泉谷駿介と村竹ラシッドの最後の順大対決は泉谷がV、東京五輪で得た悔しさと楽しさ
第90回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子110mH決勝(+1.4)
9月19日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場
1位 泉谷駿介(順天堂大4年) 13秒29★大会新記録
2位 横地大雅(法政大3年) 13秒47
3位 村竹ラシッド(順天堂大2年) 13秒48
4位 樋口陸人(法政大4年) 13秒63
5位 藤原孝輝(東洋大1年) 13秒72
6位 栄田竜生(日体大3年) 13秒73
7位 徳岡凌(立命館大4年) 13秒76
8位 二ノ宮裕平(京産大4年) 13秒85
順天堂大学の泉谷駿介(4年、武相)と村竹ラシッド(2年、松戸国際)はともに1年生の時に日本インカレ110mHを制している(泉谷は過去2大会を欠場)。今大会は2人が順天堂大のユニホームを着て走る最後の勝負となり、泉谷は13秒29(追い風1.4m)の大会新記録で優勝、村竹は13秒48(同)の3位でそろって表彰台に上った。
2人にとっての日本選手権決勝
泉谷は6月の日本選手権で日本人初の13秒0台となる13秒06(追い風1.2m)をたたき出し、東京オリンピック日本代表に内定した。この記録はアジア歴代2位、今季世界ランキング3位につけていたこともあり、メダル候補として注目を集めていたが、東京オリンピックでは準決勝3組で13秒35の3着。タイムは決勝に進む8番目と0.03秒差、準決勝全体では10位だった。
その後、8月28日のAthlete Night Games in FUKUI 2021に走り幅跳びに出場する予定だったが、腰に痛みが出てしまい、出場を見送った。「単純に疲労だったようです」と泉谷は言い、そこから1週間ほど体を休め、日本インカレに向けて調整を始めたのは大会の1週間前だった。今大会には110mHのほかに、走り幅跳びと4×100mリレーにエントリー。ハードルの練習は1、2回にとどめ、走り幅跳びでは8m台を跳べる手応えを感じられたという。
一方、村竹も6月の日本選手権では予選で13秒28(追い風0.5m)と日本歴代3位の記録を出し、東京オリンピック参加標準記録を突破。その勢いのまま翌日の決勝に臨んだが、人生初のフライングで失格。大きな悔いを残すこととなった。村竹は8月のAthlete Night Games in FUKUI 2021に110mHで出場したが、3台目のハードルからスタミナ不足を痛感。13秒70(向かい風0.7m)と苦しい走りとなった。その後は日本インカレに向けて練習を積み、スタミナへの不安を軽減できたという。
泉谷が跳躍“解禁”
大会初日の9月17日、泉谷は走り幅跳びの競技中に4×100mリレーの予選を走るというスケジュールだったため、「幅は3本跳べたらいいかな」と考えていた。1回目に7m70(追い風0.1m)を跳んで2位につけ、2回目に7m63(追い風0.9m)を跳んでからは4×100mリレー予選の方に移動。アンカーとして組1着、全体で2番目のタイムでチームを決勝に導き、再び走り幅跳びに戻ってきた。泉谷は最終試技で3本目を跳び、7m73(追い風0.6m)と記録を更新。結果は3位だった。
競技後、「ちょっと思ったよりも微妙だったですね」と泉谷。助走がかみあわず、板の手前で踏み切ってしまった。練習では中助走で7m70程度跳べていたこともあり、「8mを跳びたかったんですが……」と悔いを残した。それでも、苦手としてきた着地はうまくいったという。翌18日から始まる110mHに対しては「記録は13秒5、6でもいいので、しっかり優勝することが目標です」と言い切った。
110mH予選、1組目に出場した泉谷は13秒44(追い風0.1m)で早速に大会新記録をマーク。村竹も13秒59(追い風0.5m)と従来の大会記録を更新し、「まぁいいんじゃないですかね」と復調を実感。泉谷は「村竹と一緒にワン・ツーをとりたいです」と言い、村竹も「まだ本調子ではないので何とも言えないんですけど、(泉谷に)しっかり食らいついていきたい」とコメント。泉谷が言う「ワン・ツー」のワンは泉谷自身のことを言っているのでは?と村竹にたずねると、「もう気にせず突っ走ります」と力を込めた。
