東洋大・柳田大輝が100mV「陸上人生で一番悔しい」パリオリンピックからの再出発
第93回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子100m決勝
9月20日@Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(神奈川)
優勝 柳田大輝(東洋大3年)10秒09
2位 井上直紀(早稲田大3年)10秒13
3位 山本匠真(広島大4年)10秒19
4位 神戸毅裕(明治大2年)10秒26
5位 鵜澤飛羽(筑波大4年)10秒28
6位 三輪颯太(慶應義塾大4年)10秒36
7位 愛宕頼(東海大3年)10秒38
8位 大石凌功(東洋大2年)10秒42
9月20日にあった日本学生陸上競技対校選手権(日本インカレ)の男子100m決勝で、東洋大学の柳田大輝(3年、東農大二)が10秒09(-0.4)をマークして2連覇を果たした。パリオリンピックでは個人種目の代表を逃し、400mリレーでも決勝のメンバーから外れた悔しいシーズン。「うまくいかないことが多かったけど、最後は勝って終われた。これ以上ない締めくくりができた」と笑顔を見せた。
準決勝後、スタブロの位置を変えてスタートを修正
柳田は予選、準決勝はそれぞれ10秒3台で組2着だった。暑さによる疲労もあり、本来の走りではなかった。準決勝をトップタイムの10秒18(+0.3)で通過した早稲田大学の井上直紀(3年、高崎)が優勝に近いと見られる展開だった。
「間違いなく、このままでは勝てない」。準決勝から決勝までは3時間10分。この間に修正したのは「のっそりして重い感じだった」というスタートだ。
土江寛裕コーチに意見を伝えると、スターティングブロックの位置を変えることで考えが一致した。前の足側をスタートラインに近く、後ろ足側を遠くに下げた。体を低く、楽に飛び出せるスタートダッシュをイメージした。
最後のウォーミングアップを終えた時点では、今年一番の感覚があった。準決勝までとは違い、自信を持って決勝へ向かっていた。
向かい風で初の10秒0台
8レーンに立った柳田は、無心で前だけを見た。スタートのリアクションタイムは、決勝出場選手で最速の0秒134。準決勝までは遅れていた序盤で抜け出し、「これはいける」と確信した。隣のレーンを走る井上からも前半でリードを奪った。
プラン通り、徐々にピッチを上げていくイメージで駆け抜け、10秒09。フィニッシュすると、右手の人さし指を空にかかげた。東洋大の応援団が待つスタンドへそのまま駆け寄り、歓喜の雄たけびを上げた。
「予選と準決勝を見て、たぶん柳田は(優勝が)きついと思った人もいると思う。そんな逆境をはねのけてやろうと思っていました」。向かい風での10秒0台は自身初。シーズン最後の100mで、理想のレースを体現できた。
「土江先生に何の恩返しもできていない。そろそろ形にしたい」
今季は「間違いなく陸上人生で一番悔しい思いをした」。春先に海外レースで10秒02の好記録を出しながら、6月の日本選手権は3位。パリオリンピックで100mの代表権をつかむことはできなかった。
苦難は続いた。400mリレーの2走で主力級の活躍を期待されたが、オリンピック本番では予選の走りがふるわなかった。日本が5位入賞した決勝はメンバーから外れた。
決勝のレースをスタンドで見るのは、補欠だった2021年東京オリンピックと同じ。ただ、トップ選手の一人として迎えたこの夏の悔しさは、当時と比べものにならなかった。パリのサブトラックでは涙を浮かべた。
「あんな経験はどこへ行ってもしたことがなかった。ただ、決勝でメンバーを代えられるという経験をオリンピックでできるということ自体、なかなかないことだと思う」
日本インカレはオリンピック後、初めての個人のレースだった。「再出発」と意気込み、悪いイメージを断ち切りたいと臨んでいた。
今季の悔しさは「良い経験だった」とすぐに片付けられるものではない。ただ、そうしないといけない。「土江先生に何の恩返しもできていない。そろそろ形にしたい」
来年9月の東京世界選手権を見据えて
次に見据えるのは、来年9月に東京である世界選手権だ。
「少しずつではあるけど、力はついていると思う。あとは、今日のような(向かい風の)コンディションでも世界選手権の標準記録(10秒00)を切れるぐらいの力をこの冬につけたい」
中学では走り幅跳び、高校では100mで日本一のタイトルをつかんだ。東洋大入学後も、昨年のアジア選手権優勝やブダペスト世界選手権出場など、世界を舞台に活躍してきた。
競技人生で初めてと言っていい悔しさと挫折を味わった柳田は来季、心身ともにさらにレベルアップしてトラックに戻ってくるはずだ。