リケジョがラクロスにあこがれて 慶應・吉岡美波(上)
連載「いけ!! 理系アスリート」の第4弾。主人公は慶應義塾大学女子ラクロス部の吉岡美波(4年、大妻多摩)です。ラクロスと理工学部での研究を両立する彼女を2回にわけて紹介します。
研究も部活もバイトも
慶應女子ラクロス部は昨年、全日本選手権で日本一に輝いた。あす9日には再びの頂点を目指し、社会人クラブチームのNeoと相まみえる。この慶應チームのAT(アタッカー)として活躍するのが吉岡だ。
彼女は理工学部管理工学科で、IE(インダストリアル・エンジニアリング)と経済性工学の理論を研究している。ピンと来ないが、例えば工場や倉庫にどのシステムを組み込んだら効率的かつ確実に運営できるか、といったプログラミングを考えて検証、分析するのだそうだ。
3年春期の授業スケジュールを見せてもらった。週2日は9~18時まで授業がみっちり、さらに9時~もう少し早めの夕方まで埋まっている日も週2日あった。毎週提出を迫られる実験や研究レポートをこなしながら、週5日の部活動。そのうえアルバイトまで。理工学部には毎年留年する人も多いようだが、吉岡は卒論を残すのみ。来年3月の卒業はほぼ確実だ。
そんな吉岡はラクロスでも要領のいいプレーをする。慶應AT陣のなかでは、どちらかというとガツガツいく方ではない。空いたスペースにスルッと入り込み、パスを受けて決める。全日本大学選手権決勝の関西学院大戦でも、関東ファイナルの青山学院大戦でも、一瞬のスキを突いてゴールを決めた。とにかくパスキャッチがうまい。「走るのは速くないんですけど、ラクロスを始めたころから取ること投げることに抵抗がなかったんです」と笑う。
ラクロスは高校までのつもりだった
大学からラクロスを始める人がいる一方で、吉岡のラクロス歴は長い。中学生のときに「強い部活、厳しい部活に入りたい」と選んだのがラクロス部だった。彼女が6年間を過ごした大妻多摩中学高等学校は、中学からラクロス部がある数少ない学校だ。ラクロスは部活としての絶対数が少ないため、「全国中学校高等学校女子ラクロス選手権大会」とあるように、高校生にまじって中学生も出場する。中2のときに吉岡は高校生と肩を並べ、大妻多摩のトップチームのメンバーとしてフィールドに立った。そこから3年連続で全国準優勝を経験。中学生と高校生の体格差は大きいが、レギュラーとして出場することも多かったという。
「何でもやるからにはうまくなりたいと思ってます。中学生のときは何をしたら試合に出られるか、活躍できるか。いま自分がやるべきことは何か。いつも考えてました」。かなり芯のある人だ。小学生のときに水泳を始めたのは、同級生が泳げるのに自分だけ泳げないのが悔しいからだった。中学受験をしたのも、頭のいい友人たちに置いていかれたくないからだった。そういった気持ちだけで終わるのではなく、集中して努力できるのが吉岡の強さなのかもしれない。
ただ、ラクロスは高校で終わりにしようと思っていた。大妻多摩は受験に集中させるため、部活は基本的に2年生までだ。最上級生として臨んだ2年秋の関東大会。結果はベスト8。全国への切符をつかめなかった。「悔しかったけど、先輩たちがいないと勝てないということは、自分に才能がないのかなと考えました」。ラクロスはもういい。吉岡がそう思った瞬間だった。
あとは受験勉強に励んだ。目指したのは国立大学。しかもラクロス部のない学校だ。ラクロスとは距離を置こうとした。でも、ラクロスに対する情熱はくすぶっていた。気になって見に行った2013年の全日本大学選手権決勝の慶應vs関学。慶應が11-2で勝った。ここで吉岡はまたラクロスに、慶應のラクロスに魅了された。「決勝であれだけ強さを見せつけて勝つ。すごい! 本当にかっこいい! 喜んでいる姿もかっこいい! って。慶應でラクロスやりたいなと思っちゃったんですよね」
その衝撃は大学受験にも影響を与えるほどだった。予備校でも国公立コースにいたが、私立に変更。慶應に絞った。そして現役で合格。念願の慶應義塾大学女子ラクロス部の一員となり、あこがれのユニフォームに袖を通すことになった。