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(左から)エブリンとステファニー、顔を合わせれば2人とも自然と笑顔になる ©toyota_antelopes

馬瓜姉妹「姉妹で東京五輪」へ 2人そろえば笑顔が絶えず、コート外でも際立つ存在感

2021.04.27

2021年、日本女子バスケ界に新たな歴史が刻まれた。トヨタ自動車アンテロープスが、これまでWリーグ11連覇中のENEOSサンフラワーズをプレーオフファイナルで破り、初優勝を達成したのだ。

「バスケットボールファンの皆さん、そしてWリーグファンの皆さん。お待たせしましたー! ようやく歴史を変えましたーーー!!」

トヨタ自動車の馬瓜(まうり)エブリン(25)は、優勝直後の国立代々木競技場第二体育館でそう叫んだ。桜花学園高校(愛知)時代にも日本一を味わった彼女だが、日本のトップリーグでの頂点は初めての経験。同じくトヨタ自動車に所属する3つ下の妹・ステファニー(22)とそろって日本一に輝いたのも、人生で初めての出来事だった。

持ち前の陽気さと親しみやすさで周囲を明るく照らすエブリンと、「私と違って実は真面目なので、試合中はこのキャラを出せないんですよ」と姉の本性を明かすステファニー。取材中はまるでこちらの入る隙間がないくらい、ひとつ話題を振れば2人だけの空間がどんどん広がっていった。

――普段はお互いを何と呼び合っていますか?

ステファニー:「私はエブリンです」
エブリン:「ステちゃんです」
ステファニー「はい嘘~」
エブリン:「ステちゃんて言うじゃん!」
ステファニー:「ステって呼ばれてます。でも昔はステファニーって言えなくて、スターニー、スターニーって呼ばれてましたね。中学校くらいまで」
エブリン:「小さい頃はステファニーって難しいんだよ!」

こんな具合だ。こちらも自然と笑顔になってくる。

バスケが盛んな愛知で育ち、ともに名門・桜花学園へ

今季のWリーグではエブリンがプレーオフベスト5に選出され、副将を務めたステファニーは2年連続でベスト6thマン賞を受賞。ともにチームの悲願達成に貢献した。

「途中から出て流れを変えるプレーをしてくれますし、リバウンドとかブロックショットで相手を止めたり、インパクトを与えるプレーをしてくれますね。たまにね、ポロッてときがあるけど(笑)」。そうエブリンが妹のプレーについて語れば、ステファニーも「普段はこういう感じなんですけど、試合になると人の話を聞かないくらい集中しているので、“自分の世界”があるのかなと思います」と応戦。「でも本当にやるときはやりますし、オンとオフの切り替えというか、そういった部分では本当に尊敬する選手」と、ステファニーは言葉を添える。

全国大会とは無縁なバスケ人生を歩んでいた中学時代、エブリンはU16の日本代表としてアジア選手権を経験している ©toyota_antelopes

ガーナ人の両親のもと、愛知県で生まれ育った2人。エブリンがバスケを始めたのは小学校4年生の時。当時マイアミ・ヒートでNBAチャンピオンにも輝いたドウェイン・ウェイドのプレーに心を奪われ、地元のミニバスケットボールクラブに入団した。小・中学校時代は「ほぼ遊び感覚」だったこともあり、全国レベルの大会とは無縁。「小学校の時は全国大会があることすら知らなかったです」と笑う。それでも、中学時代には180cmの身長とポテンシャルの高さを買われてU16の日本代表に選出され、アジア選手権に出場した経歴を持つ。

エブリンと同じように、ステファニーも小学校4年生から東郷Beeミニバスへ入団した。「本当は金管バンド部に入りたかったんだよね」とエブリンが切り込むと、ステファニーはこう続ける。

「小学校に入学した時、担任の先生がバスケ部の先生だったので『もちろん(バスケを)やるんだよね?』って声をかけられ続けて……。当時は反抗する勇気もなかったので、まずは体験だけやりに行ったんですけど、やっているうちに自分でも楽しいなって気づいて、今まで続いてるっていう感じですね」

ステファニー、今でも忘れられないあの試合

「私のことを見ていたので、中学校から強いとこ行ってます」(エブリン)と、若水中学校時代から全国優勝を経験したステファニー。年の差の関係で入れ違いとなりながらも、高校はともに名門・桜花学園高校へ。その高校時代、「本当にやめたいと思った」と言うほどの挫折を味わったのは妹の方だ。

