「B.Hope HANDS UP! PROJECT/NINERS HOOP GAME」に参加した子どもたちと記念撮影 ©B.LEAGUE
東日本大震災から10年。この節目に、あらためて「震災を風化させない」「防災・減災のためにできること」を考え、アクションするために立ち上がったB.LEAGUEの「B.Hope HANDS UP! PROJECT supported by 日本郵便」。イベント前日の2月13日に最大震度6強を観測する地震が発生。この影響で仙台市内のゼビオアリーナで行われる予定だった仙台89ERSと群馬クレインサンダーズの試合は中止になったが、B.LEAGUE の社会的責任活動「B.Hope HANDS UP! PROJECT」と、仙台89ERSの地域・社会貢献活動である「NINERS HOOP」は、安全確認を万全に行った後に開催された。
「B.Hope HANDS UP! PROJECT supported by 日本郵便」とは
2016年に立ち上がったB.Hopeは設立以来、復興支援を重要なアクションとして取り組んできた。東日本大震災や熊本地震など、実際に選手やスタッフが多くの現場を訪れ、支援を行ってきた。
そして今年、あらたに震災と向き合うアクションとして立ち上がった「B.Hope HANDS UP! PROJECT」の初めてのイベントを2月14日、仙台89ERSの本拠地で、東日本大震災で甚大な被害にあった宮城県仙台市で実施した。当日は前日の地震の影響もあり、1時間半ほど遅れてイベントは開催された。これに参加したのは、仙台89ERSバスケットボールスクール(以下、89ERSスクール)と、おきのミニバスケットボールスポーツ少年団(以下、おきのミニバス)の小学生たち。
当日はB.Hopeが開発した「Defense Action(ディフェンス・アクション)」からスタートした。この企画はバスケットボールを通して楽しく、防災・減災を学ぶ「防災バスケ」プログラム。「防災において大事なこと」と「バスケの楽しさ」を融合させたこのアクションを通じて、「備える人・動ける人・助ける人」を育てることを目的としたイベントだ。
震災時に必要な備蓄品を学ぶゲームでは、ドリブルをして、女性・高齢者・乳幼児などのコーナーに、それぞれに合う備蓄品名が書かれたカードを届ける。備蓄品は年齢や性別により必要なものが異なるということを理解するのが目的だ。また、火災、津波、地震が起きた際、素早く対応できるように初期行動を学ぶゲームも行われた。
参加した子どもたちからは、「必ず大きな地震は来ると思うので、備蓄品について学べたのが良かった」「昨日も大きな地震があったので、いつ地震がきても大丈夫なように備蓄品を用意したいと思った」という声もあがっていた。こういったプログラムが子どもたちの背中を押し、防災減災に取り組む人たちが増えていくことは、東日本大震災の教訓を生かすことにつながるとB.LEAGUEは信じている。
仙台89ERS・志村雄彦社長が子どもたちに伝えたい思い
今回プロジェクトの中心となり活動しているのが、仙台89ERSの志村雄彦(たけひこ)代表取締役社長だ。
「東日本大震災から10年が過ぎようとしている中で、当時を知らない子どもたちも増えてきています。あのときの経験をしっかり伝えていくことが自分たちの役目だと思いますし、ディフェンス・アクションは楽しみながら、震災のことを学べる。地震が起こるととっさには行動できないものですが、大好きなバスケットボールを通していざというときにどうすればいいか、体で覚えることもできると思います」。志村さんは、東日本大震災のときには仙台89ERSの選手だった。身を持って震災を体験しているからこそ、子どもたちに伝えたい思いは大きい。
B.LEAGUE応援キャプテンの廣瀬俊朗さんも登場
この日、スペシャルゲストとして招待されたのは、元ラグビー日本代表主将でB.LEAGUE応援キャプテンの廣瀬俊朗(としあき)さん。
