東海大学・西川壮一 教員目指すFWリーダーの決断
全勝同士の東海大と流通経済大が対戦した。開幕からあまり調子の上がらない流通経済大に対して、2年ぶり8度目の優勝を狙う東海大はFWとBK一体となった攻撃力を見せており、優勢かと思われた。
しかし、東海大は前後半ともに先にトライを許し、なかなか相手を突き放せない。後半29分には33-33と同点にされてしまう。その後もミスから相手に押し込まれる時間帯が続いたが、ディフェンスで粘り、どうにか引き分けに持ち込んだ。流通経済大の池英基ヘッドコーチが「準備してきたことができた」と笑顔を見せる一方で、「負けなかったことだけが収穫でした」と、東海大の木村季由監督は表情を崩さなかった。
苦戦した東海大は、主将のCTBアタアタ・モエアキオラ(4年、目黒学院)がケガで欠場。まだ公式戦の経験が浅いSO塚野武(3年、京都成章)が先発し、本来は12番のCTB眞野泰地(3年、東海大仰星)が13番に入るなど、BKメンバーがいつもと違う影響があったのは否めない。それでもFWは優勢であり、モールを起点に副将のHO加藤竜聖(4年、石見智翠館)が3トライのハットトリックを達成する活躍を見せた。
いぶし銀のプレーを発揮。成長を実感
東海のFW陣の中で、リーダーとして監督からもチームからも信頼の厚い男が、FL西川壮一(4年、東海大仰星)だ。身長180cm、体重90kgとFWとしては決して体は大きい方ではなく、ボールキャリアとして目立つような選手でもないが、1年生から試合に出場し続けている。モエアキオラ主将が「(西川は)いつも体を張って頑張ってくれる」と言えば、木村監督も「今年になって頭の中で考えてたプレーがグラウンドでもできるようになった」と目を細めた。
この試合でも、西川はFLとして豊富な運動量を生かし、タックルやジャッカルで存在感を示した。ラインアウトでも相手のボールを奪い、”いぶし銀”のプレーを見せ続けた。
「大学1年から3年のときは、チームから求められていることはわかってましたけど、あまり実行できませんでした。今年はそれがちょっとずつできるようになってきました」と、自身の成長を口にした。
兵庫県出身の西川は幼稚園から水泳をやっていたが、小学3年のとき、スイミングスクールの友人に誘われ、西神戸RSでラグビーも始めた。父親が社会人でアメリカンフットボールをしていたこともあって「コンタクトスポーツに興味がありました!」と語る。すぐに、体を当てながらもチーム一丸となってトライを狙う競技の虜になり、中学からはラグビーに専念。高校は全国的な強豪の東海大仰星に進学した。
高校でもすぐに頭角を現した。2年生でレギュラーとして花園優勝に貢献し、3年生のときはキャプテンとして花園ベスト8。東海大に進学した後も、1年生からメンバー入りを果たし、2年生からは先発として勝利に貢献し続けている。「東海ラグビーの申し子」のひとりである西川に、トップリーグやトップチャレンジのチームから声がかかったのも当然だろう。筆者も当然、社会人でプレーすると思っていた。
「東海ラグビーの申し子」トップリーグではなく、教員を選択
しかし、西川はトップリーグに進むどころか、トップレベルでのラグビーは大学で終える意志を固めた。同期のFWの多くもトップリーグに決まっていく中で、「次のステージでチャレンジしたい思いもあった」と、悩んでいたことを吐露する。それでも、指導者にも魅力を感じていた西川は、6月に母校の東海大仰星(現・東海大大阪仰星)で教育実習。その中で「将来は教員を仕事にすると決めました」。すがすがしい表情で語った。
「母校に行って、目の前のことに一生懸命な高校生の純粋さを思い出し、学ばされ、先生がこんな思いで指導していたのかと、より深く知れた3週間でした。学生スポーツは勝つことも大事ですが、仰星や東海大のように、勝つ以前に人を教育する場に魅力を感じました。人が成長する場をつくる、自分がそういう立場になりたい」
高校の恩師は、主将として東海大仰星で初優勝に貢献し、東海大卒業後、すぐに教員になった湯浅大智教諭である。37歳にしてコーチとして1回、監督として花園を3度制覇している若き名将の影響も大きかった。
西川がトップレベルでラグビーをプレーするのはあと2ヶ月ほど、多くても6試合である。11月25日には関東リーグ戦のライバル大東文化大との一戦があり、12月、1月には東海大の悲願である初優勝を狙う大学選手権が控える。
「残りの試合は思いの強さを持って臨んでいきたい。全員で笑って終わるのが目標です。試合に出たくても出られない仲間の思いを感じ取り、責任あるプレーを表現できるか。個々の選手が、自分ができることを一生懸命やれば、結果はついてくる」
「フォア・ザ・チーム」が自らの信念だというFL西川は、13年間のラグビーキャリアのすべてをかけて、残り2ヵ月、スカイブルーの7番を背負い、全力でグラウンドを駆け回る。