アメフト

関西学院大DL八木駿太朗 花巻東野球部から初の入部、後悔残る甲子園でQBサックを

関西学院大のDL八木駿太朗は常に全力でプレーする(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの春の交流戦が全国各地で始まっている。昨シーズン、甲子園ボウルで前人未到の6連覇を達成した関西学院大学ファイターズは4月20日、神戸・王子スタジアムで慶應義塾大学ユニコーンズと対戦し、30-7で勝った。再建色の濃いDL(ディフェンスライン)で、東北からやってきた元甲子園球児が1軍戦デビューを果たした。大谷翔平(現・ドジャース)、菊池雄星(現・ブルージェイズ)らを生んだ岩手・花巻東高校野球部出身の八木駿太朗(2年)だ。

決して途中でプレーをやめない

身長188cm、体重105kgの八木は後半からフィールドに立った。1年のときは主に控え組が出る「JV戦」の2試合に出ただけで、いわゆる1軍戦は初めてだった。最初はDLが4人並ぶ中で両外のDE(ディフェンスエンド)として、途中からは内側に入ってDT(ディフェンスタックル)でもプレーした。

迷いなくスタートを切り、がむしゃらに前へ出たが、まだフットボール歴1年で筋力もクイックネスも発展途上。慶應のOL(オフェンスライン)陣を打ち破れなかった。相手キャプテンのOL石塚大揮(4年、慶應義塾)を下手投げのような形で押しのけようとすると、石塚は揺るがず、逆に八木が倒された。

慶應のOL相手に苦戦するシーンもあった(撮影・北川直樹)

サック寸前まで迫ったプレーもあったが、記録上は一つのアシストタックルで「0.5タックル」。ただ目についたのは、決して途中で力を緩めることなくプレー終了の笛が鳴るまでボールキャリアーを追い続ける姿勢だった。どんな当たりでも必ず一塁まで全力疾走する花巻東の魂をそこに見た気がした。試合後に八木は「最初はふがいないというか、相手のオフェンスに対応できなかった部分がありました。少しずつ対応して何回かサックのチャンスもあって手応えはあったんですけど、最後はバテて足が動かなかったし、細かいところを詰め切れなかったのがこれからの課題だと思います」と語った。

中学時代は陸上競技の大会にも出ていた(撮影・北川直樹)

3年春の選抜高校野球大会でスタメン出場

盛岡市で生まれ育った。小学3年の終わりに野球を始め、中学は学校の部活で軟式野球。ファーストとキャッチャーだった。一方で陸上の大会にも出て、県大会の110mハードルで上位に入った。花巻東に入学するときにはすでに身長が187cmあった。外野手に転向し、レギュラーは取れなかったが、13番をつけて臨んだ3年春の選抜大会初戦の市立和歌山戦で公式戦初スタメン。6番ライトで出て、2打数無安打で途中交代となった。試合は4-5で負けた。「自分のミスで失点したのもあって、甲子園には後悔が残ってるんです」と八木。夏はけがの影響もあってベンチ入りできず、チームは岩手大会で敗退した。

2022年春の甲子園で右翼線への打球に飛びつくが、捕れず(撮影・朝日新聞社)

2年生の9月ごろ、野球部の佐々木洋監督から「関西学院のアメフト部から話が来てるぞ」と言われた。八木は「監督は冗談半分みたいな感じだったんですけど、僕は大学から新しいスポーツに挑戦してみたいと思ってたので、いい機会だと思いました」と振り返る。アメフトを見たことはなかったが、ラグビーは好きで、よく試合を見ていたという。

もともとは数年前、ファイターズOBからの紹介で大村和輝監督が花巻を訪れ、佐々木監督に会ったところから始まっている。その話の中で大村監督は「でっかいアスリートか、小さくてめちゃくちゃ速い子がいたら教えてください」と佐々木監督にお願いした。佐々木監督は「分かりました。ウチの子は人間的には大丈夫ですから。そこは自信持ってます」と話したそうだ。もともと佐々木監督はプロや社会人で通用する選手以外には、大学で別の競技への転向を勧めるスタンスの人だった。

