水泳

特集:第30回ユニバーシアード

苦しむ東洋大・今井月 再浮上へキックの感覚取り戻せ

今井(左)はユニバーシアードで再起を図る(写真は今春のジャパンオープン前日練習から、隣は日本代表の平井伯昌コーチ、撮影・諫山卓弥)

2年に1度開催され、「学生のオリンピック」とも呼ばれているのがユニバーシアードです。台湾・台北が舞台だった前回、日本は37個の金メダルを獲得し、夏季大会では初めてメダル獲得ランキング1位となりました。今年は7月3日から14日まで、イタリア・ナポリで開催されます。開幕に先立ち、4years.では今大会に参加する大学生アスリートを紹介します。1人目は水泳女子200m個人メドレーの東洋大1年の今井月(るな、豊川)です。

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「進んでる感じがしない」

中学時代からその実力を注目された今井は、いまや平泳ぎと個人メドレーの実力は世界トップクラスにある。大学生となった今年、練習環境も生活環境も大きく変わった。今井は4月の日本選手権の200m個人メドレーで2分10秒61で3位に入り、ユニバーシアードの代表権を獲得した。しかし今井にとってこの結果は、とうてい納得のいくものではなかった。

今井は2月のコナミオープン前の合宿で腰を痛めてしまい、自分がもっとも得意とする平泳ぎのキックの感覚が一気に悪化した。「進んでる感じがしない」と、苦しみを吐露していた。

それでも自分にできることを一つひとつ積み重ねた。腰の状態が少しずつよくなるにつれ、キックの感覚も取り戻しつつあった。とくに日本選手権直前にスペイン・グラナダでやった高地合宿では、大橋悠依(東洋大~イトマン東進)ら世界のメダリストたちと一緒にトレーニングし、「世界でもっと上を目指す先輩たちと一緒に練習できたのは刺激になりました」。少しずつ自信を取り戻していた。

けがや発熱に悩まされながらも、いい練習ができたと自信を持って4月の日本選手権に臨んだはずだった。結果は前述の通り、自己ベストに及ばない2分10秒61で3位。「タイムも結果も、とにかく悔しいです……」と、今井は涙をこらえきれなかった。

今井は4月の日本選手権で悔し涙を流した(撮影・諫山卓弥)

悔しさは残ったが、ユニバーシアードの代表に選出された今井は、後ろを振り返らずに前を向く。そんなプラス思考なのも、今井のいいところだ。

「ユニバーシアードでは、個人メドレーでしっかりと結果を残したいです。うまくいかないとき、どうしてもあきらめてしまう悪い癖が出てしまうことがあります。今年はそれを直して、一つひとつのレースに集中して、しっかりとチームに貢献できるように頑張ります」

中学で全国デビュー、高校で五輪の舞台に

今井のデビューはセンセーショナルだった。地元・岐阜の中学校に進学してすぐに迎えた2013年の日本選手権の200m平泳ぎ。まだ身体が小さく、線も細かったために、スピードがなかった。案の定、スタートしてすぐに周りから身体ひとつ分ほど遅れを取った。だがレースが進むにつれ、徐々に周囲を追い上げていく。じりじりと順位を上げていくと、最後には2分25秒14で3位となったのだ。

この泳ぎで全国的に知られるようになった今井は、その後も全国中学選手権では100m、200m平泳ぎで3年連続2冠を達成。愛知・豊川高校に進学した16年には、得意な平泳ぎと同時に強化していた200m個人メドレーで自己記録を大幅に更新し続け、リオデジャネイロオリンピックの選考会を兼ねた日本選手権で一気に爆発。バタフライと背泳ぎを終えた100mの時点では8番手だった今井は、平泳ぎで4人を抜き去り、最後の自由形でさらに2人を抜き、2分10秒76の2番手でフィニッシュ。高校1年生ながら、リオデジャネイロへの切符を手に入れた。

得意の平泳ぎで追い上げることができるのはもちろん、、今井の自由形のスピードレベルはかなり高い。とくに最後の競り合いの場面での粘り強さは群を抜いている。17年の世界選手権200m個人メドレーでも、今井はその粘り強さを存分に発揮した。リオでかなわなかった決勝の舞台を世界選手権でつかむと、そのレースではラストの自由形で世界のトップ選手たちを相手に猛追。メダルには0秒28差で届かなかったが、2分9秒99の自己ベストで5位入賞を果たした。

「予選、準決、決勝とどんどん緊張がなくなっていって、リラックスしていい状態で挑めてたので、泳ぎも自分のプラン通りできたかなと思ってます。最後の自由形は高地合宿でしっかり練習していたので、キツいところで耐えられるようになりましたし、平泳ぎのキックもだいぶ水がかかるようになってきて、それをいい感じでレースにつなげられました」

得意の平泳ぎの復調がカギ

今井のシニアの日本代表としての経験は、16年のリオ、17年の世界選手権の2大会と、意外に少ない。昨年は日本代表から外されてしまい、その悔しさを高校最後のインターハイにぶつけた。100m平泳ぎと200m個人メドレーの2種目をともに大会新記録で制し、400mリレー、400mメドレーリレーでも、豊川高校の優勝に貢献した。

「優勝できて、応援してくれてる人たちに少しは恩返しできたかなと思います。みんなで練習を頑張ってきたから、本当にうれしい」

今井復活のカギは平泳ぎにある(撮影・照屋健)

あと一歩で代表に届かないレースが多い今井にとって、今年のユニバーシアードは東京オリンピックを控えた来年に向け、非常に重要な経験となることだろう。その今井がユニバーシアードで好結果を残すカギは、やはり平泳ぎの復調だ。

今井の平泳ぎは、現役時代の北島康介さんのように抵抗を極限まで減らしつつ、爆発力のある1キックで高い推進力を得るような泳ぎではない。どちらかというと1ストローク、1キックのパワーは小さいが、減速する部分が少なく、柔らかく優しいキックで、常に進んでいるような泳ぎ方だ。爆発力なスピードはなくても、最初から最後まで一定のペースで泳ぎ続けられる。

個人メドレーにおいて、体に疲れが出始める後半の100mから150mまでを平泳ぎで泳ぐときでも、今井は少ないエネルギーで高いスピードを維持できる。だからラスト50mの自由形でも、粘りを利かせられるだけの体力を温存できているのだ。今井らしい粘りの泳ぎの礎は、この平泳ぎにある。

平泳ぎの要とも言えるキックの感覚を取り戻すこと。これができれば、今井はイタリア・ナポリではじけるような、天真爛漫な笑顔を私たちに見せてくれることだろう。

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