早大・水町泰杜、巡り合えた仲間のために戦った4年間 早稲田スポーツ卒業記念特集2
早稲田大学の水町泰杜（4年、鎮西）は高校時代からエースとして活躍し、大学入学前からその名は全国で知られていた。1年時からスタメンとして、そしてラストイヤーは主将として早大バレーボール部の支柱となってきた。世代を代表する選手でありながらも、周囲からの評価に慢心することなく、常にチームのために高みを目指し続けた水町の4年間を振り返る。
「体が震えた」3年時の全日本インカレ
水町のバレーボール人生は小学1年生の時に幕を開けた。中学時代にはJOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会で熊本県選抜入りを果たすなど、着実に経験を積んできた。鎮西高では1年生ながら全日本バレーボール高等学校選手権大会（春高バレー）にスタメンで出場。日本一をつかみ取る決勝点を挙げた。しかし、最後の春高バレーは準々決勝敗退。試合後は「もっとバレーがしたかった」と涙した。
水町の進路に多くの注目が集まる中、鎮西高の畑野久雄監督の勧めと、環境面から早大への進学を決め、新たなバレーボール生活をスタートさせた。入学当初は「試合に出ること」を目標としたが、新型コロナウイルスの影響により、試合のみならず、練習もできない状況に。練習が再開されると、多くの選手が入学後に苦戦する高校と大学のバレーのシステムの違いにも徐々に慣れていった。
新型コロナウイルスの影響が落ち着いた3年時は、日本代表の活動で部を抜けていた大塚達宣（現・パナソニックパンサーズ）に代わり、水町がチームを牽引（けんいん）した。主力選手が欠けたことで水町はプレッシャーを感じたのかと思いきや、「レギュラーがいなくても、（試合を）できるメンバーで最善を尽くす」と、前を向き続けた。
しかし、結果は春季関東大学リーグ戦（春季リーグ）、東日本大学選手権（東日本インカレ）、秋季関東大学リーグ戦（秋季リーグ）とも無冠。そして全日本大学男子選手権大会（全日本インカレ）は3位。「4年生のために」と全日本インカレ優勝を目指していた水町にとって、この敗戦はあまりにも悔しいものとなった。激闘の準決勝はフルセットまでもつれ込み、迎えた最終セット。水町にトスが集まったところを相手にマークされ、立て続けにブロックに捕まる。普段は緊張しないという水町だが、この時は「本当に体が震えた。俺が4年生を終わらせてしまう」と感じた。試合後には「託されたものの重みがすごく、最後思いにこたえられなくて、ものすごく悔しかった」と振り返った。
集大成の大会、失ったのは1セットのみ
「去年のような思いを後輩にさせないように」と挑んだラストイヤー。その思いの通り、早大は春季リーグ、東日本インカレ、秋季リーグ、全日本インカレを制し大学バレー四冠を果たした。結果だけを見れば、早大はまさに「圧倒的王者」。しかし、その道のりは決して平坦（へいたん）なものではなかった。
最後の1試合を残して、早くも優勝を決めた春季リーグ。この時点での目標は「全勝優勝」だった。しかしリーグ戦最終日、全勝優勝まであと一歩のところで中央大学に阻まれた。試合後に水町は「後輩にいい思いをさせたかった」と悔しさをにじませながら、約1カ月後に迫った東日本インカレに向けて冷静に課題を分析した。
東日本インカレの課題として残ったのは、準決勝の明治大学戦だ。4年生が大会直前まで教育実習でチームを離れていたこともあり、リーダーシップを発揮することができず、松井泰二監督からは4年生に向けて「だらしない」と厳しい言葉がかけられた。
下半期最初の公式戦となった秋季リーグは、所々でチームとして点を取り切ることができず、水町にトスが集まることも多かった。それでも主将の意地を見せ、チームを全勝優勝に導き、全日本インカレに向けて勢いをつけた。
そして迎えた集大成の全日本インカレ。この1年間は、大学バレーの頂点を取るために苦しいことも乗り越えてきた。水町自身もこの大会にかける思いは強く、今まで以上に同期や後輩を勝たせたいと感じていたという。そのためか、試合ではところどころで水町らしくない荒いプレーが見られた。「どこかでプレッシャーを感じていたのかもしれない」。後にそう振り返った。それでも水町だけでなく、同期や後輩、一人ひとりが役割を全うした結果、失ったセットは慶應義塾大学戦の1セットのみ。残りはすべてストレート勝利で日本一になった。
卒業後はインドアとビーチの二刀流に挑戦
大会を通して水町の打数は、これまでに比べると少なかった。それでも「同期や後輩が輝いてくれれば、僕はそれでいい」と仲間の活躍を喜んでいた。水町がたびたび口にしてきた「仲間のために」という言葉。苦しくても戦い続けたその原動力は「巡り合えたいい仲間を勝たせたい」という思いだ。特にこの1年間は、チームの柱という役割ゆえの苦しさもあった。しかし、いつでも一緒に戦ってくれた仲間と最高の景色を見ることができ、やりがいを感じた1年でもあったという。
学生バレーを引退した水町はVリーグDivision1所属のウルフドッグス名古屋（WD名古屋）とトヨタ自動車ビーチバレーボール部に所属し、インドアとビーチバレーの二刀流に挑戦する。すでにWD名古屋ではたびたび試合に出場、活躍し、存在感をアピールしている。Vリーグ初の二刀流という挑戦に向けて「インドアもビーチも、バレー界に少しでも影響を与えて盛り上げたい」と語った水町。そんな水町が目指す人間像は「周りの人から信頼されて、必要とされる人間」。すでに達成しているともいえるが、決してここで慢心しない。そんな彼はこれからも、その名をバレーボール界に刻んでいくだろう。
は全力で学生スポーツを応援します。
