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ラグビー 明治、慶應に苦杯 PR祝原「借りは返す」

並々ならぬ闘志で慶大に挑んだPR祝原(中央) (撮影・谷本結利)

関東大学対抗戦グループA

11月4日@秩父宮ラグビー場
慶應義塾大(4勝1敗) 28-24(前半21-12)明治大(4勝1敗)

「紫紺」と「黒黄」。伝統の一戦は聖地秩父宮に15157人の観客を集めた。
試合開始早々から明治は慶應の前に出るディフェンスでペースをつかまれて、先制トライを許す。重量FWの明治が相手スクラムにプレッシャーをかけてトライを奪うも、相手ペースは変わらず12-21で前半を折り返す。後半は明治の能力の高いBK陣が2トライを挙げて21-24と逆転するものの、後半36分、スクラムを起点に慶應のNo.8山中侃(4年、慶應)に逆転トライを許し、そのまま24-28でホイッスルが響きわたった。

因縁の始まりは高3の花園予選決勝

ノーサイド直後、紫紺の3番は曇天の空を仰いだ。対抗戦では自身最後となる慶應戦に、PR祝原涼介(いわいはら、4年、桐蔭学園)は昨年に続いて僅差で敗れた。
祝原は高3の秋、花園出場をかけた神奈川県予選決勝で、現在の慶應の主力メンバーが揃っていた慶應義塾高に敗れている。昨年も惜敗した「タイガージャージ」は因縁の相手であり、「対抗戦の中ではやはり、慶應戦にフォーカスしてました」と振り返る。

祝原の気合の入りようは、プレーからビシビシと伝わってきた。明治のFWは後半10分まで5度あった慶應ボールのスクラムすべてにプレッシャーを与え、4度のターンオーバーやペナルティーでボールを奪い返す。しかし後半10分、慶應がHOと右PRを同時に入れ替えると潮目が変わる。後半36分、慶應ボールのスクラムで明治はまたターンオーバーを狙いにいったが、左に回って相手にトライを許した。祝原は「もっとまっすぐ押せばよかった。今年も慶應に勝てなくて残念です」と悔やんだ。

身長184cm、体重113kgとチームでも1、2を争う巨漢の祝原は、福岡で生まれたときから4050gと大きかった。ラグビーの強豪チームを持つ企業の系列会社で働いていた父が思い立ち、3歳から筑紫丘RCジュニアスクールに通わせる。父は170cm、母も160cmほどと特別大きくはなかったが、祝原はすくすく成長していった。
「寝るのが好きだったかもしれません。中学時代に少しだけCTBをやったことがありますが、基本、ずっとPRですね」。祝原が苦笑いしながら言った。

なお祝原のジュニアスクールの同級生には法政のスクラムリーダー、PR土山勇樹(4年、東福岡)がいた。一緒にU17とU20の日本代表に入り、一緒に世界の舞台でも戦った。いまもライバル関係は続いている。小6で神奈川に引っ越した祝原だが、中学ではバスケットボール部に所属しながら、田園ラグビースクールで競技を続けた。
 
高校は「自転車で10分」という神奈川の強豪、桐蔭学園に進学。2年時は花園で決勝を戦った。ただ高校時代はルールで1.5mしかスクラムが押せないこともあり、桐蔭学園ではPRにもフィールドプレーを徹底的に教え込んだ。それが現在、祝原のハンドリングの上手さやボールキャリーに生きている。一方で、高校時代はスクラムには目覚めなかった。

桐蔭学園高時代に鍛えたハンドリング (撮影・谷本結利)

スクラムに目覚めたきっかけ

祝原がスクラムの奥深さ、難しさ、そして楽しさに気づいたのは明治に入ってからだった。当時、PRの先輩には植木悠治(現ヤマハ発動機)、塚原巧巳(現神戸製鋼)、須藤元樹(現サントリー)らがいた。練習でまったく歯の立たなかった経験が、糧になった。さらに昨年から明治OBで元リコーの瀧澤佳之コーチがスクラムを指導しているのも大きい。
「瀧澤コーチが来てから、FW前3人だけでなく、バックファイブも含めてFW8人一体となったスクラムを組めるようになった。後ろの5人からも(前3人に対して)どうしてほしいか言ってくるようになりました。スクラムコーチがいるといないで全然違います。やりやすいです」と、祝原は喜ぶ。

8対8の試合形式で組みこむ時間は、以前よりも相対的に減ったという。週に1度、40分くらいになった。それでもFWは毎日スクラムの基本姿勢を必ず確認し、瀧澤コーチの細かい指導の甲斐もあり、この2年でチームの武器と言えるほどに強くなった。春、夏に大学選手権V9中の帝京大に連勝した大きな要因も、スクラムにあった。

祝原自身もフィジカルトレーニングに真面目に取り組みつつ、以前は毎食に1パックそのまま飲んでいた牛乳を、毎食オレンジジュースをコップに1杯と牛乳2杯に変えた。食事面、栄養面にも気を遣うようになり、体重は変わらないものの体脂肪率は大学4年間で28%から20%に減り、筋肉量が増加。祝原は「本当は1番をやりたい」と言うが、チームからスクラムの要である3番を任さているというわけだ。

スクラムの要「3番」を任されている祝原 (撮影・谷本結利)

現代ラグビーではスクラムが重要視されているが、やはり、スクラムだけでは勝てない。「重要な場面でラインアウトのミスでトライされたり、ゴール前でノックオンしたりしたのはFWの責任です。BKにいいボールを供給すればトライを取ってくれるのに……」と、4年生FWとしてスクラム以外のプレーで責任をまっとうできなかったのを悔やんだ。

しかし、今年こそ頂点を目指す紫紺のジャージーは1回の黒星で歩みを止めるわけにはいかない。対抗戦はまだ2試合残っており、自力優勝の可能性もある。

11月18日には大学選手権V10を目指して対抗戦で開幕5連勝中の王者帝京と、12月2日は4勝1敗となった早稲田と対戦する。帝京、早稲田もスクラムに力を入れているチームで、祝原は「相手が対策をしてくると思うのですが、対策されても押し切れるスクラムを組みたいです」と意気込む。

来春からトップリーグでプレーすることが決まっている祝原の夢は、ラグビーワールドカップ出場である。2019年大会への出場は難しくなったが、2023年大会はまだまだ可能性はある。「スクラムワークは未熟な方なので、トップリーグで強くなりたい!」とさらなる成長を誓う。

「1日1日の練習、1回1回の試合を大事にしたい」と祝原。明治が最大のターゲットにする来年1月12日の大学選手権決勝まで、残り10週ほどしかない。ただ、祝原は「慶應に負けたままでは終われない。大学選手権でもう1回、慶應と対戦して僕の中での借りを返さないといけない」と、再戦を心待ちにする。

趣味は海釣り、座右の銘は「粉骨砕身」だ。祝原が黒子となり、近場ではボールキャリアーとして前に出て、セットプレーからはBK陣にいいボールを供給するのが、紫紺の22年ぶりの王座奪還につながっていく。

22年ぶりの王座奪還に向け、残りの対抗戦、大学選手権での奮闘を誓う祝原(中央) (撮影・谷本結利)

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