ラグビー

連載:いけ!! 理系アスリート

全部一生懸命、何でも楽しく 慶大・古田京(下)

古田は左足のプレースキックも正確だ(撮影・斉藤健仁)

日本のラグビーのルーツ校であり、1899年創部の慶應義塾體育會蹴球部(慶應義塾大学ラグビー部)の長い歴史の中で、初の医学部生キャプテンとなったSO古田京(きょう、4年、慶應)。移動中の電車の中でも勉強して勉強とラグビーを両立させてきましたが、ここまでの3年8カ月ずっと順風満帆だった訳ではありませんでした。

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解剖実習とスタンドオフ

古田が「二度とできないですね」と振り返る時期がある。大学2年の秋だ。レギュラーのSOとして対抗戦でタイガージャージーの10番をつけて試合に出場し始めた時期と、医学部で解剖実習の始まる時期が重なってしまった。

2年前の11月23日、早稲田との伝統の一戦である「慶早戦」で後半38分、やや集中力を欠いた古田がペナルティーゴールを外し、23-25で負けた。「僕のミスで負けた試合もありましたけど、医学部の授業でヘロヘロの状態でも試合に出してくれました。金沢ヘッドコーチや当時の4年生が、最後まで支えてくれました」と、いまでも感謝を口にする。

3年になると実習のある日々にも慣れ、古田はSOとしてチームを引っ張った。慶應は大学選手権9連覇を達成した帝京大には対抗戦で3点差の惜敗を喫したが、選手権準優勝の明治には勝ってみせた。今年は古田を含め、慶應義塾高時代に花園に出場した主要メンバーが4年生となり、十分に対抗戦、大学選手権で優勝を狙える位置にいる。そして古田は、勉強にもラグビーにも打ち込む姿を同級生から評価され、キャプテンに就任した。

古田にはキャプテンになってから気をつけていることがある。どうしても自分の意見をたくさん言ってしまいがちだが、「みんながリーダーになれるような人になってほしいので、僕はあまりしゃべりすぎないように意識してます」と古田。そんな古田に対して金沢ヘッドコーチは「仕切るタイプだと思ってましたけど、周りを巻き込むようにコミュニケーションをとりながら、いいバランスでやってます」と信頼を置く。

昨年の慶早戦は2点差、大学選手権準々決勝の大東文化大戦は5点差という惜敗だった。一昨年も負けた試合は最大でも11点差。大敗はしていない。それは裏を返せば、慶應は接戦に弱いということにもなる。そこで古田を中心とするリーダー陣は、ラグビーの質をもっと上げるとともに、「毎日一生懸命やる」「どんな試合でも勝ちにこだわる」「細部にこだわる」という3つのテーマを1年間貫くと決めた。帝京戦ではまた惜敗したが、成果は慶明戦の勝利に出た。

日本一は2人の夢、慶應の夢

中学時代から慶應で一緒に楕円球を追ってきた副キャプテンのLO辻雄康やWTB/FB丹治辰碩は、大学卒業後にトップリーグへと進み、ラグビーに専念して、日本代表、そしてワールドカップを目指す。一方、古田は医学部の5年、6年でも大学の試合に出ることは理論的には可能だが、5年は臨床実習、6年医師国家試験の準備と多忙なため、トップレベルでラグビーに取り組むのは今年で終わりと覚悟を決めている。

「辻や丹治は先を見ていて、すごくレベルを上げてますし、世界を見ているのでカッコいいなと思います。ただ、ラグビーを続けるなら、すべてを賭けないと日本代表にはなれない。いまは慶應で、チームメイトとともに、プレーヤーとしてもリーダーとしても一生懸命がんばることに魅力を感じています」(古田)

エースの丹治は「古田が練習中もオフフィールドでもいい感じで引っ張っています」と語る。副キャプテンの辻は「古田は『何が何でも勝つ』という意識が強く、それが連鎖してチームが一つになってる。中学校から一緒にやってきて、今年は何がなんでも結果を出したい。日本一は2人の夢であって慶應の夢でもあるので、今年こそ実現させたい」と語気を強めた。

キャプテンSO古田(左)と副キャプテンLO辻が慶應を引っ張る(撮影・斉藤健仁)

もちろん慶應の目標は大学選手権で帝京の10連覇を阻止し、1999年度以来となる優勝を達成することにある。古田もキャプテンとして、今年に賭ける。「日本一を狙える位置にいると思いますし、いかにそれを追求できるか。今年は授業も実習より講義が中心なので、両立に問題はありません。ラグビー部にも医学部にも迷惑はかけてないと思います」。過去2年よりも競技に集中できている。

ラグビーに関わっていきたい

古田は時間があれば、ほかの人よりグラウンドに早く来てゴールキックの練習をする。全体練習後、夜は勉強だけでなく、海外の代表選手のプレーを見たり、対戦相手のビデオを見て分析したりもする。準備を大事にし、目標に対して少しずつ取り組んでいく姿勢は勉強でもラグビーでも変わることはない。

将来はまだどの分野の医者になるかは決めていない。「ラグビーはコンタクトスポーツなので、整形外科はなじみが強いですが、本当にまだ将来はわかりません」と話す。ただ、ラグビースクールでも指導にあたっている父親の十(じゅう)さんのように、何らかの形で将来はラグビーに関わっていきたいという。なお十さんは「自分を超えてほしい」との思いから、漢字の単位の京(けい)にちなみ、息子を「京(きょう)」と名づけた。

いろんな人のおかげで、古田は究極の文武両道ができている(撮影・松嵜未来)

最後に古田は、自分と同じように大学の理系学部で勉強しながらも体育会で文武両道を貫きたいと考えている後輩たちに向けて語った。「勉強とラグビーと両方やりたい人がいたら、あきらめないでほしい。体育会でラグビーをやることは簡単なことではないですし、医学部で勉強することも大変です。ただ、いろんな人の支えがあったからなんですけど、僕もできてるので一生懸命やればできます!!」

古田のモットーは、「全部一生懸命、何でも楽しくやる」。練習でも、試合でも、勉強でも困難なときほど笑って楽しくやろうと心がけている。「勉強もラグビーも充実してます。楽しいです!」。この取り組み方こそが、ラグビー部と勉強を両立できている最大の要因なのかもしれない。

いよいよラグビーシーズンは佳境を迎えようとしている。慶應は11月23日に「慶早戦」、そして12月、1月には大学選手権を控える。「チームメイトのみんなと優勝したい」。18年間のラグビー人生の集大成として、古田は慶應を19年ぶりの大学日本一に導けるか。

文武両道で奮闘する選手たちを紹介。連載「いけ!理系アスリート」その他の記事はこちら

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