を知ったからこそ感じる強化選手の責任感、そしてプレッシャー。「いい成績が出なかったのに、大会で笑顔でいていいのだろうか」と、過剰な自意識も働いていた。
こうした思いが歪みとなって、大学生活を迎える鎌田にのしかった。

もがき続けた大学時代、終わりよければすべてよし 明治大5年・鎌田英嗣(下)
エキシビションの練習に集中する鎌田英嗣

20日、拠点のリンクで引退エキシビション

前述の通り、2月20日の午前9時15分~午前11時45分、鎌田の練習拠点であるシチズンプラザ(東京都新宿区)のリンクで、有志による引退エキシビション『HIDES ON ICE』(ヒデッツ・オン・アイス)が開催される。

鎌田が演じてきた「禿山の一夜」など歴代ショートプログラムのメドレー、当日来場者の投票で決める人気ナンバー1のプログラムなどを披露する。梶田、森ら同じリンクで競い合ってきた仲間の演技、川越正大コーチによる振り付けレッスン公開やトークコーナーなども。入場は無料。

出演者:鎌田英嗣、森望(明治大学卒)、梶田健登(同)、石塚玲雄(早稲田大学)、國方勇樹(日本大学)、菅原生成(東洋大学)、板井郁也(同)、坂東凜(駒場学園高校)、鈴木楽人(同)

エキシビションで共演する菅原生成(左)、森望(右)は同じリンクで練習してきた仲間だ

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