陸上・駅伝

立命館大の壱岐いちこ・あいこの壱岐姉妹、夢は姉妹バトンパスでインカレV

100mを走り終えた直後、姉のいちこ(左)に続いて妹のあいこも笑った

第53回織田幹雄記念国際 女子グランプリ100m予選2組

4月28日@エディオンスタジアム広島
4位 壱岐いちこ(立命館大4年) 11秒90(+1.6m)
5位 壱岐あいこ(同1年) 11秒93

陸上の織田記念2日目の4月28日、女子100m予選2組で姉妹対決が実現した。2レーンに壱岐(いき)姉妹の姉いちこ(立命館大4年、京都橘)。隣の1レーンに妹のあいこ(同1年、同)。ふたりが並んで走るのは、2016年の京都選手権で一度あっただけだ。

好スタートを切った姉が先行し、妹が徐々に差を縮める。0.03秒差で姉が勝った。ともにA決勝進出はならなかったが、寄り添って、とびきりの笑顔でしゃべった。

姉、一緒に走るのは「めっちゃ嫌」

国内トップ選手がそろう大舞台で、姉妹が並んでのレースになった。お互いにどう感じたのだろうか。「めっちゃ嫌でした」といちこ。あいこは「嫌でしたけど、『めちゃくちゃ嫌』とか『うわ、めっちゃ緊張するな』ってことはなかったです」と言ったあと、「姉は嫌だったと思います。私がお姉ちゃんだったら嫌なんで」と、いちこの気持ちを察した。話は別々に聞いたのに、心が通じ合っていた。

同じスポーツをするきょうだいは年上の子の影響を受けて年下の子も、というケースが多いが、壱岐姉妹は違う。いちこは中学校で陸上部に入ったが、「部活に絶対入らないといけなかったので、そのときは消去法で陸上を選んだぐらいでした」と話す。あいこはというと、幼稚園のときから周りの子よりもかけっこが速く、走ることが大好きだった。「運動会とかで負けるのが嫌」という気持ちから、小学校5年生のときに地域のクラブチームで陸上を始めた。お互い専門が短距離になったのは、たまたまだそうだ。

走り始めたきっかけこそは違うが、同じ舞台で走っている

ともに中学生のときから頭角を現した。高校生になると、いちこは国体の少年女子A100mで2位に入り、400mリレーは優勝。あいこはインターハイで200mと400mリレーで優勝した。いちこが立命館大に進学してからは、周りも「あいこも立命なんでしょ? 」と期待する声もあったという。いちこもあいこに立命館進学を勧めたが、あいこには思うところがあったという。

「お姉ちゃんとやるのは、私は嫌なほうで、一緒に練習するのも嫌なほう。『どうせ妹も立命やろ 』と思われるのも嫌だったんですよ」

その理由はこうだった。

「普段はめちゃめちゃ仲いいんで、陸上をしてる自分を見られるのが嫌だったんです。練習中にふざけたりとかしないので。家の自分と陸上のときの自分の違いを見られるのが嫌っていうか、自分が一生懸命になってる姿を見られるのが嫌っていう感じでした」

いちこといるとき、あいこはよく変な動きや顔であいこを笑わせようとするそうだ。それをいちこが撮影してはインスタグラムのストーリーズにアップしている。「周りの人にも『この姉妹、仲いいな』って思われてると思う」とあいこ。だからこそ、真剣な自分を見られることが照れくさい。

100mの結果を電光掲示板で確認するいちこ(左)とあいこ

それでもあいこが立命館に進んだのは、家から近いこともあったが、陸上部の環境がよく、速い選手と一緒にリレーを走りたいという思いからだった。この春に進学したばかりだが、「お姉ちゃんの妹やからとかで、もともと知ってる方も多くて居心地がいいです」と、あいこは笑う。

いつかは一緒にジャパンのユニホームで

いちこにとっては学生としてのラストイヤーが始まった。自己ベストは100mが11秒66、200mが23秒97。6月の日本選手権に出場し、最後のインカレで優勝するのを目標に掲げている。ただし、この織田記念の前は十分に練習が積めていなかったという。予選9~16位の選手が走るB決勝は11秒95で4位だった。実はこのB決勝でも4、5レーンであいこと並んで走る予定だったが、あいこは予選で足に張りを感じたため、照準を合わせている5月3日の静岡国際に備えて欠場した。遠征が続いていたいちこは、織田記念の結果も踏まえて、もう一度練習に取り組む。いつかは、あいこと一緒に国際大会に出るのを夢見ている。

あいこは立命館での4years.の目標を「100m、200mで日本のトップで勝負するのが最低目標」と話した。インカレの100m、200m、400mリレーで三冠を狙う。チームとしての総合優勝も、もちろん目指す。あいこもまた、いちこと一緒にジャパンのユニフォームで走る日を目指している。

3歳差のため中学と高校は在籍時期が重ならなかったが、今シーズンだけは同じ立命館のユニフォームでリレーを一緒に走れる。コーナーが得意ないちこが3走を担い、直線が得意なあいこにバトンを渡す。いちこにとって最後のインカレをふたりでつなぎ、優勝をともに笑い合えたら――。ふたりの言葉が、また重なった。

今年のインカレは立命館大のユニフォームで姉妹バトンができる、最初で最後のチャンスだ

織田記念の予選で隣り合ったふたりが、走り終えた直後にどんな話をしたのか気になっていた。追い上げてくるあいこの気配を感じていたいちこは「ちょっとー、こやんといてよ」と笑い、後半型のあいこは「一緒ぐらいやん」と言って笑ったそうだ。いちこは「妹には負けたくないです。負けないです。たぶん」と笑う。その意味では、あいこには姉だからどうという意識はない。「トップを目指してるから、同じ競技者として勝ちたいという気持ちの方が大きいです」

日本トップを目指す学生最高峰の姉妹対決が、ここにある。

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