陸上・駅伝

特集:第91回日本学生陸上競技対校選手権大会

拓殖大・不破聖衣来「やっぱり楽しい」、145日ぶりの復帰レースで魅せた強さと笑顔

不破は145日ぶりの復帰レースとなった日本インカレ10000mで優勝を飾った(撮影・すべて藤井みさ)

第91回日本学生陸上競技対校選手権大会 女子10000m決勝

9月9日@たけびしスタジアム京都
1位 不破聖衣来(拓殖大2年)   32分55秒31
2位 原田紗希(名城大1年)    33分09秒65
3位 飛田凜香(立命館大4年) 33分13秒44
4位 黒田澪(日体大4年)     33分29秒63
5位 小林成美(名城大4年)    33分32秒91
6位 小松優衣(松山大4年)    33分45秒07
7位 北川星瑠(大阪芸術大3年)34分02秒06
8位 永長里緒(大阪学院大2年)34分08秒30

日本インカレ初日の9月9日、女子10000m決勝は拓殖大学の不破聖衣来(ふわ・せいら、2年、健大高崎)にとって145日ぶりの復帰レースだった。前回大会の5000m優勝に続き、今大会は10000mで優勝。レース後、殺到したメディアを前にして、不破は開口一番、「やっぱり大会は楽しいな」と笑みを浮かべた。

拓殖大・不破聖衣来 女子長距離界の超新星、大学1年目の快進撃と見据える世界の舞台

けがと貧血を乗り越えて

不破は昨年12月、10000mで30分45秒21と当時の日本歴代2位(現3位)の記録をマークし、世界陸上(今年7月、アメリカ・オレゴン)の参加標準記録をクリア。今年5月の日本選手権で3位以内に入れば、世界陸上への出場が決まるはずだった。

だが1月に右アキレス腱(けん)を痛め、加えて股関節痛にも苦しめられた。4月17日の日本学生個人選手権には5000mに出場したものの、スタートから集団から離れて自分のペースを守り、周回遅れでレースを終えた。それも日本選手権を見据えてのことだったが、五十嵐利治監督は不破の将来を思い、世界陸上への挑戦を断念した。

そこからは状態を良くすることを第一に掲げ、ジョグができる、流しができるなど、一つひとつ状態を見極めながら練習を継続。8月に入って貧血の症状が出てからはジョグでつなぎ、距離走をしても1km3分30秒のペースがやっとだった。スタートラインに立てる状態にまで戻ったことを確認し、日本インカレへの出場を決めたのが開幕3日前。記録も勝負も狙わず、無事に完走して次につながるレースにできれば、というのが五十嵐監督と不破が想定したレースだった。

ラスト2800mでペースアップ

迎えた10000m決勝、レースは集団で進み、不破は2番手につけていた。1600mで不破が先頭に立ち、1km3分20秒ほどのペースで集団を引っ張る。5000mで松山大学の小松優衣(4年、大分西)が先頭に変わり、不破は先頭集団の最後尾につけた。先頭集団はその後も1km3分20秒ほどのペースを刻み、集団は9人から6人へと絞られた。

「やっぱりここで勝負したい」という思いを胸に、不破は勇気を出して攻めた

五十嵐監督から「1kmを3分20~25秒でいって、7000m過ぎていけたらいっていいよ」と言われていたまさにその7200mで、不破は一気に前に出る。名城大学の原田紗希(1年、小林)がつこうとしたが、不破は持ち味の大きなストライドで引き離す。以降は1km3分13秒ほどのペースで独走し、32分55秒31でゴール。観客から拍手で迎えられ、不破は笑顔を返し、目をうるませた。

「彼女の今の状態からすると(1km)3分20秒は本当にきつい。練習では3分30秒も上がらない状態で、ずっとポイント練習ができない中、ジョグでつないでなんとか今日までやってきました。今までの走りを見ていたらあり得ない」

五十嵐監督は5000mで不破が順位を下げた時、今の状態での限界かと受け止めていたが、レース後に不破から「レースの流れ的に後ろでためていた方が良かったと思ったから」と聞かされ、改めて不破の力に驚いたという。不破自身、ペースアップをした瞬間にきつさを感じ、不安もあった。そんな時に思い浮かんだのが、苦しい時に自分を支えてくれた人たちの顔だった。感謝の気持ちを結果で伝えたい。それが今、不破の原動力になっている。また同時に、145日ぶりの復帰レースで改めて走ることの楽しさを実感した。

不破はレース中、自分を支えてくれた人々の顔を思い浮かべていたという

「世界で戦う中で日本記録は一つの通過点」

不破は7月、五十嵐監督とともに世界陸上10000m決勝を現地で見た。自分が目指していた舞台で世界のレベルの高さ、スピードを肌で感じ、とりわけ廣中璃梨佳(日本郵政グループ)の積極的なレース展開は強く印象に残っている。「選手の強さを直接感じられて、もっと気が引き締まりました」と不破は言い、この選手たちに勝つには何が必要なのかを考えるようになった。

2023年8月に世界陸上(ハンガリー・ブダペスト)が、翌23年にはパリオリンピックが控えている。世界陸上の参加標準記録は30分40秒00。だが不破が目指しているのはその先、新谷仁美(積水化学)が持つ日本記録(30分20秒44)の更新だ。「世界で戦う中で日本記録は一つの通過点。そこを切らないと世界では勝負できない」と不破は言い切る。これから駅伝シーズンとなり、不破も10月30日の全日本大学女子駅伝(杜の都駅伝)を見据えているが、12月には日本インカレと同じたけびしスタジアム京都で開催予定の大会で記録を狙う。

世界陸上を肌で感じ、「もっと練習を積んで、大会を経験して、今度は確実に世界陸上にいけるように頑張りたい」と思うようになった

昨シーズン、不破はトラックでも駅伝でも快進撃を見せ、多くのメディアから注目され、多くの人たちから応援されるようになった。走れない歯がゆさを一番感じてきたのは不破自身だ。まだ万全な状態ではなく、不安もあった中、勇気を振り絞って攻めたのは不破の強さであり、思いの強さの表れだろう。苦しい日々を乗り越え、世界を見据えて突き進む19歳の不破聖衣来は、これからもっともっと強くなる。

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