水泳

特集:第30回ユニバーシアード

日大・吉田啓祐 自由形のホープはしなやかに攻める

4月の日本選手権、吉田(中央)は男子400m自由形で初優勝を飾った(撮影・北村玲奈)

2年に1度開催され、「学生のオリンピック」とも呼ばれているのがユニバーシアードです。台湾・台北が舞台だった前回、日本は37個の金メダルを獲得し、夏季大会では初めてメダル獲得ランキング1位となりました。今年は7月3日から14日まで、イタリア・ナポリで開催されます。開幕に先立ち、4years.では今大会に参加する大学生アスリートを紹介します。最後は水泳男子自由形中長距離のホープ、日大1年生の吉田啓祐(日大豊山)です。

自己ベストを連発、萩野も追い詰めた

吉田は高3だった昨年から一気に記録を伸ばし、ユニバーシアード代表入りを果たした。大学生として初めて迎える国際大会で吉田はどんな泳ぎを見せるのか。期待は高まるばかりだ。

「自己ベストの出るのが止まらないんです」

昨年4月の日本選手権で、吉田はこう言った。200m自由形では予選、準決勝、決勝とベストを更新し続け、5位に入賞。400m自由形では、日本記録保持者である萩野公介(東洋大~ブリヂストン)をラスト100mで追い詰めた。かわすまでには至らなかったが、自己ベストとなる3分48秒69で3位となり、日本選手権で初めて表彰台に上った。

勢いそのままに、昨年10月にアルゼンチンのブエノスアイレスであったユースオリンピックの400m自由形で銅メダル、800m自由形では銀メダルを獲得。そして日大に進学した今年4月、日本選手権の400m自由形で、またも自己ベストを1秒以上縮める3分47秒10で初優勝を飾った。

「不安もあったけど、自己ベストで優勝できたのはすごくうれしいです。後半も去年よりもバテずに泳ぎきれました。そのあたりが去年より成長したかなと思ってます」

200mでは1分48秒19で、800mでも7分56秒62でそれぞれ2位に入った吉田は、この泳ぎでユニバーシアードの代表権を獲得。まさにトントン拍子で記録を伸ばし続け、一気に世界レベルの選手へと成長を遂げたのである。

中3のとき佐賀で悩んだ 農業か水泳か 

吉田は佐賀県唐津市で生まれ育った。中学生ですでに身長は178cmあり、全国大会での優勝経験はなかったが、泳ぎのスケールの大きさは群を抜いていた。このまま水泳を続ければ、日本代表はもちろん、世界レベルの選手になれる。そういった周囲の期待をよそに、吉田自身は実家の農業を継ぐために地元の高校、大学に進学しようと考えていた。

高校でも水泳を続けるかどうか。悩んだ吉田は「将来は実家の農業を継ぐから、水泳を続けられる間は水泳を頑張らせてほしい」と両親を説得した。その結果、将来性を見込まれてスカウトされていた東京の日大豊山高校へ進むことにした。

競泳界では二つの壁があると言われている。中学から高校に進学したときの壁、そして高校から大学に進学したときの壁だ。多分に漏れず、吉田も高校1年生のときに高校生たちのスピードについていけなかった。転機は2年生のとき。インターハイの400mで初優勝を果たすと、800mリレーのアンカーを務め、引き継ぎながら1分49秒81という驚異的なタイムを叩き出し、逆転優勝をつかんだ。吉田の名前が一気に全国区となった瞬間だった。

最上級生になると吉田はキャプテンになり、そして高校最後のインターハイを迎えた。そのプレッシャーから毎日3、4時間しか睡眠がとれなかったという。体重も日に日に落ちていき、体調は最悪。その中でも、200mと400m、400mリレー、800mリレーを制して4冠を達成。大役を果たしたことでプレッシャーから解放された吉田は、その後のユースオリンピック、そして今年の大学進学後の飛躍に勢いをつなげたのである。

メンタルの弱さも伸び代の一つ

吉田の身長はさらに伸び、現在は182cm。長い手足、そして柔軟性の高い肩周りの筋肉を存分に使った泳ぎが特徴だ。高校時代、吉田を指導した竹村知洋監督も「柔軟性を生かした柔らかい泳ぎをするし、技術的な指導をしても、アッという間に習得する」と、その才能に驚きっぱなしだ。吉田の泳ぎは、力強いというよりは、しなやかという言葉がしっくりくる。大きくゆったりと、確実に1ストロークごとに進んでいく。そんな吉田の泳ぎは、自由形中長距離で世界ナンバーワンの座をほしいままにしている、中国の孫楊を彷彿とさせる。

吉田は182cmという長身を生かしたしなやかな泳ぎが特長だ(撮影・諫山卓弥)

その一方で、プレッシャーに弱い一面もある。弱音もすぐに口をついて出る。高校3年生のときにキャプテンを務めたが、後輩たちから「もっとしっかりしてほしい」と叱咤されることもあったという。今年の日本選手権後、世界選手権の追加選考がかかった大事な大会でもあったジャパンオープンでも、「気持ちが乗らなくて……。レースの途中であきらめたくなる気持ちになってしまうんです」と、報道陣に対して自分の気持ちを包み隠さず話していた。

だがそれは反対に、自分にウソをつかず、正直に生きる吉田の強さとも言える。その証拠が、自己ベストを連発した昨年4月の日本選手権だ。いちど勢いに乗ってしまえば、それを止める術はない。そのことは吉田自身もよく知っている。だからこそ、初のユニバーシアードでは一つひとつのレースに集中し、自分が納得する泳ぎで結果を残したいと決意を口にする。

「チームでは年齢が一番下ですから、今回は足を引っ張らないようにしたいです。でも将来は、日本代表を僕が引っ張っていけるような存在になりたいと思ってます。最初は200mから始まります。1本1本、大事にして前半から攻めていくレースをすることが、ユニバーシアードでの僕の課題です」

メンタルの弱さも、考え方を変えれば吉田の伸びしろだ。一つひとつの経験が、吉田を大きく成長させ、強くさせることだろう。

大学生となって迎える初めての国際大会。これからの吉田を占う上でも大切な試合となる。高校時代に酸いも甘いも経験した吉田は、きっとイタリアの空の下、私たちをアッと驚かせてくれるような泳ぎを披露してくれるに違いない。