クライミング

連載:女性アスリートという生き方

青山学院大・中村真緒 ボルダリングだけは、ずっと飽きなかった

中村さんは小6で本格的に始めたボルダリングで、東京オリンピックを目指している(イメージカットはすべて撮影・佐伯航平)

女性アスリートが普段の生活で大切にしている生活習慣や考え方、体づくりの秘訣(ひけつ)などに迫る連載「女性アスリートという生き方」の第二弾。今回お話を伺ったのは、6月の「IFSCクライミングワールドカップ」で6位に入賞した中村真緒さん(青山学院大2年、学習院女子日出)です。

バレエで鍛えた体幹が武器 ラクロスで広がった廣瀬藍の夢

自分を超えていく楽しさ

――ボルダリングを始めたのは小学生のときなんですね。

中村:幼稚園のころから運動が好きで、ボルダリングの前にはクラシックバレエやテニスも習ってました。ほかにはピアノも自分から言って習わせてもらったんですけど、どれも長続きしなかったです(笑)。でも小6から始めたボルダリングだけは違いました。いまのところ、8年間飽きずに続けられてます。

――ボルダリングをやろうと思ったきっかけはどんなものだったのでしょうか。

中村:小6のときに犬を飼い始めたんです。ずっと「飼いたい」って親に言ってたんですけど、3年越しでその夢をかなえてもらいました。自分が飼いたいと言ったからにはちゃんと世話しなくちゃ! と思って、夏休みの予定を全部なしにしたのはいいんですけど、すごくよく寝る犬だったから毎日やることがなくなっちゃって……。見かねた母が、近所のクライミングジムに通うことを提案してくれたんです。

――行ってみたらはまった、と。

中村:そうなんです。小4のときに体験したことがあって、そのときから「クライミングって楽しいな」って思ってたんです。改めて行ってみたら、ジムの人も優しく教えてくれたからみるみるはまって。そこからはほとんど毎日通うようになりました。そのころはまだテニスも習ってたんですけど、クライミングの方が楽しくなって、テニスはやめました。

――どんなところが楽しかったんですか。

中村:クライミングの一番の魅力は、登れたときに大きな達成感を味わえることです。ほかの選手と競い合う競技ですけど、競技中に向かい合うのは壁です。「壁vs人」という中で自分と向き合って、これまでの自分を超えていく楽しさがあります。

ボルダリングの魅力は、登れたときの大きな達成感だという(撮影・荒木優一郎)

――大会に出場し始めたのはいつからですか。

中村:初めて出たのは、2015年に鳥取で開催された「全日本クライミングユース選手権」です。高1でした。優勝できたんですけど、自分のことを知ってる人が誰もいなくて、プレッシャーを感じることもなかったのがよかったのかもしれません。それ以来、クライミングの大会に出場することがすごく楽しくなって、いろんな大会に出てきました。

――その中でも一番印象に残っている大会はどれですか。

中村:同じ高1のときにマレーシアであった「IFSCクライミング・アジアユース選手権」です。この大会でも優勝できたんですけど、より競技に集中できる環境を考えて転校を決意しました。小学校から同じ系列の学校で育ってきたので、友だちと離れることに不安な気持ちはありましたけど、それよりもクライミングを続けたい気持ちの方が強いということを自分でも確認できました。まさに、私にとって人生を変えた大会ですね。

1日4~5時間登り、食事と睡眠はたっぷり

――普段はどんな練習をしているのですか。

中村:クライミングって、コーチがいなくてみんな個人で練習する競技なので、自分で自分の登りを分析して、弱いところを鍛えていくことが必要なんです。どういう風に分析するかというと、大会の動画でほかの選手との動きを見比べて、「あの人がここを登れたのはこういう動きをしたからなんだ」といったもの発見して、取り入れていくといった具合です。逆に自分の方が優れているところも見つかったりするので、そこはさらに伸ばせるように練習します。練習に関しては都内在住なので、いろんなクライミングジムを回れる点は恵まれてるなと思います。壁のつくりがジムによって違うので「持久力を強化したい」「ダイナミックな動きをもっと上手になりたい」など、そのときの課題に合わせてジムを使い分けるようにしてます。

