東海大のルーキー大倉颯太 インカレ4連覇の野望
高校バスケ界を沸かせたスターが、大学の最高峰に初めて挑む。大倉颯太(そうた、1年、北陸学院)は全国屈指の選手層を誇る東海大で、5月の関東インカレからエントリーメンバー入り。8月末に開幕した関東リーグ戦ではスタメンとして優勝に貢献し、優秀選手賞に選ばれた。
ポジションはガード。当初は得点面での貢献を求められていたが、戦いを重ねるごとにゲームコントロールを担うようになった。「颯太はいつの間にかポイントガードをやってましたね」。陸川章監督は笑う。「アジャスト能力が高くて賢く、バスケをよく分かってる選手です」と評した。
数えきれないほどの試合を見てマネて
鋭いドリブル突破からレイアップを決め、3ポイントを放ち、184cmの身長でダンクシュートをも沈める。1年生ながらそのオフェンス能力と身体能力の高さは群を抜いているが、大倉の本質はおそらく、別のところにある。
物心ついたときからバスケの映像を見るのが好きだった。中学や高校の全国大会の映像を入手し、「すごい」と感じたプレーを繰り返し見て採り入れた。
「一番よく見たのは、2010年のウインターカップの延岡学園×尽誠学園。渡邊雄太さん(メンフィス・ハッスル)が後ろからシュートブロックにいこうとしたところを、礼生さん(ベンドラメ礼生=サンロッカーズ渋谷)が体を当ててブロックに飛ばせないようにして決めたシュートは、本当によくマネしました」
数えきれないほどの試合を見て血肉にしてきた結果が、陸川監督の「賢くてバスケットがよく分かってる」という評価につながっている。いまはプレーだけでなく、チームの戦術を組み立てる立場にもなりつつある。関東リーグ中は学生コーチの平良航大(4年、宮古)とともに深夜まで映像検証をし、自分たちの課題と対戦相手の弱点を洗い出した。監督から指示されたプレーに違和感があるときは代替案を提言。その結果、いくつものプレーが採用されている。
「小学生のころから疑問があればすぐ指導者に質問しましたし、高校時代もオフェンスのセットプレーを監督に提案してました。東海大は強いし伝統もあるし、そういうことは難しいかなと思ってたんですが、聞いてくださって。選手からの意見をあまりよく思わない指導者もいると思いますが、僕はいまのところ、自分の意見を聞いてくれる指導者としか出会ってません。恵まれてると思います」
もとは「好き」から始まったことではあるが、いまは勝つためなら、自分ができることは何だってやる。そういうスタンスだという。思考力、好奇心、主体性、そして勝利への貪欲さが現在の大倉をつくり上げている。
日本の大学バスケ「盛り上がらないとダメ」
冒頭でも紹介した通り、大倉は高校バスケのスーパースターだった。ウインターカップでは2ショット撮影を求めるファンが列をつくり、高校ラストゲームとなった3回戦の試合後は、四重五重の報道陣に囲まれた。
そんな華やかな高校バスケと違い、大学バスケの注目度は著しく低い。試合会場にいるのは選手、エントリー外の部員、父兄といった関係者がほとんど。コンスタントに取材しているのも、2~3の専門メディアと学生新聞のみといったところだ。大学バスケの注目度について感じることはあるかと尋ねると、間髪入れず「盛り上がらないとダメだと思う」という言葉が返ってきた。
「メディアも観客も全然いない。正直、最初はもっと観客がいるところでやりたいと思ったこともありましたけど、いまは慣れました(笑)。アメリカの大学バスケってすごいお客さんが来るし、テレビでも放映されるじゃないですか。ああいう感じになっていかないと」
昨年、筑波大4年(当時)の馬場雄大がインカレを待たずにBリーグ・アルバルク東京に加入した。先月も拓殖大の岡田侑大が大学を中退し、シーホース三河と契約。盟友・岡田の決断を「最善の決断」と評し、「今後は大学をやめてBリーグにいく選手が増えると思う」と予測している。
しかし、大倉自身はその道を選ぶつもりはない。あくまで大学4年間をまっとうして、次のキャリアに進むことを目指している。高卒、あるいは大学中退でプロに進む同世代は、厳しく非情な環境で大きな経験を得る。大学で同じだけの経験値を得るためには、とにかく圧倒的な力を示すしかない。そう考えている。「チームを鼓舞して、優勝に導けるプレーヤーになりたいです。目標はインカレ4連覇と4年目のリーグ戦で全勝優勝すること。とにかくぶっちぎって勝ちたいです」
70年の歴史を誇るインカレで、4連覇を達成したのは日体大(1996~99年)のみ。大きな変革期に突入した大学バスケ界を引っ張るためにも、史上2校目となる金字塔を打ち立てたいところだ。
ちなみに、インタビューの日の朝、東海大は大学近隣の寺院で恒例のインカレ必勝祈願をした。近隣といえども、場所は山の頂上。選手たちは7時の現地集合に合わせて6時前には家を出たという。「間に合わなかったので最後は走りました(笑)。寒いし朝早いし、マジできつかったです……」。いささか寝ぼけ眼で取材場所に現れた大倉は、寺院で一体何を願ったのか。聞き忘れたことを帰り道に後悔した。