明治大学のCTB江藤良、自分の強みに気付いてつかんだレギュラー
関東大学ラグビー対抗戦3連覇、そして3年ぶりに大学日本一奪還を目指す明治大学ラグビー部。筑波大学にも快勝し開幕から4連勝で首位に立っている。そんな明大で、3年生まで対抗戦で40分しか出場していなかったが、4年生になった今季、13番の定位置を確保して4試合連続で先発しているのが、寮長も務めているCTB(センター)江藤良(4年、報徳学園)だ。
3年生まで出場40分
江藤には「いぶし銀」という言葉がピッタリくる。確実なタックル、的確にスペースに走り込むラン、そして周りとのコミュニケーション能力に長(た)けている選手だ。10月24日の筑波大学戦でも、周りと連携を大事に攻守に渡って献身的なプレーを見せて53-14の快勝に貢献した。
一瞬のスピードを武器としていたこともあり、大学1年生の時は第3回ユースオリンピック(2018年/ブエノスアイレス)の7人制日本代表として銅メダル獲得に貢献した。その後、紫紺のジャージーを目指して「がむしゃらに練習に取り組んだ」ものの、報徳学園高の同級生FB(フルバック)雲山弘貴(4年)、主将のSH(スクラムハーフ)飯沼蓮(4年、日川)、CTB児玉樹(いつき、4年、秋田工)らのようにルーキーから公式戦に出場することはかなわなかった。2年生の時、青山学院大学戦に後半から出場し、対抗戦で初めて40分出場することができた。
だが3年生になった昨シーズンは、夏合宿の練習試合などでミスが目立ってしまい、アタックセンスとスキルに溢(あふ)れる新人CTB廣瀬雄也(2年、東福岡)の台頭もあって公式戦には1秒たりとも出場することができなかった。「自分の強みを活(い)かすところを理解できなかった部分がありましたが、悔しかったですね……」と唇を噛(か)んだ。
「どうしたら試合に出て、チームの勝利に貢献できるのか……。自分は派手なプレーヤーではないので、(児玉)樹や廣瀬のようなプレーはできないので、その部分をどう埋めたらいいのか」。江藤は、コーチや同期に付き合ってもらいパス、キャッチなどの基本スキルの向上に努めた。また「ボールを持っていない時間にどれだけ動いたりコミュニケーションを取ったりするか、チームがしんどい状況のときに攻守にわたって前に出る」という意識を持つようになった。
アタックの分析を担当
「ペガサス」と呼ばれるA、Bチームにいる時間が長かったが、公式戦に出場できなかった悔しさをバネに、4年になると「プレーが変わってきたかな」と本人が言うとおり、春は主に12番、秋からは13番のスタメンの位置を確保し安定したパフォーマンスを披露し続けている。ウェートトレーニングも継続し、体重は大学入学時から6kgほど増やして94kgとなった。「いろいろ経験してきて、その分、自信もついてきたし、少し余裕が出てきたというか、やりやすい感じがしています」と話す。
快勝した筑波大戦は、すっきりしなかった3試合目の日本体育大学戦の反省から、部員たちだけでミーティングを行い、4年生がアタック、ディフェンス、ブレイクダウン(接点)、キックオフ、キックカウンターというエリアに分かれて、どう戦うかを分析し、コーチとも話し合ってチームで共有した。江藤はSO(スタンドオフ)高岩裕一(4年、明大中野八王子)とともにアタックを担当している。
「(3戦目までは)少し取り急ぐというか、一発でいこうという感じがあって、ボールを継続できすにミスで終わっていた。一人ひとりが立ってボールを継続しようとしました。しっかりブレイクダウンでボールを出していけば、自分たちのクイックテンポのラグビーができると思っていました。準備したことをしっかり試合に出すことができれば、明治大は絶対に優勝できるチームだと思いますし自信を持ってやっていきたい」(江藤)
江藤はリーダーの一人として「ただ、自分たちの力を過信し過ぎず、目の前の試合に対して、ひたむきに準備していこうと思います」と、強豪との対戦が続く11月以降に向けて気を引き締めた。
FB雲山らと報徳学園で活躍
大阪で生まれた江藤は、父親が大学や勤務する銀行のラグビー部でプレーしていたことから、興味を持ち、5歳から兵庫・川西市ラグビースクールで競技を始めた。中学時代は陸上部に所属しながらもラグビーを続けて、兵庫県のスクール選抜では雲山とともにプレーした。高校は他の強豪校に進むか悩んだ末に、兄(快=立命館大出身)が通っていたため、兵庫の報徳学園に進学した。
「花園」こと全国高校ラグビー大会では、同期のFB雲山やWTB(ウィング)中西海斗(流通経済大4年)、PR(プロップ)高橋虎太郎(天理大4年)らとともに江藤は中心選手として活躍し、高校2年生の時はベスト16、3年生になるとキャプテンを務めて、優勝した東海大仰星(大阪)に準々決勝で20-50で敗れてベスト8だった。大学進学は、誘われたこともあったが、憧れていた報徳学園、明大出身のCTB梶村祐介(横浜キヤノン)がプレーしていたことが決め手になった。
江藤は大学3年になって同期の部員23人に推挙される形で副寮長になり、今年度はそのまま寮長へと昇格した。「私生活で、みんなが細かいところまで規律を守って行動できるように意識して行動しています。廊下が汚れていたら注意したり、ゴミが落ちていればすぐに拾ったり、トイレのスリッパも並べたりと整理整頓していますね。今だとしっかり、寮内でマスクを付けろと言ったりもしています」(江藤)
江藤に関して神鳥裕之監督が「廣瀬、児玉とともに競争力を高めてくれています。(寮長としても)本当にしっかりやってくれています。細かい部分ですがトースターが汚れているとか、食堂の時間の使い方などを指摘して、月に1回、業者さんを交えてメニューについて意見交換もしています」と言えば、飯沼主将も「ペガサスにいながら試合に出られない期間が長かったですが、しっかり練習していました。リーダーの一人としても周りに信頼されていて(チームの)お兄ちゃんみたいな存在です」と頼りにしている。
高校、大学の先輩、梶村祐介のような選手に
江藤がチーム内で意識しているのはやはり同じポジションで1年から試合に出ている児玉だ。私生活では一番仲がいいくらいの存在で「ライバルなのでお互い刺激し合っています!」。また、対戦校で一番意識している相手は、花園で負けた東海大仰星高出身で、早稲田大学でキャプテンを務める同じCTBの長田智希(4年)。「グラウンドに出たら誰にも負けたくないですね。(長田とは大学で)対戦していないので楽しみです」と語気を強めた。
座右の銘は、大学入学時、父親からもらった手紙に書かれていた「袖振り合うも多生の縁」だ。文学部文学科日本文学専攻で学び、残る単位は卒論のみで、万葉集について書くという。コロナ禍で、大学の授業に行く以外は電車に乗ることはできず、自転車でスーパー銭湯に行くことがリラックスになっている。好きな選手は変わらず、高校と大学の先輩である梶村であり、大学卒業後はリーグワン(トップリーグに変わる新リーグ)のチームでプレーする予定だ。
江藤が「優勝して終わりたい!」と強調するように、目標はもちろん全国大学選手権での優勝だ。「いい形で(大学)選手権につなげられるように、一日一日、無駄にせずに100%で準備していきたい。ラグビーはチームスポーツなので、一人でも優勝に向かっていないとか、やる気がない選手がいたら士気が下がってしまうので、全員で優勝を取りにいこうと声を掛け合っています」
チームの信頼厚い寮長が、オンフィールドでもオフフィールドでも、常にチームのために行動し続ける。