――1日の練習時間はどのくらいですか。

中村:学校のある日は、授業が終わるのが午後3時、4時くらいなので、そのあとジムに向かって、5時ごろから4~5時間は登ります。学校が休みだと、オフシーズンは朝からジムに行くこともありますけど、逆にシーズン中は練習しすぎると本番で発揮できる力まで消耗してしまうので、練習はセーブします。毎週末に大会に出場して、月曜日に帰国。火、水曜日は練習に充てるけど、木曜日にはまた次の大会の開催地に移動という感じですね。

――移動も多くて健康維持が大変そうですね。日ごろ心がけていることはありますか。

中村:3食きちんと摂(と)ることくらいです。といっても自炊はしてなくて、母につくってもらってます(笑)。朝と昼はしっかり食べて、夜はお肉中心の食事が基本です。クライミングは壁にぶら下がるスポーツなので、あまり重くなると登れなくなるので気を付けてます。

――リフレッシュしたいときは、どんなことをして過ごしますか。

中村:とにかくクライミングをしてる時間が一番楽しいので、友だちと遊びに行ったりする時間がなくても気になりません。家にいるときは、だいたい寝てるかベッドの上でゴロゴロしてるか(笑)。小6のときに飼い始めた犬もいまだに寝るのが大好きなので、一緒にベッドでゴロゴロしてます。家族みんな、寝るのが好きなんですよ。

東京五輪に向け、まずは世界ユースで優勝を

――ご家族は大会に同行されることもあるんでしょうか。

中村:ないです。海外ではチームのみんなと一緒に行動します。それでも日本時間の朝4時終了の大会なんか、youtubeの生中継を観て応援してくれてるみたいで、終わった後に「お疲れさま」のメッセージをくれるからうれしいですね。家族の応援はもちろん、観客のみなさんからの応援にも、とても励まされます。私は競技前には必ず、お客さんの方を向いて一礼するようにしてるんですけど、そのとき「こんなに大勢の人が応援してくれるんだ」と分かると心強いし、観客のみなさんの応援と自分の集中力によって、普段なら絶対できないようなことができることもあります。

――選手としての自分の強みはどんなところだと思いますか。

中村:クライミングの壁には、床から垂直に立っている「垂壁」、奥に向かって傾いた「スラブ」、スラブとは反対に手前に向かって傾斜した「オーバーハング」などがあるんですけど、私が得意なのはスラブです。逆に、オーバーハングで傾斜が強いものは苦手なので、強化していきたいですね。あと、自分は小柄な方なのでホールド(石)とホールドの間隔が狭いと有利な場合もあるんですけど、選手の平均身長が高い海外の大会だと、次のホールドが果てしなく遠くて、すぐにはクリアするのが難しいことがあります。そんなとき、次の課題を先に登りきる判断をすることが重要になる場合もあります。

――今年の目標を教えてください。

中村:8月の終わりにイタリアである「世界ユース選手権」で優勝することです。東京オリンピックに向けての選考も始まってるので、なんとしてもいい結果を出したいです。そのためにも、クライミングの3種目のうち、自分が得意な「ボルダリング」以外の「スピード」と「リード」の練習を重ねていかなきゃなと思ってます。「スピード」は名前の通り、登る速さを競う種目です。男子だと5秒で勝敗がつくこともあるし、観ている方も勝負の結果が分かりやすくて楽しいですよね。「リード」はどこまで登れるかを競う種目で、持久力を試されるので、筋トレも強化しながら、この両種目の克服に挑みたいです。

――東京オリンピックの選考、そして本番の戦いも楽しみにしています。

中村:ありがとうございます。日本は世界でもクライミングが強い国として知られてるので、まずは日本で一番になって、クライミングというスポーツの魅力を多くの人に知ってもらうことにも貢献していきたいです。

「選手から元気や勇気をもらうこともある」法政チアリーディング部・小野澤理紗

女性アスリートという生き方

in Additionあわせて読みたい