「昨日大きな地震を経験したことで、参加した方は現実感を持ってディフェンス・アクションを受け止めたと思います。私自身も、日頃から防災と減災の知識を持って準備しておくことが大切だとあらためて感じました。ディフェンス・アクションは助け合いながら学べるところもいいですね。ラグビーではチームで防災と減災に取り組んでいるところはありますが、B.LEAGUEのようにリーグ全体で、という動きにはなっていないので、今後はスポーツ界全体にも広げることが大事ですね」
あこがれの舞台で子どもたちは生き生きとプレー
ディフェンス・アクションとともに開催されたのが、仙台89ERSの地域・社会貢献活動「NINERS HOOP」だ。この取り組みは震災から10年の今シーズン、本拠地である仙台市以外の名取、塩竈、南三陸など宮城県内各地を回って興行をし、“ナイナーズの輪(=HOOP)”を広げながら様々な活動を行っている。東日本大震災で一時活動休止に追い込まれた仙台89ERSは、地域の協力があったからこそ再開できた。
その感謝を込め、「ナイナーズがつなぐ『地域』と『未来』」というコンセプトで、地域や未来を担う子どもたちに向けた活動も行っている。今回のイベントでは子どもたちのために「NINERS HOOP GAME」を開催した。
プロの選手が使用するコートで試合ができるだけでなく、演出もプロさながらの豪華さ。選手入場の際は大型ビジョンに一人ひとり紹介され、着用するユニフォームもこの日のために制作された特別なデザイン。当日配布されたゲームプログラムには仙台89ERS同様、小学生たちの選手名鑑も掲載された。子どもたちにとっては、まさに夢のような時間だ。
「照明の演出やMCや応援してくれる人もいる中でプレーできたので、プロになった気持ちがしました」
「はじめは緊張したんですけど、こんなすごい会場で試合ができて良かったです。この経験を生かしてB.LEAGUEの舞台でプレーできるようになりたいです」と子どもたちにも笑顔が広がった。
大震災で学んだことを発信していきたい
NINERS HOOP GAMEの後は、仙台89ERSの公開練習が行われ、多くのファンがつめかけた。「昨日夜に地震があった中で、こんなにも多くの方に来ていただけるとは思っていなかったです。僕たちの姿を楽しみにしてくださっている方がたくさんいることを、あらためて実感しました。今日は来てくださっている方への感謝の気持ちや元気など、自分たちのいろいろなものを届けようと、チームで意思統一をして公開練習に臨みました」と語るのは、片岡大晴(まさはる)選手。
宮城県仙台市出身の片岡選手は「いろいろなことを発散したくてもできない状況だと思います。僕らのプレーと力で爆発させられたらと思います」と言葉をつないだ。
東日本大震災からまもなく10年。仙台で育った選手や、スタッフにもいろいろな思いが交錯する。当時仙台89ERSの選手だった志村社長は、遠征で新潟に向かっているところで地震が起こった。バスの中で東北が、仙台がどうなっているか、不安と心配にかられ、いても立ってもいられなかった。10年が経ち、現在は仙台89ERSの社長として、B.LEAGUEとして、震災のことも震災で得た教訓も伝えなければならないと考えている。
志村社長は最後に思いをこう話す。
「リーグがあって、クラブもありますが、地域で活動する僕たちにとって、地域の人たちとのつながりが一番大事なところです。地域の方としっかりコミュニケーションをとり、つながりを持つことで僕らのクラブがあるので、本当に大切なもの。そして、このつながりがあることで子どもたちも防災や減災に興味を持ってくれると思っています。地震を風化させずに、より一層取り組みを進めていこうと思います。僕たちはNINERS HOOPという活動をしていますが、HOOPには輪という意味とバスケットリングの意味をもたせています。バスケットボールを通じて地域がつながる。地域と未来とバスケットボールが輪のようになってつながっていってほしいという思いが込められています。子どもたちには、バスケットボールでチームメートを思いやることが、いざというときの行動にもつながっていくことも伝えていきたいですね」(文・上原伸一)