千葉ジェッツの原修太 ©B.LEAGUE
3年ぶりにバスケットボールの天皇杯でファイナル進出を決めた千葉ジェッツ。振り返れば初めて天皇杯優勝に輝いたのはB.LEAGUEが開幕した2016-17シーズンであり、それは原修太(28)が特別指定選手を経てチームに入団した年と重なる。そこから続く大会3連覇、そして昨シーズンに成し遂げた悲願のリーグ初優勝。千葉が『B.LEAGUEの強豪』と呼ばれるまでの道のりを辿れば、着実にステップアップしていく原の姿が見られる。ホームタウンの船橋市に生まれ育ち、生え抜きの選手として7シーズン目を迎えた原はチームをけん引する意識と覚悟を持ち、4度目の天皇杯制覇に挑む。
追い詰められたことで、チームがよりひとつに
2月上旬、天皇杯セミファイナルを前に千葉は練習不足からのコンディション調整に苦しんでいた。新型コロナウイルス感染症については用心に用心を重ねてきたが、今年に入って陽性者が出たことで自粛生活を余儀なくされた。1月末に行われたリーグ戦の秋田ノーザンハピネッツ戦は自粛明け2日間のみの練習で臨み勝利を収めたものの、その後の検査で再び感染者が確認され練習が行えない状況に陥った。逆算すると練習が再開できるのはセミファイナルの数日前。選手たちの胸にも「本当にこの状態で試合ができるのだろうか」という不安がよぎったに違いない。ところが、意外にも原から返ってきたのは「結果的に追い詰められたことでチームがまとまった感じがします」という明るい声だ。「とにかくやるしかない。コロナで負けるなんて悔しいから絶対勝ってみせる!という気持ちでチームがよりひとつになった気がします」
昨年優勝を果たしたレギュラーシーズンでも似たシチュエーションがあった。「昨年のシーズン終盤もコロナで長い自粛生活が続いていたのですが、それがやっと明けたと思ったら3日後に試合。そこから週3日がゲームデーという超ハードなスケジュールが待っていました。めちゃめちゃきつかったですけど、全員が負けてたまるかと思って、どんどんチームがまとまっていったんですね。今回のセミファイナル前のチーム状況もあのときと同じでした。そうそうこんな感じだったなって」
とは言え、天皇杯セミファイナルで対戦する琉球ゴールデンキングスは17連勝中でリーグトップの勝率を誇るチーム。簡単に勝てる相手でないことは重々承知していた。だが、それでも原の中に「絶対うちが勝つ」という揺るぎない思いがあったのはコロナというもうひとつの大敵にチーム一丸となって打ち勝った昨シーズンの経験があったからかもしれない。
「そうですね。たとえどんな状況であってもコートに出た選手が自分の仕事をする。それぞれがやるべきことをわかっているのがうちの強さです。チーム状態からしたら琉球が有利と見られていたかもしれませんが、僕たちは必ず勝てると信じていました」
支えてくれるスタッフがいるから強くなれる
原がもうひとつ「千葉の強さ」として挙げるのは大野篤史ヘッドコーチ(HC)をはじめとするコーチングスタッフの力だ。
「僕はわからないことがあるとすぐ専門分野のスタッフに聞きに行くんですが、今まで明確な答えが得られなかったことは一度もありません。時には議論みたいになることもあって、中でも将基さん(大村将基スキルディベロップメントコーチ)とは言い合いっぽくなることもあります。自分から質問に行ったくせに少しでも納得できないと僕が言い返すので、それに対し将基さんも熱く言い返してくるというか。あっ、別にケンカになるわけじゃないですよ(笑)。むしろそのぐらい真剣に向き合ってくれる人がいることは本当にありがたいと思っています」
入団して間もない時期に『右第5中足不全骨折』という大けがをしたときも、3年目を前に『潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)』という難病を患ったときも、下を向くことなく乗り越えられたのは多くのスタッフの支えがあったからだ。
「こうなると自分もプレーでチームを支えたいと思うじゃないですか。この6年で体も強くなり少しは成長できたかなとは思いますけど、もっともっとゴールにアタックしなければいけないし、パスの精度も上げなければいけないし、まだまだ課題だらけです。それでも努力を続ければ昨日できなかったことが今日はちょっとできるようになる。無駄な1日はないです。それはいつも思っていることです」
今年は目標のひとつであった日本代表候補にも選出された。合宿を通して感じたのは「千葉でやっていることに間違いはない」ということだった。「トムさん(ホーバスHC)から求められるものは大野さんから求められているものと似ていて、自分の中ではいいアピールができたと思っています」2月末のワールドカップ アジア地区予選(Window2)出場メンバーからは漏れたが、気落ちした様子はない。「今はやっとスタートラインに立てたかなと思っています。次にまた呼んでもらえるようにまたここから頑張るのみ。まずは天皇杯優勝に貢献することでアピールしたいと思っています」
このメンバーで新たなてっぺんを勝ち取りに行きたい
レギュラーシーズンだけでも8カ月の長丁場を戦うリーグ戦とトーナメント形式の天皇杯は「自然と戦い方や意識も変わる」と原は言う。「どちらも大切であることに変わりないですが、天皇杯はやっぱり一発勝負になるので何がなんでも勝つというか、なんか、こうガムシャラな気持ちで臨む大会のような気がします」。決勝の相手となるのは昨年の天皇杯覇者であり、リーグ戦でもトップを競う川崎ブレイブサンダースだ。
「川崎はビッグラインアップで来ると思いますが、個人的にはシューターのマット・ジャニング選手が気になっています。うちのジョシュ(・ダンカン)やアルバルク東京のセバス(セバスチャン・サイズ)に聞いたときもめちゃくちゃいいシューターだと言っていましたし、マッチアップするかどうかはわかりませんが、その機会があったら負けたくないですね。まあ、そうは言ってもシュートが入るか入らないはその日の調子にもよるので、まず徹底したいのはリバウンドやルーズボールといった自分たちでコントロールできる部分、特にリバウンドは川崎のビッグスリーに負けないよう頑張って自分たちのポゼッションをひとつでも多く得たいと考えています」
過去の天皇杯3連覇の印象が強いせいかファイナルに挑む千葉に対し『タイトル奪還』『王座への返り咲き』などという言葉も聞かれるが、原は今回の天皇杯をまたひとつの原点にする思いがある。
「前の優勝から3年経っていますからね。今年の優勝を目指すのは今の千葉ジェッツであり、今のメンバーです」。原にとっての天皇杯優勝は奪還でも返り咲きでもなく、「今のこのメンバーで勝ち取りに行く新たなてっぺん」だ。そのてっぺんに登りきる自信はありますか? と尋ねると「もちろんあります」と即答。その声はきっぱりとして力強く、今の原修太そのもののように感じられた。