陸上・駅伝

連載:女性アスリートという生き方

日体大短距離・湯淺佳那子「陸上って一番かっこいい」 笑顔と涙のラストイヤー

湯淺は国体成年女子100mで初優勝を飾り、今シーズンを終えた(イメージカットはすべて撮影・藤井洋平)

女性アスリートが普段の生活で大切にしている生活習慣や考え方、体づくりの秘訣(ひけつ)に迫る連載「女性アスリートという生き方」の第6弾です。日本体育大学の陸上部女子主将として活躍してきた湯淺佳那子さん(4年、広島皆実)にインタビューしました。ラストイヤーの今シーズンは日本インカレ100mと国体成年女子100mでともに優勝。来年の東京オリンピック出場を目指しています。

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全国7位で終わった高校時代、悔しさから陸上を続けた

――まずは、陸上を始めたきっかけを教えてください。

小学校のときから足が速かったので、お母さんが「競技としてやってみたら? 」と地域のクラブチームに入れてくれたんです。それが小学5年生のときです。それからすぐ、地元の広島で開催される織田陸(織田記念)の参加標準記録を切って、6年生のときに織田陸で優勝しました。そこから本気で陸上をやるようになりました。

――高校時代も活躍されましたが、当時はどんな思いで競技に取り組んでいましたか?

私が1年生のときに3年生だった福部真子先輩がインターハイの女子100mハードル(H)で3連覇したんです。すごく大きな刺激を受けました。先輩を見て「私も全国で一番になりたい! 」と思うようになったんですけど、結局、高校時代の最高成績はインターハイ7位だったので悔しくて……。でもその悔しさがあったからこそ「このままじゃやめられない! 」って、大学でも陸上を続ける決意ができました。しかも真子先輩のいた日体大から声をかけてもらえたので、即決でした。

――大学と高校では意識に変化はありましたか?

高校時代よりも仲間を意識するようになりました。(日体大には)世界大会の代表もいるし、すごいと思う人がたくさんで、毎日が刺激的です。後輩にも美来(山田美来、2年、盛岡誠桜)や真衣(福田真衣、3年、東京)がいるし、「負けていられない」と気合が入ります。練習でも、自分が苦手なことを周りの人がうまくできてると悔しいんですよ。とくにメディシンボールを使ったバウンディングなんかが苦手なので、うまくできてる人を見ると「私も頑張らなきゃ! 」って思います。

――毎日どのくらい練習するんですか?

練習がある日は朝7時ごろに起床して、ご飯を食べて準備したら学校に向かい、11時ごろにはグラウンドに着くようにしてるんですけど、先生が指導してくれる練習は12時からの1時間だけです。土日は2、3時間やることもあるんですけど、平日は1時間の練習に3時間くらいの練習量を詰め込んでます。ものすごく凝縮された内容で、大村先生(大村邦英総監督)しかできないんじゃないかと思うような練習です。メディシンボールを使った補強がメインで、1時間を有効に使えるよう、先生がいらっしゃる前に自分たちで準備体操なんかは済ませておきます。あとは、練習後にトレセン(トレーニングセンター)で自主練をやることもあります。お風呂から上がったあとのストレッチは、毎日欠かしません。

活躍を喜び合える仲間や先生がいる幸せ

――大学で成長したと感じる部分はどこですか?

精神的にも強くなったし、パワーがつきました。前は大きな試合に出ると、どうしても緊張して自分らしいパフォーマンスができなかったけど、いまは自分の走りができてます。今年の国体もしっかり走れたし、大きな大会も落ち着いて臨めるようになりました。

最後の日本インカレで湯淺は100mを制した(撮影・安本夏望)

――大学時代に一番印象に残っている大会はどれですか?

一番うれしかったのは、自分が(100mで)優勝できた今年のインカレだけど、一番印象に残ってる試合はと聞かれたら、真愛(広沢真愛、4年、八王子)が(1600mリレー決勝で)5人抜きして優勝した去年のインカレですね。私が足を引っ張った分、真愛が追い抜いたのが本当にすごくて。何とも言えない感情になりました。あの大会は一生忘れられません。

――チームメイトと強い絆で結ばれているんですね。

そうですね。競技によっては一人の結果でしかないものもあるけど、その結果を出すまでにいろんな人のサポートがあるし、陸上ってほんとに、見ていても一番かっこいい競技だなと思ってます。

――今年のインカレでは優勝後、先生の前で涙を見せていたのも印象的でした。

「絶対勝たなきゃ」と思ってたし、リレー(400mリレー予選)で落ちた分、私が取り戻したい思いもあったので、その気持ちから解放された瞬間、ホっとしたんだと思います。それに、大村先生や仲間たちが喜んでくれたことも本当にうれしかったです。

女子の100mも注目されるようにしたい

――大きな大会の前にはプレッシャーを感じることもあると思いますが、休みの日にはうまく息抜きができていますか?

私は外に出るのがあまり好きじゃないので、遊びに行ったりすることはほとんどないんですけど、今年猫を飼い始めたので、猫と遊ぶのが息抜きになってます。集団生活があまり得意ではなかったので、1年生の後半で寮を出たんですけど、一人暮らしをしてると、部屋に帰ったとき誰もいないのが寂しくて。だから猫を飼いたいなとずっと思ってたところに、友だちが、里親を募集している猫がいることを教えてくれて、一緒に暮らし始めました。名前は「みにどら」って言います(笑)。

――それは早く家に帰らないといけないですね。夕食はご自宅ですか?

はい、自炊してます。そんな凝ったものは作れないんですけど、ハンバーグとかオムライスとかにも、ブロッコリーは添えるようにしてます。ブロッコリーって体にいいイメージがあるし、おいしいから(笑)。あと、スープや味噌(みそ)汁は必ずつけますね。よく入れるのはタマネギ。タマネギも体にいいし、何にでも使えるから好きです。栄養についてそこまで詳しいわけじゃないんですけど、タンパク質をしっかり摂ることやビタミンの摂取は意識してます。大村先生からサプリメントをいただくこともあるので、気に入ったら買い足したりもしますね。

――体づくりも万全ですね。

今年は肉離れが原因で左足が弱くなったので、左右の差をなくすためのトレーニングや、お尻をしっかりと使えるようになるため、パンプアップにも力を入れてきました。オリンピックに選ばれるためにも、いまできることは全力で頑張ってます。100mと200mでいい結果を出したいですけど、100mは11秒3をコンスタントに出せるよう練習を続けてます。200mでは23秒5のキープが目標です。

――来年はいい年になりそうですね。

はい。オリンピックに出られたら、家族や友だちにもたくさん応援に来てほしいです。100mって男子ばかりが注目されてて、女子の走りは見ないで帰っちゃうお客さんも多いんですけど、女子の試合も満席になってくれたらうれしいです。そのためにまずは、自分がいい結果を出すことが第一だと思ってます。その先には選手の育成に関わることもあるかもしれないし、大好きな陸上のためにずっと貢献し続けたいですね。

女性アスリートという生き方

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