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朝比奈(左)は主将として最後のウインターカップに挑み、3連覇に貢献した ©JBA

桜花学園・朝比奈あずさ、常勝チームを支えた主将 憧れの高田真希からの金言を胸に

2022.02.01

昨年12月に開催された第74回全国高等学校バスケットボール選手権大会(SoftBankウインターカップ2021)で桜花学園高校(愛知)は見事3連覇を果たした。冬の女王に輝くのは実に24回目、井上眞一コーチの全国大会通算70回目の優勝というとてつもない偉業達成もあり、桜花学園にとって記念すべき大会となったと言えるだろう。

だが、目指す目標が大きければ大きいほど背負う荷物は重くなる。決勝を前に先輩たちから受け取ったバトンを重く感じることはなかったのだろうか。「いえ、それはなかったです」と、きっぱり答えたのは主将の朝比奈あずさ(3年)だ。「決勝戦ということで特別緊張するようなことはありませんでした。確かに自分たちが先輩から引き継いだものは大きかったですが、それを重いと感じることはなくて、それより高校最後の試合を楽しもう、楽しんでみんなで勝とうという気持ちが強かったと思います」

ええ~っ、大会3連覇、さらに井上コーチの偉業達成がかかった試合だったのに?と聞き返そうとして思い直した。目の前に屈託のない朝比奈の笑顔があったからだ。なるほど、桜花学園の主将は想像以上にたくましい。

大変なこともあるけど、やっぱりバスケは楽しい

大阪で生まれた朝比奈は幼稚園に入る年に引っ越した横浜で小学2年生からバスケを始めた。「最初から楽しかったですね。中学の最高成績は県大会3位で全国大会には行けてないんですけど、ミニバス時代の友だちが多かったこともあり楽しかったです。勝ちにこだわるより楽しんでバスケをやるみたいなチームでした」。当時を振り返る言葉の中に何度も“楽しい”が出てくる。

だが、さすがに全国トップレベルの桜花学園に進んでからは“楽しい”ことばかりではなかっただろう。自分の将来性を見込んで声をかけてもらえた喜びと同時に、初めて親元を離れる寂しさやチーム練習についていけるかという不安も感じたに違いない。

「そうですね。初めて練習に参加した時はあまりのレベルの高さにびっくりしました。井上先生が言われるバスケット用語が理解できないこともあったし、一つひとつのプレーの細かさにもなかなか対応できませんでした。でも、なんといっても大変だったのはものすごくたくさんあるセットオフェンスを覚えることですね。最初の頃は毎日がほんとにいっぱいいっぱいという感じでした」

が、そう言った後に続けたのはこの一言。「けど、楽しいと感じることもいっぱいありましたよ」。先輩たちはみんな優しかったし、練習を離れると井上コーチは気さくに話しかけてくれ、「寮生活はすごく楽しかったです」と言う。バスケについて言えばベンチ入りした1年生の頃はまだ戸惑うことも少なくなかったが、2年生でスターティングメンバーに抜擢(ばってき)されたのをきっかけに今までとは違う責任感が芽生えた。桜花学園のスタメンを任されたという自信とやりがい。「もっともっと成長してチームに貢献したいと思いました。そう思って取り組むバスケットは大変なことがあってもやっぱり楽しかったです」

2年生からスタメンになり、“常勝チーム”で戦う責任を感じるようになった ©JBA

ウインターカップで生きた高田真希のアドバイス

もっともっと成長するために朝比奈が普段から心がけているのは、周りのアドバイスにしっかり耳を傾けることだ。井上コーチはもちろんのこと、スタッフやチームメートの声は常に真剣に聞く。ウインターカップ前にチームを訪れてくれた高田真希(デンソーアイリス)のアドバイスは今でも深く心に残っている。高田は東京オリンピックで日本を準優勝に導いた主将。桜花学園の先輩であり、朝比奈の憧れの選手でもある。身長185cmの朝比奈はチームのインサイドを支える役割を担うが、全国には高さとパワーを併せ持つ留学生を擁するチームも少なくない。

