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特別指定選手を経て、2020-21シーズン、牧は琉球ゴールデンキングスでルーキーイヤーを戦っている ©B.LEAGUE

琉球・牧隼利 ルーキーの現在地、プロのバスケ選手として自分を発信する意味

2020.12.10

「僕は今までずっと負け続けてきて最後に勝てたので、すごくすっきりしましたし、あそこで勝ち切れたことで、自信をもって今のステージにこられています」

琉球ゴールデンキングスのルーキー、牧隼利(はやと、22)は昨年のインカレを振り返ってそう口にした。福岡大学附属大濠高校の主将として挑んだ最後のウインターカップは初戦敗退。筑波大学で3年生主将としてチームを支えた2018年はインカレ4位。そして昨年、筑波大は3年ぶり5度目のインカレ優勝を果たした。 自らのキャプテンシーに自信を持てずにいた牧は優勝の瞬間、真っ先にうれし涙を流した。大学バスケを勝利で終えられた数少ない選手のひとりとして、今、プロの世界で真摯(しんし)にバスケットボールと向き合っている。

状況判断が勝負を分けるプロの厳しさ・面白さ

昨年のインカレ決勝があったのが12月15日、その8日後の23日には琉球ゴールデンキングスの特別指定選手としてチーム加入が発表され、29日にデビュー戦を飾った。「それまではインカレのことしか考えていなかったのに、いきなりガラっと世界が変わってしまって、優勝したのも夢だったのかなって思ってしまうほどでした」と牧が言うように、優勝の余韻に浸る間もなく次のバスケ人生が始まった。2019-20シーズンのB1は新型コロナウイルスの影響で33節以降が中止になったが、牧は18試合に出場し(スタメン10試合)、西地区優勝に貢献。そして20-21シーズンも琉球ゴールデンキングスでプレーしている。

筑波大時代、「点を取りたい」と思っていた点取り屋から、チームのバランスをとる選手に変わっていった(写真は本人提供)

大学時代を振り返ると、1~2年生の時の牧はバリバリの点取り屋だったが、3~4年生になるにつれ、チームの中で自分の役割を変化させていった。同級生には増田啓介(現・川崎ブレイブサンダース)、下級生には山口颯斗や菅原暉(ともに現4年)などと点を取れる選手は他にもいる。そんな選手の中で、一歩引いて見られるところが自分の良さなのではないか。ときには「もっと自分にボールを要求してもよかったんじゃないか」と悩みながら、チームのバランスをとる側にまわった。プロにステージが変わった今は、「B1のレベルにもなれば僕が中心のチームではないですし、でもその中で自分をアピールしていかないといけない」と、また違った観点からバランスの難しさを感じている。

フィジカル面に関しては筑波大時代に鍛えてきたベースがある。その上で、今一番意識をしているのは状況判断能力を高めること。例えば、半歩ディフェンスの位置が違っただけで、相手にスリーポイントを許してしまうこともある。また、強力な外国籍選手が相手にも味方にもいる中でどのように自分を機能させるか、その時々での状況判断が勝負を分ける。「キングスだったら石崎(巧)さんとか、いざ一緒にプレーさせてもらったらそのすごさが分かりました。状況判断とかバスケットIQの高さとか、見習うべきところが多いなと日々思いながら練習をしています」

プロになってからは、福大大濠高時代から7年間一緒に戦ってきた川崎の増田と対戦する機会もある。「こいつが相手チームにいたらいやだなと思いながらやってきたので、相手にいるのが新鮮」と牧は言い、チームが分かれた今も互いに意識し合う仲だ。11月11日にあった千葉ジェッツ戦で23得点をあげた増田に対し、「乗れば点をとるやつなんだよな、負けずに頑張りたいな」と刺激を受けたという。

ほんの少しの状況判断のズレが勝負を分ける。プロの世界の厳しさを身をもって感じている ©B.LEAGUE

ファンのおかげで僕たちプロ選手がいる

プロ選手として、また、日本代表を目指している牧にとって、バスケの技術を高めることは至上命題だ。その一方で、それだけではいけないという思いがある。「プロ選手になってまず感じたのが、やっぱりファンのみなさまがいて成り立っているということ。それと同時に、自分のバスケット人生の終わりへのカウントダウンも始まっているなと思ったんです」。筑波大時代に同級生が就職活動をしている姿を見て、いつか自分がバスケ選手を引退する時には、彼らと同じように自分の強みをアピールすることから始めないといけない、と感じとった。

多くのファンに支えられているのがプロ選手。だったらそんなファンのみなさんの期待に応えたい、自分の価値を高めていきたい。そんな思いから、セルフプロモーションへの意識が芽生えた。時を同じくしてキングコング西野亮廣のコミュニケーションサロン「西野亮廣エンタメ研究所」を知り、エンターテインメントの未来に興味が湧き、更には経済や経営などの本も読みあさった。

「note」「Voicy」でオフの自分も発信

自分を発信する方法として、今年7月にはメディアプラットフォーム「note」への執筆を開始。自身の経験やプロ選手として考えていることなどを伝えている。元々、本を読んだり文章を書いたりすることは得意ではなかったというが、頭の中で考えていることを文字にしてまとめることは自分のためにもなり、また自分を応援してくれるファンのみなさんにいい機会になってもらえたら、という思いで続けている。

「僕が堅苦しい文章を書いたところで、ファンのみなさまが読みたいものなのかというと違うだろうし、自分のプライベートな部分というか、普段のオンではなくオフのところに需要があるんじゃないかなと思い、そういった内容も組み入れながらやらせていただいています」

牧のnoteにはバスケファンのみならず、様々な業界の人からも反応があり、この場でなければ出会えなかった人ともつながる楽しさを感じているという。また11月には音声メディアへの興味から、ボイスメディア「Voicy」も開始。話すスキルを高めるためにもと考えながら、新しい挑戦として取り組んでいる。まだ少したどたどしい語り口ではあるが、そんなところにも牧隼利という選手を身近に感じることができるだろう。日々学びながら色々な可能性を感じ取り、牧自身も新たな発見、新たな自分を楽しんでいる。

ファンがあってのプロ選手。だからこそ、今の自分ができることを考え、行動する ©B.LEAGUE

牧にとってこうしたセルフプロモーションは、プロ選手の価値を高めるひとつの方法だ。バスケ選手としての競技力を高め、目の前の試合に全力を注ぎ、ファンに応援してもらえる選手、チームになる。自分がひとりの観客としてプロスポーツにワクワクさせられ、元気をもらえたように、今度は自分が多くの人たちに元気を与えられる存在になる。そんなスポーツの力を、体現していく。(文・松永早弥香)