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特集:第70回全日本大学バスケ選手権

1対1で沸かせる男 専修大・盛實海翔

タイムアップが近づくほど、盛實は1対1でしかける

2000年代前半、専修大の男子チームは規格外ともいえる存在感を放っていた。それから10数年の時が経ったが、盛實海翔(もりざね・かいと、3年、能代工)にはなんとなく、あのころの「ソアラーズ」の匂いがする。

学生離れした華やかさ

あのころのソアラーズの面々は、坊主にヒゲ、ドレッドヘア、ヘアバンド。さらに、ここぞという試合で金色のサードユニフォームを好んで着た。世間が思い描く大学生アスリート像からかけ離れたいで立ちでありながら、ディフェンスに真摯で、とにかく強かった。02年にインカレ優勝、04年にも準優勝を果たした。

ユニークなルーティーンもあった。各Q(クオーター)の残り時間が少なくなると、ポイントガードがゴールに正対した位置でボールをコントロールし、時間いっぱいを使って1対1を繰り広げるのだ。「ムーブ」と呼ばれるドリブルテクニックを駆使したガードが、そのままドライブでフィニッシュすることもあれば、パスを受けたインサイド陣がダンクを叩きこむこともあった。それは学生バスケでありながら、一種のエンターテイメントの域にあるものだったと記憶している。

そしていま、ソアラーズには盛實がいる。当時の選手たちほどショーアップされてはいないが、タイムアップが近くなると自らボールを保持し、1対1を選択。「時間が少なくなってくると1対1のほうがやりやすいんです。ミスも少なく済むので、できる限り自分がやるようにしてます」と話す。

186cmの上背がありながらボールコントロール力に長け、ボディバランス、巧みなステップ、パスセンス、確かなシュート力を備えている。いまの大学界で最も1対1で観客を沸かせられる選手。そう言っても過言ではないだろう。

「消去法の主将」で成長

盛實はどちらかというと遅咲きの選手だ。埼玉・上尾市立大石中の2年生のときに全国制覇を経験しているが、エントリーメンバーではなくマネジャー登録だった。3年生の夏にようやく6番手として試合にからめるようになった。秋田の名門・能代工業高でスタメンになったのも、最終学年になってからだ。3年生の冬に迎えたウインターカップでは主将として8年ぶりの3位入賞に貢献し、大会ベスト5を受賞するまでに至った。

外からも狙える確かなシュート力を備える

大石中時代に盛實を指導し、現在は埼玉栄高男子バスケットボール部監督を務める伊藤裕一氏は早くからその素質を見抜き、盛實の両親にはことあるごとに「身体が追い付くまで待っててほしい」と伝えたという。中学3年の夏に174cmだった身長はその後10cm以上伸び、不安定だった体幹も力強くなった。そこに結果がついてきた。

高校では心も成長した。中高の1学年先輩にあたる長谷川暢(早大4年)いわく、盛實の代は主将の適任者がおらず、消去法で盛實に白羽の矢が立った感も否めなかったという。落ち着いて周りを見ることには長けていたがチームを鼓舞する素質があったわけではなかった。盛實自身も「もともとはリーダーシップをとるキャラではない」と認めるが、「声かけを意識しないと周りもついてこない」と実感して以来、思っていることを積極的に声に出して周りに伝えるようになった。

この経験がいまでも大いに生きている。今年のチームのスタメンは大澤希晴(4年、長野俊英)以外全員下級生。盛實はコート上でリーダーシップを担い、下級生はもちろん上級生に対してもフランクに声をかけ、チームを盛り立てた。

「性格的に年上にも言えちゃうところがあるんですよ。専修特有のラフな感じもありますけど(笑)。去年の4年生たちが抜けて、監督からは『お前がさらに責任感をもってやるように』と言われました。周りに声をかけられるのは自分のいいところなので、そこはしっかりやろうと意識してます」

観客を沸かせるプレーも大事

8月末から約2カ月にわたって開催された関東1部の秋リーグ。専修大は15勝7敗の3位でフィニッシュした。

開幕節こそ2連敗を喫したが、その後は接戦をものにする強さを養い、同一カードでの連敗も、優勝した東海大以外には喫していない。寺澤大夢(ひろむ、東海大諏訪)とキング開(アレセイア湘南)の1年生コンビが目覚ましい活躍を見せ、塚本雄貴(アレセイア湘南)や幸崎竜馬(能代工)ら4年生も自らの役割をしっかり果たした。盛實は「コートに立つ5人だけでなくチームみんなの力を出して戦い抜けたことが、3位という結果につながったと思う」と振り返る。

盛實自身はこれまでどおり、ゲームコントロールから得点から、コートに立つメンバーによってフレキシブルに役割を変えながらプレーした。秋リーグでは思うようにシュートの調子が上がらなかったが、「シュート以外にもできることがある」と、声かけやディフェンス、リバウンドでチームに貢献することにフォーカスした。

12チームの総当たり戦を2回。22試合にもおよぶ長丁場ともなれば、対戦相手も当然各チームのキーマンの対策を練ってくる。盛實の1対1もこれまでのように簡単には決まらなくなった。「寄りが速くなったり得意なことを止めてきたり、なかなか苦しめられる部分も多かった」と振り返るが、それでも自分のプレーで観客に何かを伝えたいという気持ちは変わらない。

秋リーグから一皮むけた盛實の1対1に期待

「見に来てくれている人たちがたくさんいる。そういう人たちに楽しんでもらえるといいなと思って、プレーしてます」と盛實。一発勝負のトーナメントは勢いも重要。専修大にも間違いなく日本一のチャンスがある。リーグ戦以上に多くの観客が駆けつけるインカレで、盛實はどんなプレーで私たちを楽しませてくれるのだろうか。

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