陸上・駅伝

特集:第102回関東学生陸上競技対校選手権

早稲田大・井上直紀 100mでライバルと0.01秒差の2位「柳田に勝たないと…」

100m決勝後、4×100mリレーにも出場した早稲田大の井上(撮影・藤井みさ)

第102回関東学生陸上競技対校選手権 男子1部100m決勝

5月12日@相模原ギオンスタジアム(神奈川)追い風3.1m

1位 柳田大輝(東洋大2年)10秒09
2位 井上直紀(早稲田大2年)10秒10
3位 中村彰太(東洋大4年)10秒13
4位 稲毛碧(早稲田大4年)10秒20
5位 島田開伸(早稲田大3年)10秒21
6位 成島陽紀(早稲田大1年)10秒24
7位 宇野勝翔(順天堂大4年)10秒26
8位 愛宕頼(東海大2年)18秒24

昔から切磋琢磨(せっさたくま)してきたライバルには、あと100分の1秒届かなかった。5月12日の関東インカレ男子1部100m決勝。2位となった早稲田大学の井上直紀(2年、高崎)が10秒10(追い風3.1m)をマークしたのに対し、優勝した東洋大学の柳田大輝(2年、東農大二)は10秒09。井上はレース後「彼はいま、決して本調子じゃないと思います。この0.01秒差は、小さいようで大きい」と悔しそうに振り返った。

東洋大学・柳田大輝 世界選手権に個人種目で出場するため「10秒00を切りたい」

準決勝では隣のレーンで柳田に先着

前日の予選を10秒14(追い風2.9m)の全体2番目となるタイムで通過すると、翌日の準決勝は井上が4レーン、柳田は隣の5レーンに入った。ともに群馬県出身で、中学時代から全国の舞台で高め合ってきた仲。井上は準決勝について「柳田を意識しないと言ったらウソになるんですけど……、一番を取ることだけ目指していました」。10秒22(向かい風0.7m)で柳田に先着したが「強い選手は決勝でしっかり合わせてくる」。決勝は柳田も今持っている力を出し切ってくるだろうと予想していた。

準決勝は隣を走る柳田(左)に先着した(撮影・藤井みさ)

約3時間後に行われた決勝。リアクションタイムは0.164で下から2番目だった。「最初の10mのところで出られなくて、後半に追い込んだんですけど、足りませんでした。準決勝の方が、後半に少し余力を持つことができていたので良かったです」。フィニッシュ後、電光掲示板で着順とタイムを確認すると、仰向けになって倒れ込んだ。引き揚げる際も足取りは重かった。

着順とタイムを確認すると、悔しさのあまり倒れ込んだ(撮影・藤井みさ)

冬場のトレーニングで体重4kg増

関東インカレから約3週間前。柳田が出走しなかった日本学生個人選手権の男子100mを制したのが、井上だった。予選でいきなり自己ベストを更新し、決勝は稲毛碧(4年、東京学館新潟)や島田開伸(3年、浜松湖東)といった早稲田大の先輩たちにも競り勝ち、10秒19(追い風1.7m)で優勝を果たした。準決勝のスタート練習時に足がつってしまい、決勝は再発の怖さとも戦っていた中での栄冠だった。

冬場に練習を積めたことが、今シーズンの好調ぶりにつながっている。「高校のときは、あんまり筋トレをしなかったんですけど、大学に入ってからはウェートトレーニングというよりは、動きを作りながらの筋力トレーニングをするようになりました」。体重は4kg増えたが重さを感じることはなく「むしろ軽くて、スピードが上がりました」。

冬場に積んだ練習が実を結んでいる(撮影・井上翔太)

課題としている前半も、与えられたメニューを1本ずつ丁寧に行うことで、少しずつ足が回るようになった。スパイクを履く時期を遅らせ、シューズの状態でもスパイクを履いた選手に勝ちきることを意識したり、200mを得意とする西裕大(4年、栄東)と一緒に走るときは「付いていく」のではなく「追い越す」ことを心がけたりすることで、能力全体のベースが上がってきた。

「仲間と高め合いながら質の高い練習ができていた」という自信があったから、自己ベストを更新しても、本人には「飛躍した」という感覚がなかったという。むしろ驚いたのは、10秒1台が出たことだ。「びっくりしたした。走ってみて、そんなに速い感じはしなかったんです。10秒2は出るなぁと思いましたが、1とは思わなかった」

世界を目指す上で必ず倒さないといけない相手

力が付いてタイムも伸びれば、自然と柳田の話題になる。ライバルは4月末の織田記念で男子100mを制し、自己ベストは10秒15。学生個人の後、柳田とは100分の4秒差まで詰め寄ったと水を向けられると、井上は「数字で言ったらそうですけど、強さで言ったらまったくです」。一緒に戦ってきたからこそ、タイムでは計れない「強さ」を間近で感じているのだろう。

「入学したときは実際に差がありましたし、『そんなこと気にするな』と言われたこともありましたけど、僕の中で柳田の存在が消えたことはないんです。彼との差は明らかにあると思うので、そこは焦らずに詰めていきたい」

関東インカレのレース後、改めて井上にとって柳田はどんな存在か、質問した。「柳田がいなかったら今の僕はいないと思いますし、かといって憧れになったら終わりなので、世界を目指していく上では必ず倒さないといけない相手。これから先、同じ舞台に立って、どっちが勝つ、どっちが負けたということを繰り返していく仲だと思います」

柳田(左)とのライバル物語はこれからも続く(撮影・藤井みさ)

昨年は関東インカレに出られなかった。「上から柳田が走っているのを見ることしかできなかったですが、今年は3本走り切れているところは成長できていると、素直に思います」

2人が最終学年を迎える2025年は、世界陸上が東京で開かれる。井上は、在学中に国内で開かれる世界最高峰の舞台を本気で狙っている。「そのためにはトップ選手に付いていかないといけない。シニアの選手たちはこんなレベルではないので、自分も上げていかないと。まだ後半がぐちゃぐちゃになるときもありますし、前半も課題があります。そして柳田に勝たないと、世界も何もない」

2人のライバル物語は在学中も、卒業後も続いていくのだろう。

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