明治の大型ルーキー・児玉樹は常に「チームファースト」、自分の成長がチームの成長に
関東大学対抗戦Aグループ
9月30日@江戸川陸上競技場
明治大(2勝) 31-17(前半24-0) 日体大(2敗)
雨中の試合は、昨年度の大学選手権準優勝の明治が前半からスクラムで圧倒した。ハーフ団はキックを交えてゲームをコントロールし、前半だけで4トライを重ねて24-0とリード。後半は日体の前に出るディフェンスに苦しんだが、キャプテンのSH福田健太(4年、茗渓学園)のトライもあり、31-17で勝った。
相手が前年度6位の日体ということもあり、優勝候補の一つである明治は23人のメンバーに5人の1年生を入れた。その中で1年生の中では唯一の先発出場を果たし、紫紺の12番を付けて対抗戦初スタメンとなったのが児玉樹(いつき、秋田工)。身長192cmのイケメンCTBだ。
将来のジャパン候補が新人らしからぬアタックを披露
今年ヘッドコーチから昇格した元日本代表SHで明治OBの田中澄憲監督は「スケールの大きな選手なので、対抗戦という公式戦を経験してもらって成長してほしい」と、児玉を抜擢した理由を語った。
6歳から秋田市エコー少年ラグビークラブに入った児玉は、大型BKとして将軍野中時代から将来を嘱望されていた逸材で、秋田工業高2、3年時は花園でも躍動。この1年半でU18日本代表、高校日本代表、さらにU20日本代表にも選出された。まぎれもなく将来のジャパンを担うと目される選手のひとりだ。
春からすでにAチームの試合に出ていた児玉は、対抗戦の初戦もリザーブから出場した。ただ、この日は対抗戦初先発だったため、試合前の練習からカタさがあった。「対抗戦はチームが目指す大学日本一につながっているので、緊張が全然違った。でも明治のスタメンに立つ選手として、ピッチに立ったら堂々とプレーしないといけないと思いました」
紫紺の12番は、児玉にとって特別な意味があった。昨年まで明治でプレーし、日本代表候補合宿にも招集されたCTB梶村祐介(現サントリーサンゴリアス)がつけていた番号だからだ。児玉は明治に入学した後、梶村と食事をした。そのとき、苦手なプレーこそどんどん挑戦して、短い時間の中でも練習に集中しないといけないという話を聞いて、「心構えが変わった」という。
「今日の試合ではずっと尊敬している梶村選手の番号を着させてもらって、特別な思いがあったし、気持ちが高ぶっていました。だからこそアグレッシブにプレーしないといけないと思いました」
その言葉通り、試合開始早々から新人らしからぬアタックを披露。ボールを持つと、果敢に縦へと切り込んだ。児玉はコーチ陣から、「ボールをゲインラインより前に運ぶという自分の強みを出せれば、チームに一番貢献できる」と言われているそうだ。
いつもは浅めの位置でボールをもらっていたが、この日は雨。「ギリギリでもらうのではなく、早めパスをもらって勝負する」という意識を強めた。それが役に立ったのは、前半20分のこと。児玉はパスを受けると、やや角度を変えて走り込み、ディフェンスラインをブレイク。そして相手を引きつけてラストパスし、FL石井洋介(3年、桐蔭学園)のトライにつなげた。
ディフェンスでは、児玉はインサイドCTBではなく、アウトサイドの位置に立った。キーマンだと認識していた日体の15番に対して前に出続け、高校時代にくらべて明らかに大きくなった上半身をぶつけた。体の変化について、児玉はこう語った。「大学で絞れました。体重は101kgで変わらないですけど、体脂肪率は15%から9%になった。毎日筋トレして、動きやすい感じになってます」
前半は日体のキャプテン、FB中野剛通(4年、天理)の勢いを止めた場面もあったが、後半はミスタックルもありピンチを招いた。「大学でディフェンスを教えてもらってよくなってきたんですけど、ミスは自分の責任です。練習から強い相手を想定して、次にチャンスがあれば相手のキーマンを1発で倒せるようにしたいです」と先を見据えた。
力強いランだけでなく、CTBらしくパスで味方を走らせる場面も何度かあった。中学、高校時代は大型BKながらチーム事情からFWのようなプレーも求められたが、明治に入り、BKとして成長した姿を示した。田中監督は「思いっきりのよさが彼の強みなので、それが要所、要所に出た。スキルの面ではいい勉強になったのかな。まだ1年生ですから」と目を細めて話した。
「帝京を倒して大学日本一になるために明治へ」
高校時代はレギュラーが保証されていた児玉だが、明治は競争が激しい。練習から挑戦する姿勢が大事と痛感している。「どれだけ内容の濃い練習をやっていくか。日々スキルの向上に努めていかないといけないし、先輩も多い中で自分の強みを出してレギュラーを勝ち取っていくことが求められてると思います」
「今後、大学で誰と対戦したいか?」とたずねると、児玉は天理のNo.8ファウルア・マキシ(4年、日本航空石川)、CTBシオサイ・フィフィタ(2年、同)と、自分よりもフィジカルに長けたトンガ人留学生の名を挙げた。「夏の天理戦は自分が先発してやられました。レベルの高い選手を倒せるようになれば、チームの勢いがつきますから」。志が高い。
児玉は常に「チームファースト」を強く意識する。「個人の目標もありますけど、帝京を倒して大学日本一になるために明治に入って来たので、いかにチームに貢献できるかを考えてます」と言う。1年生らしからぬ発言は、高校時代はキャプテンを務め、ユース世代に桜のジャージーで世界の強豪と戦ってきた経験から来ている。
児玉はこの半年で肉体も精神もプレー面でも明らかに進化を遂げた。それでもまだ、伸び代は十分にある。「自分の成長がチームの成長につながる」との言葉通り、明治の22年ぶりの大学日本一には、児玉の存在は欠かせぬワンピースとなる。