陸上・駅伝

特集:第91回日本学生陸上競技対校選手権大会

山梨学院大・青野朱李、日本インカレで涙の二冠 後輩たちに背中を見せたラストイヤー

目標としてきた二冠を達成。200mでは日本歴代7位タイ記録をマークした(撮影・松永早弥香)

第91回日本学生陸上競技対校選手権大会

9月9~11日@たけびしスタジアム京都
青野朱李(山梨学院大4年)
女子100m 優勝 11秒64(追い風0.4m)
女子200m 優勝 23秒44(向かい風0.2m)
女子4×100mリレー 4位 45秒98(渡邉葉月/阿部璃音/青野朱李/大野瑞奈)

「今までつらいこともあったけど、ここで勝ちきって、支えてくださった方々にずっと恩返ししたいと思っていたので、それを達成できて良かったです」

日本インカレ最終日の9月11日に200mを制し、100mとの二冠を達成した直後、山梨学院大学の青野朱李(4年、山形中央)は涙に声を詰まらせながらそう言った。日本インカレにすべてをかけて準備をしてきた。言葉にならない思いが、その涙から伝わった。

最後のレースで日本歴代7位タイ記録

青野は今大会、100mと200mと4×100mリレーにエントリー。初日の9日は100m予選を11秒77(+1.0)、その約3時間後にあった100m準決勝を11秒61(-0.4)で走りきり、ともに組1着通過で決勝へと駒を進めた。1時間半後には4×100mリレー予選へ。青野は3走を任され、山梨学院大は46秒09での組1着。この結果を経て、青野は翌10日も3本のレースが決まった。

10日はまず200m予選。24秒15(+1.2)で組1着通過し、約4時間後に控えている100m決勝へと気持ちを切り替えた。前回大会でも青野は決勝の舞台に立っているが、11秒94(+0.5)での8位に終わった。最後の日本インカレこそ、チームの力になりたい。そのために地道な努力を続け、大会前から調子の良さを感じていた。

青野はスタートからリードし、2位の石堂陽奈(環太平洋大2年、立命館慶祥)と0.02秒の僅差(きんさ)で初優勝を果たした。記録は11秒64(+0.4)。4月の日本学生個人選手権でマークした自己ベスト(11秒53)には届かなかったが、200mに弾みをつける勝利だった。その3時間半後には4×400mリレー決勝を走り、山梨学院大は45秒98での4位で、表彰台にはあと一歩届かなかった。

100m決勝で青野(左)は石堂(右)に0.02秒差で競り勝った(撮影・藤井みさ)

迎えた最終日の11日、200m準決勝は24秒01(-0.9)で組1着通過し、約2時間後の200m決勝へ。体中に疲労を感じ、準決勝は想定よりも力をつかってしまった。体力面で不安があったが、ずっと目指してきた二冠は譲れない。4レーンの青野は得意とするコーナーをスムーズに抜け、トップで直線に入り、そのままゴール。青野は応援してくれた仲間にガッツポーズで応え、笑みを浮かべた。記録は23秒44(-0.2)。日本歴代7位タイ、学生歴代2位タイ、大会新という大幅自己ベストに「正直、すごくびっくりして、うれしいけど実感がない」と言った。

高校時代の栄光がプレッシャーに

青野は山形中央高校2年生の時に地元・山形で開催されたインターハイ200mで優勝し、高3ではU20日本選手権にて100mと200mで二冠を達成。高校卒業後は地元を離れ、山梨学院大に進んだ。当初は慣れない自炊に手間取り、体重が増えてパフォーマンスが上がらなくなってしまうこともあったという。「環境が変わり、生活リズムに慣れることがまず大変でした」と振り返る。

2年生の春には新型コロナウイルスが猛威を振るい、大会の中止や延期が相次ぎ、日々の練習もままならない状況に陥った。個人練習に切り替え、競技場などを使って練習を継続しようとしても、何を目標にしていいのか分からなかった。「家に引きこもることが多くて練習に身が入らず、モチベーションを保つことが難しかった。そういう意味でも2年生から3年生の前期はつらかったです」。加えて、高校時代の栄光が重く感じることもあった。「大学でも頑張らないといけない、と自分の中でプレッシャーをかけていたところがあったかもしれません」

200m決勝で自己ベストを出し、やっと高校生の時の自分に勝った(中央が青野、撮影・藤井みさ)

「日本を引っ張っていけるような存在になりたい」

3年生だった昨年の日本インカレでは100mで8位、200mで4位(24秒16)、4×100mリレーで6位(46秒21)と、少しずつ結果が出るようになった。高校時代よりもウェートトレーニングを増やしてけがをしない体作りに取り組み、無理して力を加えなくても前に進むような走りができるようになったと実感。加えて、最上級生になるにあたり、青野はチームにおける自分の役割を考えた。

「私は性格的にみんなの前に立ったりまとめるのが苦手で、いろいろ考えてしまって練習に影響してしまう。役職はないけど、その分、結果でみんなを引っ張っていきたいと思っていました」

今年4月の日本学生個人選手権では、前述の通り100m準決勝で自己ベストを出し、決勝では2位。200mでは決勝で23秒86(+0.3)をマークし、久しぶりの全国タイトルを獲得した。そして今大会で、有言実行の二冠。「背中を見せられるような、そんな意思表示はできたかな」と笑顔で答えた。

今後も筋力アップに取り組み、世界を目指して戦う(撮影・松永早弥香)

今後も得意とする200mで世界を目指していくが、「マイル(4×400mリレー)も好きなので、将来的には400mも視野に入れて、というのはひそかに思ってます」と明かす。どの種目を選ぶにせよ、青野が目指すものは一つだ。

「世界で活躍できる選手になりたいです。まだまだそれには足りないところがたくさんあるので、そこをしっかり強化していって、これから日本を引っ張っていけるような存在になりたいです」

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