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盛實、中村、平岩、増田… 「特別指定選手」がBリーグで得たもの

専修大の盛實(右)は特別指定選手として20試合に出場した(提供・B.LEAGUE)

Bリーグ3年目のシーズンが終わった。このリーグには「特別指定選手」という制度がある。満22歳以下の選手が、学校のバスケ部に所属しながらBリーグに所属できる。この仕組みを利用して、多くの学生がプロの舞台を経験している。

特別指定選手が各チームに帯同し始めるのは、各地区のリーグ戦、インカレが終了する秋から冬にかけて。これまではシーズン終了までの帯同や卒業後の契約を見すえて、部を引退した大学4年生が活用するケースが多かったが、今シーズンは3年生以下の活用が目立った。大学に籍を置きながら特別指定選手としてプレーする意義とは何なのか。当事者や関係者の声から考えてみたい。

たくさんのファンの前でプレーするやりがい

専修大の盛實海翔(もりざね・かいと、4年、能代工)は、今シーズンもっとも鮮烈なインパクトを残した特別指定選手だろう。サンロッカーズ渋谷でのデビュー戦となった1月の天皇杯準々決勝では、出場から1分足らずで3ポイントシュートを決め、Bリーグファンにごあいさつ。Bリーグの公式戦20試合に出場し、1試合平均出場時間14分、1試合平均4.7得点という立派なスタッツを記録している。

加入当初は外国人選手とのコミュニケーションや戦術理解に苦労したが、徐々に順応。自慢の1対1で得点を決めたり、試合を決める重要な局面を託されたりすることが増えた。渋谷の伊佐勉ヘッドコーチにとってはうれしい誤算。「大学生があれだけ動じずにプレーできるというのを目の当たりにして、ほかの選手たちも彼を認めざるを得なかったはず。チームにとって、すごくいい刺激になりました」と、高い評価をしている。

盛實にとっても、プロの世界はとても魅力的なものだったようだ。

「帯同した当初は『特別指定だから』とノーマークにされてましたけど、そのうち相手ベンチから『左に行かせるな!!』って声が聞こえてきて。対策されるくらいの選手になったことを実感して、ワクワクしました。ホーム&アウエーで、たくさんのファンの前でプレーするのも大学ではできないこと。シュートを決めたらたくさんの人が盛り上がってくれるので、気持ちが乗って楽しかったです」

課題として残ったディフェンス面と体づくりは、大学で継続して向き合っていく。大きく成長してプロに帰ってくる日を、多くのBリーグファンが心待ちにしていることだろう。

経験やスタイルを温故知新的に融合

法政大の中村太地(4年、福岡大大濠)は学生として唯一、特別指定選手制度が設けられた2016年から毎シーズン、この制度を利用している。1年生の時にチームが関東大学リーグ3部に降格した危機感から、自らBリーグのチームに売り込みをかけた。最初のシーズンはシーホース三河、2シーズン目は富山グラウジーズ、今シーズンは横浜ビー・コルセアーズに所属した。

法政大の中村はBリーグで得たものをチームに還元している(提供・B.LEAGUE)

大学に所属しながら特別指定制度を利用するメリットとは何なのか。中村に尋ねると、少し考えた上で言った。

「たくさんのコーチから指導を受けられるのは、大学生ならではの利点だと思います。僕はU22やB代表も含めると、1シーズンに3、4人のコーチの戦術や考え方を学べる環境にいます。こういったインプットの時間をとれるのはありがたいし、上のレベルで知ったことをチームや大学バスケ界に落とし込んでいくのも、大切なことだと思ってます」

もう一つの答えも、選手としてのインプットに関連することだった。

「大学では最高で3歳上の方としか触れ合えませんけど、Bリーグでは10も20も年上の選手から学べます。戦術やスタイルは3年から5年くらいのスパンで変わるものだと思ってますので、先輩たちが持ってる経験やスタイルを、温故知新的に融合できるのも大きいです」

法政大は16年に3部へ降格したうえ、17年からは専任の指導者がいない状況だ。特別指定制度には、中村のような選手を助ける役割もある。この恩恵を存分に受けて中村は成長し、法政大は昨シーズン、しっかり1部にカムバックした。

どうチャンスを得るか考える場

昨シーズンは琉球ゴールデンキングス、今シーズンはアルバルク東京に所属した平岩玄(東海大4年、土浦日大)は、身長199cmのセンター。出場機会はほとんどなかったが、2m超の外国籍選手や帰化選手が圧倒的優位を誇るBリーグで、自分がどうやってチャンスを得るかを探るために、この制度を利用した。

「大学やアルバルクではインサイドでプレーしてますけど、U22代表なんかではアウトサイドのプレーも求められます。スモールセンターとして戦うのか、それともプレーエリアを広げてパワーフォワード(PF)としてプレーするのか……。まだ悩んでる途中ですけど、どちらを求められてもいいようにいろんなことを経験して、常に高いレベルでプレーする必要があると考えてます」

筑波大の増田(左)は期間こそ短かったが、SFとしての可能性を広げた(提供・B.LEAGUE)

昨年の関東大学リーグ得点王だった増田啓介(筑波大4年、福岡大大濠)は、川崎ブレイブサンダースでプレー。年明けから約2カ月間という短い期間ではあったが、それまでプレーしていたPFでなく、より幅広いプレーが求められるスモールフォワード(SF)のポジションを経験した。川崎の北卓也ヘッドコーチは、筑波大の吉田健司監督の意向を踏まえ、彼をSFでプレーさせた。「ディフェンスは少し不安でしたけど、スペーシングや合わせなど、オフェンスのバスケットIQの高さが素晴らしかった。本当はもっと長くプレーしてもらいたかったです」と、評価している。

大学に戻った増田は満を持して、SFでポジション登録。川崎での準備期間が効いたのか、関東大学選手権では64得点(うち3ポイント3本)で得点ランク6位に入り、まずまずの滑り出しを見せている。

このように、多くの大学生が収穫を手にしている特別指定選手制度だが、改善の余地もあるようだ。関東大学バスケットボール連盟強化部長を兼務する筑波大の吉田監督は言う。「けがの補償や契約期間など、不明瞭なところも多いです」。大学側の問題提起を受け、4月には日本バスケットボール協会、Bリーグ、全日本大学バスケットボール連盟の三者による話し合いがスタートし、夏ごろまでにはルール整備が進む予定だ。大学とBリーグ、双方にとってよりよい制度になることを期待したい。

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