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川崎ブレイブサンダースの前田悟(右) © B.LEAGUE

川崎ブレイブサンダース・前田悟 天皇杯連覇への鍵を握るのはこの男だ

2022.02.03

昨年3月に川崎ブレイブサンダースが天皇杯を制したとき、前田悟(24)はまだ富山グラウジーズの一員だった。しかし、今大会はブレイブレッドのユニフォームをまとい、日本一の栄冠を勝ち取るチャンスを得た。幼い頃からの夢でもある天皇杯獲得へ向け、川崎のキーマンは不敵な笑みを浮かべる。

「複雑」な準決勝進出も、「今できること」にフォーカス

『サトルマエタ』。青山学院大学からBリーグの舞台に足を踏み入れた前田は、2019年1月に特別指定選手として富山グラウジーズに加入した時からこの愛称でファンに親しまれるようになった。そう名付けてくれたのは、とあるバスケットボール解説者。「気に入ってますよ。ニックネームがあることでより知名度が広がると思いますし、僕のことを『マエダ』と間違える人が少なくなりました」と口にする前田は、現在は川崎のサトルマエタとしてプロ4シーズン目を送っている。

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熱戦を繰り広げるはずだったアルバルク東京との天皇杯準々決勝は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点によりアルバルク東京が出場を辞退したことで川崎の不戦勝となった。「不戦勝はやっぱり複雑です。試合ができなかった残念な気持ちもありますし、アルバルクの悔しさもわかりますし、何より楽しみにしていたファンの方々もたくさんいると思いますので……」。前田は、そう素直な心境を明かす。

それでも準決勝に駒を進められた以上、優勝を目指すという目標に変わりはない。現在の前田は「自分たちでコントロールできないことを考えすぎてもしょうがないと思っています」と気持ちを切り替え、「ファンの方々はお金を払って試合を観に来てくれているので、コンディションが悪いという理由で適当なプレーはできないです。自分たちが今できることに取り組んで、とにかく良い準備をして準決勝に勝てるようにと心がけています」と前を向いている。

葛藤を乗り越え、新天地でも本来の姿へ

ルーキーシーズンに新人王を獲得した背番号13は今季、さらなる飛躍を求めて新天地への移籍を決断した。「昨年の天皇杯優勝チームでもありますし、このチームに飛び込んで自分がどれくらい通用するのかを知りたかったですし、もっと選手としての幅を広げたかった」と、複数のオファーから選んだのが川崎ブレイブサンダース。クラブ創設は1950年という長い歴史を持ち、Bリーグ開幕以降も常にチャンピオンシップに出場して優勝争いを繰り広げる文字通りの強豪だ。

左から二人目が前田 ©B.LEAGUE

現在、シューティングガードを主戦場とする前田が最も得意とするプレーは、高確率でリングに吸い込まれる3ポイントシュートだ。プロ1年目の2019-20シーズンから成功率39.9%を記録すると、翌シーズンは全60試合で先発出場しながらも39.6%の高い確率で3ポイントシュートを射抜いた。

「昔から外のシュートは得意でした。でも、3ポイントシュートというよりはペリメーターのシュートが得意で、本格的に3ポイントシュートを打ち始めたのは大学3、4年の頃からです」と話すように、学生時代はインサイドでもプレーしていて、決して3ポイントシュートが得意というわけではなかった。

3ポイントシューターとしての道を歩みだした経緯については「僕もよくわからないです」と笑ったが、前田はこう続ける。「プロに入ってからですね。特別指定選手として富山に加入させてもらった時にシューターとして獲ってもらいました。僕自身もやりたいポジションだったのですんなり受け入れられました。それからはワークアウトもたくさんしましたし、とにかく毎日練習していました」。

川崎へ移籍してきた際も、佐藤賢次ヘッドコーチからは「日本を代表するシューターになってほしい」と期待を寄せられた。けれど、豊富な戦力に加え強度の高いディフェンスをスタイルに掲げる川崎では、シュートだけではプレータイムを勝ち取ることはできない。「最初の頃は苦戦した部分が多くて、チームに馴染む部分や自分のプレーをうまく出せないところにフラストレーションを溜めてしまっていました」。シーズン序盤、前田は一人もがいていたが、現在はコーチ陣や選手たちとのコミュニケーションを重ねることで1つの答えを見出した。