続いて泉谷は4×100mリレー決勝のアンカーとして登場。4~5番手から追い上げる展開となり、最後は立命館大学と競り合いながらフィニッシュ。早稲田大学が優勝し、順天堂大は立命館大に0.02秒差で敗れての3位となった。
村竹「記録だけでなくいろんな意味で成長できた」
最終日は110mHの準決勝と決勝というスケジュール。準決勝で泉谷は13秒74(追い風1.0m)、村竹は13秒55(追い風1.4m)でともに1着で通過。決勝では泉谷が4レーン、村竹は7レーンとなった。
3日間レースが続いた泉谷は両足の太もも全体にテーピングを巻き、スタートラインに立った。スタートしてすぐに泉谷が先頭に立つと、そのまま後続を引き離す。村竹は横地大雅(法政大3年、城西)と競り合いながら泉谷の背中を追ったが、最後のハードルを跳んだ後にバランスを崩し、最後は失速しながらフィニッシュ。泉谷は大会新記録で優勝、村竹は横地に0.01秒差で敗れての3位だった。
村竹は決勝でのレースを振り返り、「あまり後半崩すことがなかったので、うまく対応できませんでした。かなり悔しいです」とコメント。予選、準決勝とタイムを上げて決勝を迎えられ、感覚としてもまずまずの手応えがあっただけに、力を出し切れなかった悔しさが残った。「完全に体力が戻りきってない中での試合だったので、もうちょっと練習するべきだったのかな」
このレースが今シーズン最後の110mHだったことを踏まえ、「今年はいろんな意味で、それまでに経験しえなかった出来事を体験できたので、記録だけでなくいろんな意味で成長できたシーズンだったのかなと思います」と振り返る。ハードリングに関してはある程度形になっているという感覚はあるが、「スプリントやウェートの部分など、もっといろんな面で強化すべき点はあるんで、そこをこれからしっかり強化していきたいです」。来年7月開催予定のユージン世界選手権に向け、参加標準記録(13秒32)の突破を目指す。
泉谷、五輪の悔しさを思い出しながら歯を食いしばる
泉谷はゴール後、地上に視線を落としながら笑みを浮かべ、しばらくして空に指で「1」を指し示した。「やっと終わった!という安心が強かったです。久々のハードスケジュールで、全3日間出るというのは初でした」。両足にしっかりと巻いたテーピングに目を落とし、「結構、パンパンです」と苦笑い。「決勝はどんな形でもいいのでしっかりと勝つことを意識してました。中盤もたついてヒヤヒヤしたところはあったんですが、この状態で(13秒)2台を出せてうれしいです」
今大会にはトレーナーが力になってくれ、この3日間は入念なケアをして臨んだ。「本当は三段跳びもやりたかったんですが、足の状態もそうですけど腰もきつかったんで……」。4×100mリレーはチームのためにという思いから出走し、東京オリンピックに向けて封印した跳躍もやっと解禁することができた。体はボロボロではあったが、泉谷の表情は晴れ晴れとしていた。
続くレースとして、泉谷は10月16日の順天堂大学競技会で100mに出場する予定だ。目標は10秒2台での自己ベスト。4×100mリレーでの走りが自信になったのでは?と聞かれても、「リレーは結構、力んでしまって自分の走りがあまりできなかったので……。みんなこんな中でリレーやってるんだな、難しいなと思いました」と言い、リレー選手たちのすごさを改めて感じたという。
けがに苦しんだそれまでのシーズンを思うと、今シーズンは13秒06をマークし、東京オリンピックを経験し、泉谷にとって飛躍の年となったのは間違いない。しかしその東京オリンピックに対しては悔しさしかないという。「ハードルのレベルが世界的にも上がっています。(13秒)06のタイムでも勝負できないところはあると思うので、これをアベレージにしていきたいです。この悔しさをつらい時に思い出して、歯を食いしばってやっていけたらいいな」
もう1つ、東京オリンピックで感じたことがある。「勝てなかったことで半減しましたが、改めて陸上は楽しいなと思いました」。世界最高峰の舞台でも、むしろだからこそ、楽しいという気持ちが湧いてくる。それが泉谷の原動力なのだろう。