ラグビー

ラグビー 京産大、選手とコーチの「兄弟鷹」

LO伊藤鐘平(右)と実兄の鐘史 (斉藤健仁)

ムロオ関西大学Aリーグ第2節

10月14日@天理親里ラグビー場
京都産業大(2勝) 38-15(前半19-15) 関西大(2敗)

「赤紺軍団」は今年こそ、と「打倒・天理」を掲げて関西制覇に燃えている。京産大は昨年6勝1敗で2位。10月7日には台風の影響で9月30日から延期になった今シーズン初戦で、春に敗戦した同志社に28-26と劇的な逆転勝利を飾っている。1週間しかインターバルはなかったが、その勢いをつなげるべく関大戦に臨んだ。

だが、相手の攻撃を受けてしまう。前半は思うようにゲームを運べなかった。すると後半、PRとFLに交代メンバーを投入。FWの力強さを前面に出した持ち前の戦いでペースを握り、スクラムやモールでトライを重ね、開幕2連勝とした。

京産大は伝統的にスクラム、ラインアウトといったセットプレーを強みとする (斉藤健仁)

「FWがプレッシャーをかけてBKがそれに応えるのが京産のラグビー」と大西健監督が言いきるように、京産大は伝統的にスクラム、ラインアウトといったセットプレーを強みとする。この試合、とりわけラインアウトで存在感を示したのがLO伊藤鐘平(3年、札幌山の手)だった。身長189cm、体重98kgの堂々たる体。スクラムでは右PRを押し、ラインアウトではキャッチャーや直後のモールの核となって勝ちに貢献した。

16歳上の偉大な兄

今春、伊藤に転機が訪れた。実兄の鐘史(37)が神戸製鋼で現役を引退し、母校である京産大のFWコーチに就任したのだ。代表キャップ36を誇る伊藤鐘史といえば、リコーや神戸製鋼で主にLOとしてプレーし、2012年に日本代表のヘッドコーチにエディー・ジョーンズ氏が就任すると同時に代表入り。15年のワールドカップにも出場した名LOだ。ラインアウトのスペシャリストでもあった。ラグビー以外でも、親子が同じチームに監督やコーチと選手として所属する「親子鷹」はよく聞くが、伊藤兄弟のような「兄弟鷹」のケースは珍しい。

弟の鐘平は小学2年から神戸中央少年ラグビークラブで競技を始めたが、野球や水泳も同時にやっていて、本格的にラグビーを始めたのは札幌山の手高に進んでからだった。「将来は兄のようなプレイヤーになりたい。兄と同じトップリーグでプレーするのが目標です」。故郷から遠く離れた札幌で高校時代を過ごしながら、16歳上の偉大な兄を追った。

兄が引退したため、兄弟がいっしょにプレーすることはかなわなかった。だが、思いがけずコーチと選手の関係になった。16歳も離れていたため、兄は全国大会を除いて弟がラグビーするところをほとんど見たことがなかったというが、この4月からはもれなく毎日目の当たりにすることになった。兄は「一選手としての弟に特別な意識はないですけど、関われてるのはうれしいですね」と言って、目を細めた。

オフの日も押しかける弟

弟は最初、少し恥ずかしさがあったようだが、「もう慣れました。グラウンドに入ったらコーチと選手と言われてます。割り切れてます」と語る。何より弟にとっては、LOとしてお手本になる存在が近くにいてくれるのが大きい。毎日のように指導を受け、とくにラインアウトの安定感が増した。オフの日でも、弟は兄の家に押しかけてご飯を食べつつ、ラグビーについて質問している。

兄は「体格は恵まれているので、その中で低いプレーやワークレート(運動量)の部分を上げてほしい。横も大きくなってきたし、今後が楽しみです」と、弟にエールを送る。弟は「オフ・ザ・ボールの動きについて指摘されてるので、ワンプレーが終わった後の働きかけを意識してます」。運動量の豊富なLOを目指し、兄の薫陶を受けつつ、前進を重ねている。

恵まれた体格を生かし、運動量の豊富なLOを目指す (斉藤健仁)

京産大が関西Aリーグでターゲットにしているのは11月24日、昨年の王者天理との一戦である。スクラムが強くBKの展開力もあるライバルとの激突までに、兄弟で力を合わせてスクラム、ラインアウト、モールの精度を高めることができるかが勝利の鍵を握る。

伊藤兄弟だけでなく、京産大の掲げる目標はもちろん大学ラグビー日本一である。試合でいっしょに楕円球を追う夢はかなわなかったが、伊藤兄弟はコーチと選手という立場で、大きな夢を追っている。