こうして佐々木監督から大村監督に八木を推す連絡が入った。「大きくて足も速くて運動能力が高い子がいます。でもプロや社会人のレベルじゃない。どうでしょうか」と。ファイターズ側は勧誘することに決めた。前述のように八木はこの話に前向きで、3年の11月に推薦入試に合格。野球部の引退後から取り組んだ筋力トレーニングで下地をつくり、関西へやってきた。

関学の大村和輝監督は八木のまっすぐな向上心を買っている(撮影・北川直樹)

メンタル的にはオフェンス向き

昨年はもっぱら関学オフェンスの練習台として過ごした。甲子園ボウルで6連覇して新チームが始まると、3人のスターターが抜けたDLの競争が始まった。大村監督は八木についてこう話す。「メンタル的にはオフェンス向きなんです。まじめに逃げずに頑張る。ディフェンスっぽい荒々しさはないんですけど、一生懸命やるんでプレー自体が勝手に迫力が出てきたりしてます。このまま頑張ってもらえたら、すごくよくなると思います。もちろん秋には出てきてもらわないといけない。だから春はJV戦も含めて全部出すつもりです」

アメフトの難しさについて問われ、八木はこう表現した。「自分の責任ミスで場合によってはすべてが崩れてしまうってことを考えると、責任のスポーツだなと感じてます。でもアグレッシブにいかないと、もっとよくない結果が生まれてしまう。今日の試合でも感じました。このチームは日々の練習でファンダメンタルにこだわるので、やっぱりそれが試合につながっているんだと思います」

昨年の4年生DLだった今村優斗さんから62番を受け継いだ(撮影・北川直樹)

八木は2022年の年間最優秀選手で今春卒業したトゥロター ショーン礼さん(現・オービック)に憧れていて、DEとしてショーンのような選手になりたいという。そして62番はショーンの同期の今村優斗さんから受け継いだ。今村さんも関学高等部時代は野球部だった。DLとして期待されながら、けがでラストイヤーは選手としては出られず、後輩の指導をしていた。「ほんとにお世話になった人です。今村さんに62番になったという連絡をしたら、『お前がつけてくれてうれしい』と言ってくれました」。八木が笑顔で教えてくれた。

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アメフトでも生きる花巻東で学んだこと

花巻東で学んだものは、アメフトでも生きている。「気持ちの部分では高校のときからつながってる部分はあります。そういう部分ではほかの人にはまだ負けてないというか、感情を表に出す性格じゃないんですけど、高校時代に培ったやりきるとか根性はあるほうだと思ってます」。佐々木監督とはLINEで連絡をとっている。アメフトの面白さやファイターズという集団のすばらしさに共感してくれているのが伝わってくるという。

八木にとってメジャーリーグで活躍している花巻東の先輩たちはどんな存在なのか。「高1のときから菊池雄星さんと大谷翔平さんの話はずっと聞いてました。口では何とでも言えるんですけど、行動が難しい。自分たちも同じ環境で高校時代を過ごしたと考えると、すごいなと。どうしても妥協してしまうところがあると思うんですけど、菊池さんや大谷さんは、自分を律して3年間やれたのがさすがだなと思います」

関西で暮らし始めて、関西弁の「強さ」に驚いたという。「最初はみんな怒ってるのかと思った。そうじゃないことが最近分かってきました」と笑う。関学にある東京庵(通称・とんきん)の焼きうどん定食がお気に入りだ。「炭水化物と炭水化物をセットで食べるのはびっくりしたんですけど、好きですね。パスタも食べて、入学してから8kgほど増えました。ここから110kgまで筋肉で増やしたいです」

プレー面で目指すのは、DLの勲章であるQBサックだ。「ハードにぶつかっていくプレーを見せたいです」。忘れ物がある甲子園でサックを決めるその日まで、八木はやりぬく。

この春シーズンで頭角を現したいところだ(撮影・篠原大輔)

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