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バスケを通じた地域共創について語る吉田真太郎さん

群馬の「OTA ARENA」 バスケを通じた街づくり、三位一体で築く地域の未来

2022.08.24

群馬県太田市でBリーグ・群馬クレインサンダーズのホームアリーナとなる「OTA ARENA(仮称)」の建設が進んでいる。2023年春に完成予定で、クラブ・自治体・企業が三位一体となって取り組むプロジェクトだ。クラブの運営会社「群馬プロバスケットボールコミッション」の取締役GM(ゼネラルマネジャー)で、その親会社である株式会社オープンハウスグループ常務執行役員の吉田真太郎さんに、アリーナ建設への思いやバスケットボールを通じた地域共創について聞いた。

群馬クレインサンダーズの価値を上げる

近年の群馬クレインサンダーズには、ブレークスルーという言葉がふさわしい。B2で成績を出してもB1ライセンスの基準を満たせず、あと一歩のところでつかめずにいたB1昇格を成し遂げたのが、2021-22シーズンのこと。しかも、9割1分2厘という圧倒的な勝率を残してのB2「卒業」だった。初のB1を戦った昨季には昇格1年目のクラブとして過去最多の勝利数を記録した。

快進撃スタートのきっかけは、不動産大手のオープンハウスグループがクラブを完全子会社化したことだった。2019年のM&A成立とともに取締役に就任した吉田真太郎・オープンハウスグループ常務執行役員は、「期限がある状況で、突然決まったM&Aでした。いきなりだったので、何から始めていいのか分かりませんでした」と当時を振り返る。

自身も大学までプレーを続けた元バスケットボール選手。「事業責任者として1年やって、何が課題かある程度見えたところで、まずはチームを強くしないといけないと考え、自ずと動き始めました」と、GMを買って出た。

吉田GMが何度も繰り返したのが、「価値を上げる」「成長し続ける」という言葉だった。「クラブの価値を上げ続けていけば多くのお客様に応援してもらえる可能性があり、喜んでもらえると思う。普通の企業なら商品力ということになると思いますが、バスケットボールクラブですから、まずは強いチームであることが大事だろうと考えたので、まずは強化に着手し、B1に絶対行くと決めて、そこに投資しました」。クラブ改革は、B1昇格としていきなり結実した。

「OTA ARENA」の完成イメージ(オープンハウスグループ提供)

新アリーナはNBAのような世界観を目標に

クラブの価値向上に欠かせないと感じたのが、会場というツールだった。その判断には、吉田GM自身のプレー経験も大きく影響している。

「最初に見にいった試合では、観客は数百人ほど。体育館ではなかなかやれることに限界がある。音楽を流すスピーカーも照明もそうですが、そもそもの観戦環境としてお客様満足度を、もっと上げられると感じた。Bリーグになったんだし、もっとすごくなっているのかなと思ってこの世界に来たのですが、私が学生時代に観た景色とは、あまり変わっていませんでした。私はアメリカのNBAが好きなので、あのような世界観の環境をつくることを高い目標に設定しました」

ただし、がむしゃらに頑張っても空回りに終わる恐れがある。吉田GMはコート外でも「チームづくり」に邁進した。

「クラブがただ頑張っても、うまくいきません。現在の日本では行政と一緒の方向に進んでいかないと、スポーツクラブはなかなか発展していかないと思います。クレインサンダーズは前橋市に本拠地がありましたが、太田市への移転を決めました」

太田市と群馬クレインサンダーズは「地域活性化に関する包括連携協定」を2020年7月に締結。バスケットボールというスポーツ活動を通じて、相互に連携協力することで地域の活性化をめざしてきた。

太田市は観光資源としてクラブを活用し、スポーツを軸にした街づくりの実践に向けて将来構想を掲げており、クラブもその思いに共感した。また、リーグの将来構想では新B1(仮称)参入の条件としてアリーナ、集客、売上の基準が設定されている。新アリーナをホームにすることはB1昇格への絶対条件と考え、2021年2月に移転を発表した。

2021-22シーズンのホーム最終戦(群馬クレインサンダーズ提供)

企業版ふるさと納税のスキームを活用

吉田GMは「オープンハウスグループは、すごくスピード感のある会社です。太田市長も同じ考え方だったので、意気投合したというところはあると思います」と話す。そして、チャンスを逃さない判断力も生きた。

「太田市との関係のスタートと同時期に、内閣府によるいわゆる『企業版ふるさと納税』の税制が改正されて、とても良い仕組みができたんです。オープンハウスグループとしても最善だと考えたこの仕組みで、太田市とがっちり手を組んで、アリーナ建設計画をスタートしました」

企業版ふるさと納税は地方創生を目的として、国が認定した地方公共団体のプロジェクトへと行われた企業による寄付に対し、法人関係税から税額控除される制度。オープンハウスグループにも、群馬クレインサンダーズにも、そして太田市にも大きなメリットとなるものだった。

地域の人やファンも新アリーナを楽しみにしている©B.LEAGUE

「企業があれば、最初から資金的サポートをできます。そうしないと、稼いでから投資することになるので、どうしても時間がかかってしまいます。我々は自治体と企業、クラブの三位一体となってやっているので、かなりのスピード感で進められていると思います。この取り組みがこれからの日本でのスポーツクラブ経営の成功パターンになっていくと思っています」。「OTA ARENA」は来春早々に完成予定と、吉田GMの言葉に説得力が増す。

地域がサンダーズ色に

太田市運動公園に建設されるメインアリーナの収容人数は5000人。サブアリーナやトレーニング室、最上階のVIPラウンジ、4面1600インチ相当の可動式センタービジョンなども備える。客席からコートが浮かび上がるようにみえる劇場型照明システムを採用し、最高の観戦環境を提供する。

すでに太田市は群馬クレインサンダーズ色に染まろうとしている。記念すべきB1でのホーム初戦は、6時間でチケットが完売した。市役所の職員はクラブのポロシャツを着て勤務し、郵便ポストもクラブカラーの黄色に塗り替えられた。2026年に開幕予定の「新B1(仮称)」に参入すれば、熱狂はさらに高まる。その参入要件のためにも、新アリーナは必要なものだった。

「アリーナが軸となって人気クラブになり、価値が上がれば、周辺に住みたい人も増えてくる。不動産業のオープンハウスだからこそ、魅力的な街づくりのお手伝いができると思います。何もしなければ、地方都市は間違いなく人口は減っていきますが、クラブの価値を上げることで交流人口も増え、企業としても行政の悩みを解決してお役に立てます。だから、今はクラブの価値を上げることを最優先に動いています」

メインアリーナのイメージ(オープンハウスグループ提供)

満員のアリーナをみんなで感じたい

B1昇格、アリーナ建設など、新B1(仮称)参入という目標からの逆算で立てた短期目標は、予定通りにクリアしてきた。「今シーズンはチャンピオンシップ出場が目標です。お客様の数では、1試合平均3000人をめざしたい。達成は簡単ではありませんが、シーズン終盤にOTA ARENAが完成すれば、可能性はある。満員の新アリーナを、みんなで感じたいですね」。誰よりも自身が楽しそうに、吉田GMは新シーズンを見据えている。

クラブ、自治体、企業が三位一体となって地域共創をめざす取り組み。OTA ARENAの完成が起爆剤となり、Bリーグ界にブレークスルーを起こしてくれるに違いない。

群馬クレインサンダーズ 公式サイト
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