甲南大学・岡根和奏 2年夏から主将に、役割は「手が回らないところをサッと手助け」

大学陸上女子短距離界の国内トップ級選手をそろえる甲南大学で、岡根和奏(4年、龍谷大平安)は2年の夏から主将を務める。高校時代は全国高校総体(インターハイ)への出場経験がなく、大学で競技力の高い仲間たちに囲まれて成長した。大学ラストイヤーも自分らしくチームを引っ張る。
幹部は全学年に満遍なく、平等な立場で運営
1学年の選手が10人ほどと少数精鋭で活動している甲南大女子陸上競技部の幹部の決め方は、やや独特だ。毎年夏に代替わりがあり、現在は3年生は主将1人、副務2人、2年生は主将と副将、主務に1人ずつ、1年生からは副将と副務に1人が選出され、幹部は全8人。全学年に満遍なくいる。
「私が入学したとき、幹部は全員4年生で構成されていたんです。でも、それだと4年生だけの意見になっちゃう。入ってきたばかりの1年生や、2年間この大学で過ごしてきた立場とか、学年によって考えは違うので、『色んな角度から意見を出し合えるように』という理由から、各学年に幹部がいます」

岡根は1年目の夏から副将になり、2年の夏に主将となった。「自分たちが入った時から『学年をバラバラにしよう』となって、伊東(浩司)先生や先輩方から『ぜひ入ってほしい』と言ってもらいました」。1年生の頃から思ったことを積極的に発言していたことが、幹部に推された理由なのでは、と本人は推察する。
裏を返せば、チームにはもとから意見を出しやすい雰囲気があると言える。岡根は「先輩が良い意味で先輩っぽくないです。どの学年もみんなが同じように準備や片付けをする。平等な立場で陸上ができるので、意見も対等な立場として言いやすい面があります」。
その中で主将としては「みんなが気付かない部分や、手が回らないところをサッと手助けする」ことに重きを置いている。チーム内には、一人ひとりに強化費係や勧誘係などの役割がある。「責任を持ってやってもらわないといけない中、大変な時や気持ちがしんどくなった時に、支えてあげられる主将でありたいです」と言う。

練習では「調子が悪い」と思っていても……
京都出身の岡根は高校時代、京都府インターハイの女子100m決勝で肉離れを起こし、そこからはほとんどレースに出ることができなかった。自分の中で「やりきれなかった」というもどかしさがあり、ちょうどその時に甲南大から声をかけてもらった。チームのSNSや練習見学を通じて雰囲気の良さを感じ、「陸上をやるなら甲南でしかやりたくない」とまで魅力的に映った。
実際に入ってみると、1学年先輩に東京オリンピックの女子4×100mリレーで出走した青山華依がいるなど、周りのレベルは高かった。「もともと他の子たちと比べたら持ってる成績もそんなに高くないし、『同じ位置で戦えるレベルではない』と思っていたのに加えて、自分の中でも『足遅っ!』って感じるぐらい、全然走れていない状況でした」と岡根。それでも他の選手たちと一緒に走っていたら、自然とレベルを引っ張り上げられ、高校の時にはほとんど採り入れていなかった筋力トレーニングを重視するようになると、飛躍的にタイムも伸びていった。
「練習では『調子が悪い』と思っていても、大会に行ってみたら『割と走れる』ということが良くあります」。それが象徴的に表れたのが、2年時の日本インカレ女子100m決勝(-0.3m)だった。当時ルーキーの藏重みう(3年、中京大中京)が11秒76で制し、岡根が11秒78で2位、3位に奥野由萌(4年、彦根翔西館)が11秒81で続いた。「3人でいつもSD(スタートダッシュ)とかで走っていて、それぞれに調子の良しあしはあるけど、大会に出たら3人でバッと前に出られた。ここでそれだけレベルの高い練習ができているんだなと」

陸上競技は基本的に個人で争うが、リレーは「別物」だ。岡根は1年の時から日本選手権リレー女子4×100mで2連覇。昨年は惜しくも3連覇を逃したものの、日本インカレでは連覇を果たした。「4人のメンバーに選ばれて、甲南のリレーに走らせてもらっていることには、すごく誇りがあります」。取材していて印象的だったのは、昨年の日本インカレだった。大ケガから復帰したものの、個人種目には出場できなかった青山が1走を務め、他の3選手は「絶対に金メダルを持って帰ってもらおう」と誓い合っていたという。岡根はアンカーで有言実行のゴール。「後ろから迫られているのは分かっていたんですけど、『これは行ける』と謎の自信がありました」と笑う。
個人種目はあえて具体的な目標を設定しない
2025年の大学陸上シーズンは9月に東京で世界選手権が開催される影響もあり、日本インカレが6月開催となる。4月にはFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバー)の代表選考を兼ねた学生個人選手権が控える。夏までにほとんどの大会が終わる形式となり、「自分はいつも滑り出しが遅いタイプなので、早い段階から試合に出ていこうと思っています」と対応策を練っている。
ただ、個人種目に関しては具体的な目標を設定していない。「もちろん、たとえばユニバーに行きたいとか、優勝したいという気持ちは持っていますけど、思いだけが先走っちゃうと、現実がついてこない感じがするんです。『いま出せる自分の力を全部出し切った上で、結果がついてくればいいな』という考え方をするタイプです」。大学ラストイヤーはゴールに飛び込んだとき、どんな感情が湧いてくるのだろうか。今年も会場で見届けていきたい。

