ラグビー

早稲田大学の長田智希新主将、4年生全員の信任を得て自ら行動で示す王座奪還

1年生からCTBで活躍し早稲田大学の新主将となった長田智希(撮影・全て斉藤健仁)

ラグビーの全国大学選手権決勝(1月11日)で、早稲田大学は天理大学に接点で後手を踏んで28-55で大敗した。新チームとなり、王座奪還を目指すチームのキャプテンを任されたのは1年生から試合に出場している技巧派のアウトサイドCTB(センター)長田智希(おさだ・ともき、4年、東海大仰星)だった。大田尾竜彦監督が新たに就任したチームがどんなラグビーを目指すのか、また最終学年となった思いなどを聞いた。

早稲田大学の大田尾竜彦新監督、「ベストはベターの中に」考えることを止めない

東海大仰星高の主将で日本一

長田と言えば1年生の時からアカクロジャージーのレギュラーとして活躍し、相手のギャップを突いての突破やトライにつながる決定的なパス、豊富な運動量で活躍してきた。早大には「委員」と呼ばれるリーダーがおり、長田は3年生の時から選ばれていたため、「ずっと試合に出ていたし、委員もやっていたし、4年生になったらチームを引っ張る存在になるという覚悟はあった」と振り返る。

長田は東海大仰星高時代もキャプテンとして「花園」こと全国高校ラグビー大会を制し、高校日本代表やU20日本代表などユース代表も歴任していた。その責任感もあり、「リーダーということは関係なく、私生活も含めてしっかりやることは心掛けていました」と話す。

第97回全国高校ラグビー(2017年度)で優勝した東海大仰星を主将で引っ張った(中央)

真摯(しんし)にラグビーに取り組んできた長田の姿を周りの選手も見ていたのだろう。大学選手権決勝の翌日、同期が集まり、新キャプテンを決める投票をすると全員が長田を選んだ。昨年度の4年生やコーチ陣とも話し合った末、長田が104代目のキャプテに就任することが決まった。副将には長田主将自らが、同じく1年生から活躍していたPR(プロップ)小林賢太(4年、東福岡)を指名した。

目指すべきキャプテン像を聞くと、長田は「高校で1度やらせてもらったので、まずは自らが行動で示していきたい。ただ、高校時代は周りに目を向けることができなかったが、今は少し余裕が出てきたので、リーダー陣や周りを使いながら伝えることもしていきたい」とこの一年を見据えた。早速、寮長でもあるHO(フッカー)原朋輝(4年、桐蔭学園)を、あいさつ、整理整頓、道具を大切に扱うことなど私生活の規律に関するリーダーに指名するなどアクションを起こしている。

長田は京都・大山崎町出身。父は野球経験者、兄は阪南大学までサッカーをしており、決してラグビー一家ではなかった。小学3年生の時、同じ小学校に通っていた幼なじみの京都産業大学WTB(ウィング)笹岡海斗(4年、京都成章)に誘われたことがきっかけで、亀岡ラグビースクールで競技を始め、だ円級の魅力に惹(ひ)かれていった。

中学校はラグビーを部活動でやるために、京都市の神川中へ進んだ。高校は京都の強豪に進むか悩んだ末に、顧問の古川辰行先生(当時)が大阪の東海大仰星高出身だったことが決め手となり、同校に進学した。花園では1年生でリザーブで優勝を経験。2年生の時は準優勝。3年生ではチームを牽引し、現在もチームメートのFB河瀬諒介(4年)らと優勝を飾った。

FB河瀬諒介(左)と東海大仰星高からバックスを引っ張ってきた

大学を選ぶ際に、誘われたことも一因だったが、バックスに展開力があり「自分がやりたいラグビーにフィットしている」と早大への進学を決めた。その直感は当たっていたといえよう。大学1年生の時は大学選手権ベスト4だったが、2年生で優勝、3年生は準優勝と結果を残しているチームで主にCTBとして相手をずらしてゲインするアタックやタックルで勝利に貢献してきた。

天理大戦をどう生かすか

長田に思い出に残っている試合を聞くと「いろいろありますが、上書きされていくので、やはり昨年度の天理大戦です」と即答した。「天理大に負けた後、何が足りなかったか全員で考えました。あの負けを今季にどう生かすか。やっぱり、決勝戦でコンタクト負けしたのは上井草での日々の強度が足りなかったという結論に至りました。日々、貪欲(どんよく)に成長することを大事にしたい」(長田)という理由で、4年生や委員たちとも話した結果、今季のスローガンは「Be Hungry」に決まった。

貪欲に成長を目指す

4月から新たに就任した元日本代表・大田尾監督からも「決勝戦で、天理大と比べてコンタクトの局面で足の力が使えていなかった」という指摘を受け、接点練習では足の力をどう使うか、足をドライブすることを意識して練習している。また、接点強化の一つとして、土日に始まったレスリングトレーニングに関して長田は「(今までやったことがないので)新鮮な感じです。ラグビーにどう生かしていくかが大事になってきますが、楽しみながら組み合ったりタックルしたりしています!」と破顔した。

新しく指揮官になった大田尾監督の印象について聞くと、「まだそこまで(監督のキャラクターを)深く知れていませんが、厳しいだけでなく笑顔もあり、全体を見ていた相良南海夫前監督と比べて、大田尾監督はグラウンドにしっかり立って指導してくださるのは対照的かもしれません。指導するときも、なぜこの練習をするのか、プレーのディテールまで教えて下さいます」と話した。

「NARUTO」に学ぶ

好きな言葉を聞くと、「自分を信じない奴なんかに努力する価値はない」という漫画のせりふだった。世界的に人気のある忍者漫画の「NARUTO」に出てくる上忍マイト・ガイが、落ち込んだ弟子の「努力の天才」ロック・リーにおくった言葉だ。「僕はめちゃめちゃ才能ある選手ではないので、努力しないといけない。努力タイプの選手だったので、子どもの頃、(漫画を)読んでいて『いいな!』と思いました」と照れくさそうに話した。

今季の早大は、チームとしてどんなラグビーをしたいかと聞くと、長田は「スペースにどんどんボールを動かす展開ラグビーをしていきたいですが、天理大戦での負けた印象が残っているので、フィジカルでも接点でも負けないラグビーがしたい」。個人としては「自ら突破するだけでなく、パス、ラン、キックとオプションを持ちつつ周りを生かしたり、ターンオーバーに結びつくようなビッグタックルをしたりしてチームを勢い付けるプレーで引っ張っていきたい」と意気込んだ。

学生最後に「荒ぶる」を歌うことはできるか

今季の目標は「その過程で天理大に勝つことができればうれしいですが、もちろん、日本一になって『荒ぶる』をとることです!」と語気を強めた。

「荒ぶる」は早大が日本一になったときだけに歌うことが許されている第二部歌である。「僕たちは常に日本一を目指している集団で、早稲田大学のファンは、僕らと同じくらい『荒ぶる』に対する思い入れがある。最後に一緒に歌えるように頑張りますので見守っていただけたらと思います」。主将の目は再び決勝の舞台に立ち、頂点に立つことしか見ていない。

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