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「今は、迷わずに自分のプレーを出そうと決めてアグレッシブにやっています。徐々にいい感触もつかめています。コーチ陣には『もっと積極的にシュートを狙ってほしい』と言われましたし、前半戦は打てる場面でも躊躇して打たなかったシーンが多々あったので、やっぱり迷わず打つことが一番大事かなと。相手にしても僕がシュートを打つことが一番怖いと思うので、そこは自信を持ってやっていこうと思っています」

悩めるシューターが自分を見つめ直すきっかけとなった試合として挙げたのは、昨年12月4日、5日に行われたレギュラーシーズンのアルバルク東京戦だ。前田はこの2連戦、体調不良のため欠場となったが、「あの時に一歩引いて川崎のゲームを見ることができました」とポジティブに捉えている。

「『自分だったらこういうプレーができる』とか、『今のディフェンスは良かったな』とか客観的に見られたことで、いい意味で考えがクリアになりました。実際に中に入ってプレーしている時は『あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ』と頭がこんがらがっていた時もあったんですけど、自分の強みを生かしてアグレッシブにプレーするという単純な考え方に変えられことで、そこから少しずつ3ポイントシュートのタッチも上がっていった感覚があります」

新たな年が明けて迎えた1月8日のサンロッカーズ渋谷戦、前田は今シーズン最多となる1試合5本の3ポイントシュートを突き刺した。「本当に『ここから』という気持ちです」。本来のキレを取り戻した24歳は、これからの巻き返しへ向け言葉に力を込めた。

夢でもある天皇杯制覇へ「すごくワクワク」

前田は山形県で生まれ育ち、小学校1年生からバスケットボールを始めた。「お前も入れよ」。きっかけは姉のミニバスの送り迎えについていった際、男子の部員が9人しかいなかったためにそんな声をかけられた。「無理矢理入れられた(笑)」と本人は言うが、「当時、父も中学校のバスケを教えていた」と、幼い頃から身近にバスケットボールがあった。

山形南高校時代の前田 ©️JBA

小・中・高と、いずれも下級生から主力として全国大会を経験してきた前田は、山形南高校3年時には日本代表のキャプテンとして「FIBA U17男子バスケットボール世界選手権大会」にも出場した。そんな前田が着実にキャリアを積み上げていた中で、「今みたいに動画配信がなかった時代からテレビでやっていたので、よく観ていました」と口にするのが、日本バスケ界の頂点を決める天皇杯だ。

「今、その大会に出場しているのも不思議な気持ちですし、当時から優勝したチームを見て『あの場所に1回は登ってみたいなぁ』と思っていました」と語る前田は、まさに今、その夢をあと少しで叶えられるところまできている。

川崎の天皇杯連覇までは、あと2つ。2月9日のセミファイナルでは前回大会のファイナルでも激突した宇都宮ブレックスとの一発勝負だ。「ブレックスアリーナでやる宇都宮は強い」と前田も警戒するように、川崎は敵地での戦いを強いられる。「宇都宮もディフェンスのチームなので、ルーズボールやリバウンド争いがカギになってくるかなと思いますし、その部分で負けなければ勝てると思います」とチームとしての青写真を描く新戦力は、自身の役目についてこう意気込みを示す。

「今はシックスマンとして試合に出ることが多いので、チームに活気を与えるプレーをして貢献したいです。チームとしても僕が3ポイントシュートを決めることで勢いづくと思うので積極的に打っていきます。もし3ポイントシュートが打てなくても、他のプレーで貢献できるのが僕の強みだと思うので、そういうプレーをしっかりやっていきたいです」

天皇杯準決勝は、チームとしても真価が問われる戦いとなるだろう。それでも、前田悟に一切の不安はない。

「僕自身はすごくワクワクしていますね。2連覇に挑戦できるのも川崎だけですし、やっぱりこういう大舞台でプレーするのは楽しいですし躍動したいです。周りから『前田を獲って良かったな』と思ってもらえるよう、チームのためにプレーしたいなと思います」

天皇杯連覇への鍵は、やはりこの男が握っている。


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