「そういうチームと対戦した時は、まずペイント内に入れさせないようにコンタクトして相手を嫌がらせなさいと言われました。仮に入られたとしても慌てることはない。相手はペイント内に3秒しかいられないのだから、その3秒を頑張るという意識を持ちなさいとも。オフェンス面では手足が長い留学生にブロックされない体の使い方も教わりましたが、1番肝心なのは逃げないことだと言われました。ブロックされてもいいから恐れずリングにアタックしていけばシュートが決まることもあるし、もし決めきれなくてもファウルをもらえるかもしれない。積極的にアタックすることからチャンスは生まれることを忘れないようにと」

相手が自分より大きな留学生だとしても、攻める気持ちを大切にしてきた ©JBA

自分より大きい2人の留学生がいる京都精華学園高校(京都)とのウインターカップ決勝戦では、高田からのアドバイスが生きた。「プレーそのものもそうですが、意識の持ち方とか考え方がすごく役に立ったと思います」。改めて決勝戦を見返すと、ペイント内で恐れず体を張り続ける朝比奈の姿がある。会場でそれを見ていた高田は「頑張りが伝わってきますね。私の高校時代より数段上手ですよ」と笑った。

春から筑波大へ、五輪選手になることも大きな目標

普段の朝比奈は口数が多い方ではなく、どちらかと言えばもの静かなタイプ。周りからは「真面目」と言われるそうだ。人に厳しいことを言うのは得意ではなく、そんな自分に桜花学園の主将が務まるだろうかと考えたこともあったが、「大変な時は3年生全員が助けてくれて、おかげでメンタル面でも成長することができました」。朝比奈を含めて8人の3年生たちはコロナ禍で中止となった2年時のインターハイと国体、3年時の国体を除き全ての全国大会で優勝している。唯一敗れたのはインターハイを前にした6月の東海大会決勝(対岐阜女子)であり、それだけにショックは大きかったが、今は「あの負けがあったからこそ精神的に強くなれた」と思える自分がいる。

「桜花学園に入って良かったと思うのは技術面の向上はもちろんですが、自分としてはメンタルの部分で成長できたことが1番だと思っています。特にキャプテンになってからは周りを見て自分のプレーを上げていこうとか、チームのためにこういうプレーをしようとか、考え方の部分で成長できた気がします。あとは感謝する心。インターハイやウインターカップで優勝できたのは井上先生やアシスタントコーチやチームメート、家族や地元の友だち、他にもほんとにたくさんの人が支えてくれたおかげです。桜花学園という“勝たなければならないチーム”の中でそれをものすごく感じました。私が桜花で得ることができた大切なものの1つです」

心強い仲間とつかんだ3連覇、筑波大でも感謝の気持ちを胸に(4番が朝比奈)©JBA

卒業後は筑波大学へ進学することが決まっている。選手としてのステップアップはもちろんだが、「いつか現役を退く日がきた時、次に何をやるのかという選択肢を広げるためにも4年間学びたい」と考えたそうだ。185cmの高さと走力を兼ね備え内外で得点できる強みに磨きをかけ、3ポイントシュートの精度も上げていくのが目下の目標。その先にはいつか日の丸をつけてオリンピックに出るという大きな目標もある。

大学の教室で学んだことをコートの上で生かしながら更に大きく伸びていきたい。憧れの高田に近づけるよう頑張りたい。「その高田さんがウインターカップであなたのプレーを見て、『自分の高校の時よりずっとうまい』と言っていましたよ」と伝えると、思わずうわぁと声が出た。満面には弾けるような笑み。

朝比奈あずさは桜花学園を心技でけん引した頼もしい主将。そして、その素顔は素直でさわやかな18歳だ。(文・松原貴実)