バスケ

特集:第70回全日本大学バスケ選手権

食えない男、筑波大・増田啓介が腹をくくった

増田は神出鬼没

関東リーグ戦の得点王に輝いたのは、筑波大の増田啓介(3年、福大大濠)だった。身長191cmのフォワードは、巧みなステップでゴール下に割って入って決めたかと思いきや、アウトサイドに出て3ポイントを決める。神出鬼没で予測不能なプレーが対戦相手を惑わせた。

「ちゃらんぽらん」で「ジャイアン」!?

そんな点取り屋の実像を知りたくて、高校時代から6年タッグを組む牧隼利(はやと)に聞いた。出てきた言葉は「ちゃらんぽらん」「不真面目」「ジャイアン」……。最後がよく分からないので突っ込んでみると、先日はチームメートが食べているパンを途中で横取りしたそう。確かにそれは、まぎれもないジャイアンだ。

当の本人は自分をどんな人間だと思っているのか。軽い気持ちで聞いてみたこの質問の回答に、増田は大いに苦戦した。「どんな人間なんすかね。あまり考えたことないですけど……」

それならばと、答えやすそうな自分の長所について尋ねてみても、明確な答えがすぐに返ってこない。30秒ほどにおよぶ長考ののちに、ようやく「なんでも楽しめること」という着地点に至った。

以前から増田になんとも言えぬとらえどころのなさを感じていた私だが、このやり取りを経て、その理由が分かったような気がした。増田はあまりにも自分のことを知らないのだ。

そのあとのやり取りでも、増田は謙遜のそぶりなど一切ない表情で「自分がうまくなってるかなんて全然分からない」と言い、名門の福大大濠高やU18日本代表で素晴らしい活躍をしていたにも関わらず、「バスケはそんなにうまくないし、(筑波に入学しても)試合に出られないと思ってた」と真顔で言った。私の中で、確信めいたものがさらに強まった。

インタビューの直前に吉田健司監督から聞いた言葉も、増田の人となりを知る上で示唆に富んだものだった。

「増田は自分で限界を決めて、『これくらいでいいか』でやるところがある。選抜チームや代表から帰ってくるとすごく伸びてるんですけど、またそこで慣れてしまうんです。いろんな人から『もったいない』と言われますね。もっとやれるはずなのに、と」

勉学における要領や勘はいい方だが、上位を目指す意欲が薄いため、成績は学年の真ん中くらいが定位置。自分がプロ選手になれるなんて考えたこともなく、現状ではBリーグでプレーしたい気持ちもあまりないという。

増田は言う。「バスケをうまくなりたい気持ちがめちゃめちゃ強いかというと、そうではない。真面目にやらないチームにいたらそのまま終わってました。いい先輩や同期に恵まれたからこそ、しっかりやってこられたんだと思います」

ほかにも得点がとれる選手がたくさんいる筑波大にいながら、ゴール下で圧倒的なアドバンテージを誇る2m級の留学生センターたちを差し置いて得点王をとった。それでも吉田監督は物足りなさを感じている。増田が自分を知り、本気で高みを目指す日を想像し、思わず身震いがした。

バスケ人生で一番悔しい試合

関東リーグ戦は初戦こそ神奈川大に辛勝したものの、そのあとは4連敗。チームでミーティングを開き、ここぞという場面では増田と牧にボールを託そうと意思統一した。しかしリーグ前中盤に主将の波多智也(4年、正智深谷)がけがで戦線離脱すると、チーム状況は深刻化した。2部降格がちらつき始めた中で、増田と牧は自分たちがリーダーとして先頭に立とうと話し合った。

関東リーグ戦では主将の牧(左から2番目)と増田(右から2番目)がチームリーダーとしてチームを奮闘した

主将になった牧はもちろん、ちゃらんぽらんで気分屋の増田も、試合中に仲間に声をかけるようになった。練習中は「練習」ではなく「勝つための準備」ととらえ、簡単なミスを許さない雰囲気づくりを心がけたという。

「一番の課題だったリバウンドを克服して、勝ちにこだわる気持ちとバスケットを楽しむ気持ちを忘れないようにしました」と増田。そのあとは白星が徐々に増え、4位でリーグ戦をフィニッシュした。

筑波大は昨年、史上2校目となる大会4連覇を目指したインカレ決勝で、大東文化大に68-87で敗れた。増田はこの試合を「バスケ人生で一番悔しい試合だった」と振り返る。

身長203cm、体重100kgの体格を誇る大東文化大のモッチ・ラミン(3年、桜丘)とマッチアップしつつ、チーム1の16得点(うち3ポイント1本)を挙げる活躍を見せたが、勝負どころの第4クオーター(Q)開始4分で5ファール退場。チームは攻め手を失い、点差が大きく広がった。「退場したし、やり切れない思いが強かった」。そんな試合は、いまでも増田にとって大切なモチベーション。気持ちが途切れそうなときに見返し、悔しさを思い出すのだという。

大会4連覇の夢が潰えた昨年の決勝を忘れない

今年のインカレで目指すのはもちろん、昨年3連覇で途切れた優勝だ。「レベルの高いブロックで、一瞬の油断もできない」と前置きした上で、増田は「突き詰めて、圧倒したい」と強気も隠さない。

「自分たちの代のつもりで、負けたら引退くらいの覚悟を持ってやります。去年のリベンジ。負けたくないっすね」。1時間ほどのインタビュー中、あやふやな受け答えが多かった増田だが、この言葉には確かな実感と決意がこもっていた。

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