福岡大・兒玉芽生「結果で恩返ししたい」 9レースを戦い抜いた日本インカレで涙
第90回日本学生陸上競技対校選手権大会
9月17~19日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場
兒玉芽生(福岡大4年)
女子100m 優勝 11秒51(追い風0.5m)
女子200m 3位 23秒91(向かい風0.9m)
女子4×100mリレー 優勝 44秒51(伊藤/兒玉/渡邊/城戸)☆学生新記録
女子4×400mリレー 4位 3分40秒46(安定/渡邊/兒玉/河津)
「やっぱり3冠とりたいという気持ちはあって、先生たちや仲間たちに結果で恩返ししたい気持ちもあったんですけど……。でもこの3日間全力でやってきて、後輩たちに何か伝えられたことはあったのかなと思います」
兒玉芽生(4年、大分雄城台)は福岡大学の主将として最後の日本インカレに臨み、4×400mリレー決勝を含む9レースに出場。前回大会で3冠(100mと200mと4×100mリレー)、今年の日本選手権で2冠(100mと200m)、東京オリンピック4×100mリレー日本代表。兒玉は輝かしい経歴を持つゆえのプレッシャーを感じながら最後まで戦い抜き、涙ながらに仲間たちへの感謝の気持ちを口にした。
目指し続けてきた学生新記録
今大会の兒玉のスケジュールは、1日目に100m予選と4×100mリレー予選、2日目に100m準決勝と200m予選と4×100mリレー決勝と100m決勝、3日目に200m準決勝と200m決勝と4×400mリレー決勝というものだった。特に2日目は4×100mリレー決勝で44秒51という日本学生新記録をマークした後に、100mでは11秒51(追い風0.5m)で優勝し、両種目で2連覇を成し遂げた。
4×100mリレーでの学生新記録は、2年間ずっと狙ってきたものだった。タイムが表示された瞬間、メンバーは目に涙を浮かべながら喜びを爆発させた。「チームメートや信岡(沙希重)先生と、時には意見をぶつけ合いながらやってきました。4人、補欠、先生とやってきました」と兒玉は仲間の存在を強く感じている。
「予選、準決とかなりきつくて、アップもできないくらいきつくて、リレーがどうなるかというのはあったけど、リレーで目標達成できたことがうれしくて、100mも乗り切れたなと思います」。兒玉は笑顔で話したが、課題としていた中盤から後半の走りをうまく修正できなかったことに悔しさを感じていた。「追われる立場になって、苦しさもあるんですけど、その中でしっかり勝ち切ることは福島(千里)選手(北海道ハイテクAC)のような強い選手になれる第一歩だと思うので、苦しい中でも自分なりに向き合いながらこれからも勝負にこだわりってやっていきたいです」。兒玉は自分に言い聞かすようにそう口にし、2日目を終えた。
ボロボロでも、最後のマイルは仲間と一緒に
最終3日目の200m決勝、これまで全てのレースで1着だった兒玉が初めて他の選手に首位を明け渡し、23秒91(向かい風0.9m)での3位となった。疲労が抜けていないという以上に、精神的に追い詰められていたという。「気持ちがやっぱり、完全に弱ってたんで、そこさえできれば勝てたという自信があったし、だけどその場で発揮できなかったのは自分の弱さ。負けるのが怖くなっていました……」
200m準決勝を走る前から4×400mリレー決勝を走ると決めていた。ただ200m決勝で敗れたことで気持ちが沈んでしまい、「走れないかもしれない」と思ってしまったという。兒玉はそれまで、個人種目で結果を出すために4×400mリレーを回避してきたが、今大会だけは仲間と一緒に戦いたいと考え、メンバー入りを決意した。4年生4人でつなぐリレー。気持ちを入れ直し、最後のレースに臨んだ。
3走目、兒玉は5番でバトンを受け取った。すぐに1人を抜き、最後の直線で首位だった園田学園女子大学の時田莉帆(4年、西宮今津)に迫ったが、追い上げてきた立命館大学の壹岐あいこ(3年、京都橘)に抜かされ、2番でバトンをつないだ。アンカー勝負で4位となり表彰台を逃したが、兒玉は仲間たちをたたえながら笑顔でフィールドを後にした。
仲間の存在に救われた
全ての競技を終えた兒玉は涙をこらえられなかった。「200mで負けたことももちろん悔しいですけど、それよりも、福大で戦えたことが本当にうれしくて、福大を選んでよかったなとすごく思っていました」。兒玉はこのラストイヤー、主将としてチームを支えてきた。代表活動もあった兒玉はチームを離れる期間も長く、特に東京オリンピック前は全てをそこに傾けてきた。そんな兒玉に対し、仲間は「芽生がそっちで頑張ってるなら、私たちはこっちで頑張る」と言ってくれ、その言葉に救われたという。
「それまでは仲間で頑張るというよりも1人で頑張るというところが大きくて、孤独な部分があったんですけど、今年1年は特に仲間と一緒に戦うという気持ちがありました。今回の4継(4×100mリレー)もそうですし、マイル(4×400mリレー)もチームのためにやろう思えたことが自分の中で変われたところだったので、本当に主将として何ができただろうと思いますけど、仲間がついてきてくれたのはすごくうれしかったです」
それまでの兒玉は人に頼らず、自分で乗り越えようとしてきた。そんな中で主将になり、代表活動でチームを離れる機会を増え、仲間に頼ることを学んだ。大学4年間を振り返ると、重圧も含めてつらいと感じることの方が大きいという。それでも今、胸にあるのは先生や仲間への感謝の思い。「先生や仲間、後輩もいて恵まれた環境でやってきて、逃げずに戦ってこられました」。兒玉は何度も涙をぬぐいながら、話してくれた。
4継で戦うためにも個人種目で世界に挑む
大学卒業後は実業団に進む予定だ。100mで11秒4~5台を安定して出せるようになった今、福島がもつ日本記録(11秒21)の更新を狙うには、そのレベルを11秒2~3台にまで高める必要性を感じている。冬季練習では特に上半身のウェートトレーニングを強化して土台をつくり、来シーズンに記録を狙う。100mの自己ベストは前回の日本インカレでマークした11秒35(向かい風0.2m、日本歴代3位)。「レースでは力んでしまったんですけど、100mは特にベストが出るんじゃないかというくらい感覚がいいので、そこを発揮していきたいです」と自信をのぞかせる。
「個人種目でオリンピックや世界陸上に出ていかないと、4継女子も世界で戦えないことをすごく感じた年だったので、まずは来年の世界陸上に出場できるように標準記録突破(11秒15)を目指してやっていこうと思っています」
東京オリンピックが決まった2013年から、兒玉はその舞台に立つことが夢だった。これからは夢の舞台から得たものを更なる成長に変えていく。