陸上・駅伝

連載:いけ!! 理系アスリート

医学と800m「完璧主義である必要はない」 秋田大・広田有紀(下)

5年生になって実習も増え、より具体的に医者を意識するようになった

連載「いけ!! 理系アスリート」の第3弾は、秋田大学医学部で幼少期から思い描いていた医者を目指す傍ら、「陸上の格闘技」とも称される800mに挑む広田有紀(5年、新潟)。前回の(上)に続き、5年生になったいま、広田が思い描く“二刀流”についてです。

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2020年の自分が描けない

広田は3年生で挑んだ日本選手権でブレイクスルーを果たし、翌年の日本選手権でも2分5秒01の自己ベストで準優勝。さらに5年生の日本選手権でも、2分4秒33の自己ベストを記録して4位入賞を果たした。陸上への思いがさらに強くなった広田だが、学年が上がるにつれ、医学生ならではの大変さを知ることになった。5年生からは「Student Doctor」として各診療科・診療部門を巡るようになり、現場で働く医師や患者と接する機会が増えた。「正直、医学部をやめたいな」と思うこともあった。

付属病院などで研修医に話を聞くほか、診療チームの一員として臨床実習にあたる日々。長時間にわたる実習では、いままでの座学とはまったく違う疲労を感じた。まだ学生とはいえ、目の前にいる患者への心配りや看護師への気遣いも欠かせない。つらいと感じることもあったが、環境は違えど、母も通った道だ。このごろの母との電話は悩み相談が多く、いつも「でも、頑張るよ」と電話を切るのだという。

実習の悩みを母にも相談。「私もつらかった」と聞いて、少しホッとした

5年生のいま、医学部の同期の多くは卒業後の研修先を決めるため、病院見学に行っている。早い人だと夏から動き始めたそうだが、そのころの広田は9月のインカレに向けて追い込んでいる最中だった。2年後には東京オリンピックがある。いまは陸上がしたい。20年に医者になっている自分の姿を想像できず、その研修先を決めることもあまり考えられず、漠然と悩んでいる。一緒に走ってきた同期もすでに病院見学を始めている。

もちろん、母にも相談した。「陸上やめてもいいんじゃない?」と言われ、「だったら陸上をとりたい」と言い返すこともあったという。大学を休学し、その1年だけ陸上に集中してもいいのでは、とも考えた。でもその場合、どんな環境で練習を積めばいいいのだろうとまた悩む。広田はいま現在も悩んでいる。

陸上やっててよかった、と思えるように

昨年までは「目標は東京オリンピック」と言いきっていたが、このごろは考え方を改め、チャレンジする気持ちを大切にしている。アジアの選手と走る機会が増える中で、陸上一本にすべてをかけて挑んでいる海外の選手の姿に触れ、広田は自分の“二刀流”でどこまで挑めるんだろうと考えるようになった。陸上にかける想いの強さに差を感じた。それでも、この“二刀流”で戦ってきた時期成長を自信にして、これでどこまで戦えるかチャレンジすることにした。「大目標を立てすぎると、自分のメンタルがきつくなって、苦しくなってしまうなって思ったんです。だから、最後まで陸上をやっててよかったと思えるようにまっとうしたい。その過程の中に東京オリンピックがあったらうれしいな」。不安げだった広田の顔に笑みが戻った。

また学年が上がるにつれ、後輩から陸上に関する相談を受ける機会も増えた。具体的なアドバイスにまでならなくても、話を聞いてほしいという選手を支えられるような言葉をかけられたら。「そんな経験が医者という仕事に生きてくるんじゃないかな」と広田。苦しんできた広田だからこそ、伝えられる言葉や思いもあるだろう。

今シーズンはいろんな大会に出場し、自分の成長を一番実感できた年だった。冬季練習中のいま、ソウル五輪3000m障害銅メダリストであるマーク・ローランド氏の中距離指導者研修会にも参加しながら、自分に合ったトレーニングを模索している。来シーズンの目標は、タイムを出し、大舞台にどんどん立つこと。東京オリンピックに向け、ポイントに関わるような試合に呼ばれるように力を蓄えたいと意気込む。まだ果たされていないインカレ優勝も大きな目標だ。

自分に合った冬季練習を求め、中距離指導者研修会にも参加した

最後に、“二刀流”で悩んでいる人に伝えたいことを聞いた。「まず、自分をほめてあげることが大事。それに加えて、自分を追い込みすぎないこと。どちらも完璧主義である必要はない。両方中途半端だって悩むんじゃなくて、いまは重きをこっちに置いてみようとか、考え方を柔軟にして、もう少し楽に、楽しくやってほしい。無理しすぎないように」。広田自身もその言葉を自分に投げかけながら、いま、大きなふたつの夢を追いかけている。

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いけ!! 理系アスリート

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