東洋大・柳田大輝 日本選手権でパリへの切符をつかむために得た「9秒97」の手応え
6月15日の2024日本学生陸上競技個人選手権男子100mで、東洋大学の柳田大輝(3年、東農大二)が追い風3.5mの参考記録ながら、9秒97をマークした。続く決勝では10秒13(追い風1.4m)で優勝。1日で3本をこなすタフなレースを終え、6月末の日本選手権(新潟・デンカビッグスワンスタジアム)に向けて弾みをつけた。
スターティングブロックの微調整が奏功
「マジかぁ~」。準決勝のゴール直後、速報タイムを見た柳田は両手を広げて笑顔を見せ、すぐに悔しがった。「一瞬先にタイムの方が目に入ったんで、ちょっとびっくりしたというか『よっしゃ!』と思ったんですけど、すぐ横を見たら風(の表示)がもう出てたんで、ちょっと残念……。運に見放されたなと思いました」とその場に座り込んだ。
この日の午前にあった予選は、ゴール目前に流して10秒23(追い風1.1m)。そこから約4時間後に行われた準決勝では、スタートの感覚が良くなったという。「スターティングブロックの位置を調整しました。予選で走るときまでは、後ろの足(柳田の場合は右足)をだいぶ遠い位置に置いていたんです。それで逆にうまく出られなくなってしまって……。イメージとしては僕の中で、アジア選手権と同じ位置に戻したら、うまく出られるようになりました」
前の足はそのままで、後ろの足だけスターティングブロックの溝二つ分、前に設置した。位置を変えるまでは前の足だけに重心がかかっている感覚だったが、準決勝では「ピストルの音と同時に、一気に重心ごと前に持っていけた」と柳田。序盤の加速を得意の中盤から終盤にもつなげ、流すことなく駆け抜けたところ、9秒台が出た。
「動きの再現」を狙った決勝
この時点では、決勝も走るかどうかは決まっていなかった。出場の目的としたのは「準決勝の動きの再現」。けがだけが心配されたが、柳田は「体のダメージ以上に体は動いていましたし、テンションも上がってきていた。準決勝でいきなり色んなところを修正できて、いい感じに走れたので、やめることも選択肢として出てきたんですけど、3本目も練習を兼ねてやろうと」と明かす。
5レーンに入った決勝。「On your marks」の声がかかったところで、「夕焼け小焼け」の防災行政無線チャイムが流れた。終わるまでスタートを待つことになり、仕切り直しに。柳田は「いい風が吹いていたんで、このままスタートしてくれないかなと思ってました。日頃の行いを改めます」と集中力はそがれていなかった様子だった。
ただ、追い風参考とはいえ準決勝に9秒台が出たことで、タイムを意識してしまったと言う。「意識するなとは言われていたんですけど、しないほうが無理だろうとも思ってました。でも意識すると、タイムは出ないことを身をもって感じました。悪いところが出た、ちょっともったいないレースだったかなと思います」。今シーズン好調の大東文化大学・守祐陽(3年、市立船橋)と競り合いながらも先行し、優勝を果たしたものの、ゴール後は苦笑いを浮かべた。
日本選手権までに取り組むべきことが明確に
大学界を代表するトップスプリンターの柳田は今シーズン、4月末のルイジアナ州立大学招待で自己ベストに並ぶ10秒02をマーク。5月上旬にはバハマで開かれた世界リレーに日本代表として出走し、5月19日のセイコーゴールデングランプリ(東京・国立競技場)で優勝。その後はダイヤモンドリーグ(DL)に参戦と、レース続きの忙しい日々を送った。
DLを終えてからは、時差ぼけが治るまで休んだり、治療したりしながら、日本選手権を見据えてしっかりと練習を積んできた。「ウェートトレーニングができていなかったので、次の日に筋肉痛でバキバキになるぐらい、冬にやるような回数を2、3回やってきました。それで走りの力強さが、シーズンインのときぐらいにまで戻ってきた感覚がありました」。昨年のこの時期と比べたら、筋肉量で2kgほど増えているといい、レベルアップを実感している。
パリオリンピックの参加標準記録は10秒00。国内勢ではサニブラウン・ハキーム(東レ)が5月末に9秒99をマークし、代表に内定。残る2枠を日本選手権で争う。柳田は言う。「僕が代表になるためには、決められた順位を取るしかない。タイムを出せるに越したことはないですけど、まずは2番に入ることが一番重要かなと思います」
大一番に向け、学生個人で「これをすればいい」ということが明確になった。パリへの切符をつかむため、あとは周りに惑わされず、自分の走りだけに集中する。