神奈川大・小酒部泰暉、伸び続けるダイヤの原石
10月上旬、1部リーグの得点王ランキングに見慣れない名が顔を出した。リーグ戦序盤にトップを独走していた拓大の岡田侑大(ゆうた、2年、東山)が一時戦線離脱。その後、トップに躍り出たのは外国人留学生でも筑波大の増田啓介(4年、福大大濠)でもなく、神奈川大のSF(スモールフォワード) で75番をつける小酒部泰暉(おさかべ・たいき、2年、山北)だった。10月29日現在では4位(357得点)に落ちたものの、創部以来初めて1部で戦う神奈川大に小酒部ありと、広く知れ渡ることとなった。
仕事をさせてもらえず100点ゲームに
私が初めて小酒部のプレーを目にしたのは、10月21日の日大戦だった。現在、神奈川大は10位だが、この日の試合前は2部に自動降格となる11位だった。1部残留のために落とせない大事な一戦だったが、出だしから相手にのまれてしまった。
外国人選手も含めて大型の選手がいない神奈川大にとって、日大の身長208cm、シェイクケイタ(2年、北陸)は脅威となった。ゴール下まで切り込ませてもらえず、タイムオーバーぎりぎりに外からシュートを放つも、リバウンドをことごとく奪われた。シェイクの高さを生かしたポストプレーから、日大は青木裕哉(4年、つくば秀英)や松脇圭志(3年、土浦日大)らが高確率でシュートを沈める。小酒部はといえば、厳しいマークで思うように攻められない時間が続き、第1ピリオドは8-21で終えた。第2ピリオドで東野恒紀(1年、厚木東)が7連続ポイントを決めたが、27-39とリードを許して前半を折り返す。
後半、小酒部がスリーポイント(3P)で追い上げを狙うが、日大も松脇の3Pで加点し、第3ピリオド終了時で34点差をつけられた。神奈川大は小針幸也(1年、桐光学園)が連続で得点をあげるも日大の勢いは止まらず、63-108で試合を終えた。神奈川大はディフェンスで耐え、後半に勝負をかける戦い方を思い描いていた。しかし結果は近年なかった100点ゲームでの敗戦。外国人選手を擁する1部のチームとの差を再認識させられる試合となった。
9月9日の対戦では日大に90-68で勝っていた。このとき小酒部は一人で37得点。当然、再戦で小酒部へのマークは強くなり、14得点にとどまった。小酒部は試合後、「今回は相手の勢いや気持ちの方が上回ってて、自分たちのバスケができなかった」と漏らした。幸嶋謙二監督も「まわりにビッグマンがいれば、彼の負担が減ると思うんですけどね。いまはまだキャリアがないので、焦って無理にシュートを打ってしまう」と話す。その一方で、「でも、彼は将来がありますから」と期待を込める。
「やりたいバスケ」を求めて
小酒部は神奈川県の最西端に位置する山北町の山北高校出身。3年間のうち2度だけ進めた県大会は、ともに1回戦負けだ。国体にも出ていない。まったくの無名だったが、幸嶋監督は彼がジャンプしてから最高到達点までに達する速さに「ダイヤの原石」となる可能性を感じ、神奈川大へとリクルートした。
神奈川大は9年前からスポーツ推薦を始め、男子バスケ部にも毎年5人程度が推薦で入ってくる。とはいえ、授業料免除や奨学金などの条件整備が十分でなく、いまも安定して選手が採れているわけではないという。だから、来た選手を強くするのが基本方針だ。
昨年、初めて1部昇格を決めたレギュラーメンバーには4年生が4人いたが、全員、高校時代に大活躍した選手ではなかった。彼らは2015年のシーズンに3部降格という苦汁をなめた。しかし翌年から2部、1部へとはい上がり、17年の全日本インカレでも7位という好結果を残した。進学先で迷っていた小酒部が神奈川大の練習に参加したとき、3部にいた。それでも小酒部はチーム全員が一つになってバスケに取り組んでいるところに惹かれ、入学を決めたという。
小酒部は小3でバスケを始め、中学まではオールラウンダー、高校ではPG(ポイントガード)からSFまでをこなした。山北高校を選んだ理由は「家から近かったから」とひとこと。その言葉で私はふと、バスケ漫画の登場人物を思い出した。『スラムダンク』(集英社)の流川楓だ。元々はオールラウンダーで、いまはSFだというのも同じである。さらに言えば「神奈川県」で「点取り屋」というところも。
ただ、高校を選んだ理由はそれだけではなかった。「1回練習に行ったとき、先生がすごくいい人で、そんな人に教えてもらいたいなと思いました。あまり強さとかは気にせず、自分のやりたいバスケができたらと思って」。小酒部のバスケに対する純粋さが、よく伝わってくる。
大学でのポジションはSFに定まった。3、4年生中心のチームの中で1年生から出場を果たし、1部昇格にも貢献した。2年生になってから挑む猛者揃いの1部では、「当たりも違いますし、タフな試合が続いてます」。それでも「自分の役割は点をとることだと思うので」と前を向く。得点ランキングで1位になったときは「まさか自分が」という思いがあったそうだが、「ランキングのことは意識になくて、ただ自分のバスケをしているだけ」と話す。
誰よりも得点をあげるスタイルは変わらないが、「自分にディフェンスが寄ってきたところでパスをさばくとか、仲間を生かすプレーができたら」と、自分がおとりになる戦い方にも意識を巡らせている。大学でも身長が伸び、入学時は184cmだったのが、188cmになった。幸嶋監督が何度となく口にした、小酒部泰暉の将来が楽しみでならない。