ステファニーは中学の時から全国大会を経験し、姉も通った桜花学園に進んだ ©toyota_antelopes

進学後は1年目から先発を任され、早々にチームの日本一に貢献したステファニーだったが、2年生のときには今でも悔やみきれないほどの敗北を味わった。1年を締めくくるウインターカップ決勝で岐阜女子高校に敗れ、準優勝。桜花学園にとっては、この試合は3年連続となるインターハイ、国体、ウインターカップの優勝、つまりは“9冠”がかかっていた試合だった。

「準決勝で25点くらい点を取ったんですけど、決勝は6点だったんです。先輩方の終わり方が悪くなってしまいましたし、すごく責任を感じました。本当にやめたいと思ったくらい嫌でしたね」。それでも、周りに支えられ再び前を向いたステファニーは、翌年には主将を担って再び桜花学園に3冠をもたらした。

「プレーの一つひとつが自分だけのものじゃなくて、試合に出られない人たちのため、応援してくれてる人たちのためのものだとも気づけました。その人たちのためにも勝ちたいと思うようになりましたし、3年間で本当に気持ちの部分で成長できたと思います」

コート外でも結果を出し続ける人気姉妹に

17年、エブリンはアイシン・エィ・ダブリュ ウィングス(現アイシン ウィングス)からの移籍、ステファニーは高卒ルーキーとしてそろってトヨタ自動車に加入した。「もうその体力がないです……」(エブリン)、「もうお互いがお互いのことを諦めてる……」(ステファニー)と、現在はけんかをしなくなったそうだが、この頃は対立したこともあったとステファニーは明かす。

「初めて一緒のチームになったので、お互いが何を考えてるかが分からなくて。普通のきょうだいってお互い思ってることが分かるとか言うじゃないですか。『分かるかな?』と思ってアイコンタクトしても逆のことされて(笑)。本当に何も伝わらなくて最初はイライラしてました」

今ではバスケ界にとどまらず、活躍の場を広げている ©toyota_antelopes

また、この頃から姉妹でのメディア露出も増え始めた。バスケ媒体だけでなく、ファッション誌の「VOGUE JAPAN」ではハイブランドの服を身にまとい、「ジャンクSPORTS」「今夜くらべてみました」などのバラエティ番組ではエブリンを中心に繰り広げるエピソードトークが面白いと話題に。これがきっかけで、昔から家族で御用達のステーキハウス「ブロンコビリー」の公式アンバサダーにも任命された。

姉妹で東京五輪、その先にある野望

エブリンとステファニーは、多方面から女子バスケ界を盛り上げる明朗快活な姉妹だ。しかし、トヨタ自動車の初優勝に向けて日々努力を惜しまなかったように、コートの外での葛藤もあった。エブリンは言う。「私たちはいい意味でも悪い意味でも目立つので、小さい頃は周りから色々言われたこともありました。でもバスケットをしていたおかげで周りと馴染めるようになりましたし、『普通に日本人なんだ』って思ってもらえるきっかけもバスケットの影響が大きかったと思います」

現在エブリンは5人制、ステファニーは3人制(3x3)の日本代表候補に名を連ね、3x3はこれから出場権をかけたオリンピック予選に挑むところだ。「姉妹で東京オリンピックへ」。当然、この夢はエブリンとステファニーも抱いている。もし夢がかなえば、母のフランシスカさんは号泣するのではないかと、2人はほおを緩めながら思いをはせる。現役バリバリの25歳と22歳。オリンピック後もバスケ選手としてのキャリアを続けるであろうこの2人には、最後にその先の目標を聞いた。

2人でWリーグ初優勝を成し遂げた。今度はそれぞれの舞台で東京五輪を目指す ©toyota_antelopes

「バスケット選手としても一流を目指していきたいですけど、かといってバスケだけにこだわらずマルチに活躍していきたいってのはあります。でもやっぱりバスケは楽しいですからね。あと何年できるか分からないですけど、今年オリンピックが開催されて、もし出られることになったら皆さんに元気を与えるようなプレーをしていきたいなと思います」(エブリン)

「私もまだまだ若い方なので、頑張れるうちはもっといろんな方にバスケを見てほしいという思いがあります。自分としても3x3みたいにいろんな競技のことに興味を持って、もっと世界を広げていきたいので、まずは目の前の自分の課題や大会を一つひとつ乗り越えて、もっといい大人になれるようにこれからもやっていきたいです」(ステファニー)

馬瓜姉妹はこれからもバスケ界にとどまらず、たくさんの人々の心を明るく照らす。(文・小沼克年)