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若きポイントゲッターは今、世界を見据えている ©JBA

オコエ桃仁花 胸に刻んだ2つの使命、オールラウンドな攻撃を磨いて世界に挑む

2022.06.16

取材を行ったのは、オーストラリア遠征の帰国日の6月2日だった。オコエ桃仁花(もにか、富士通 レッドウェーブ)は「ブレイズ」と呼ばれる髪の編み込みをほどいて“戦闘モード”を解き、リラックスした様子でリモートインタビューに応じた。

東京オリンピックを経験した23歳は、今がまさに伸び盛りだ。182cmの身長と恵まれたフィジカルを生かしたプレー、そして、力みのないスペシャルな3ポイントシュートを備えたオコエは、トム・ホーバス氏(現・男子日本代表ヘッドコーチ(HC))からバトンを受け継いだ恩塚享HC体制で、これまで以上の貢献を期待されている。

5月末に行われたオーストラリア代表との親善試合では、ゲーム2で20得点、ゲーム3で15得点を挙げて勝利に貢献。「トムさんには、主に3ポイントを求められていましたが、恩塚さんには『スリーだけでなくドライブやローポストのオフェンスにも期待している。日本の柱になってほしい』と言われました。求められることが広がって、新しい自分に出会えているような気がします」。そう話すオコエの姿からは、9月にシドニーで開催されるFIBA女子ワールドカップ2022、そして、2024年のパリオリンピックに向けた心身の充実がよく伝わってきた。

引きこもった私に両親が見せてくれたもの

オコエがバスケットボールと出会ったのは小学5年生。人数合わせの助っ人として出場した大会で、MVPを獲得したのがきっかけだった。「当時私はフラダンスをやっていて、大会が終わったらそっちに戻るつもりだったんですが、なぜかお母さんがフラダンスの先生に『やめます』と電話をしていたんです(笑)」

ナイジェリア人の父を持つ。「肌の色や髪型が違っているせいか、人から受け入れられる機会が少なかった」というオコエは、人前に立つことが大の苦手で、いつも母や兄の瑠偉(東北楽天ゴールデンイーグルス)の後ろに隠れているような少女だった。しかし、MVPを受賞したことで、自信が生まれた。「初めて人から認められたような気がしました。『バスケなら自分にも可能性があるんじゃないか』という気持ちに支えられて、毎日夢中にプレーしていました」

オコエ(右)は自分の可能性を感じられたことで、一層バスケにのめり込んだ(代表撮影)

東村山市立第六中学校(東京)で全国大会に出場し、後に日本代表のチームメートとなる馬瓜ステファニー(トヨタ自動車 アンテロープス)や赤穂ひまわり(デンソー アイリス)のスケールの大きさに衝撃を受けたオコエは、より高いレベルを目指すために東京の名門・明星学園高校に進学。2年生の時には中田珠未(ENEOSサンフラワーズ)らとともにインターハイ3位に輝いたが、最後の全国大会となるはずだった3年生でのウインターカップは、自身のケガなどの影響で出場権を得られなかった。

この経験は、オコエにとても大きな力を与えた。

「冬休み中、ずっと家で引きこもっている私を見て、両親がナイジェリアに連れて行ってくれたんです」

初めて訪れた父の故郷で、オコエはいろいろなことを感じた。自分と年の変わらない子どもたちが汗水を垂らして働いているのを見て、「私の悩みってすごく小さい」。ボロボロの服をまとった子どもたちが笑顔でバスケを楽しむ姿に、「私っていつも困った顔でバスケをしてたな」。そして、大嫌いだった褐色の肌やカールした髪を誇りに思えるようになった。「ナイジェリアから帰る時には『私って最高!』って感じでした」とオコエは笑った。

高校卒業後はWリーグに進むことが決まっていたオコエは、トップカテゴリーでプレーするにあたっての自らの“使命”を定めた。1つは、2つの国をルーツとしている誇りを積極的に発信していくこと。もう1つは笑顔でプレーし、見る人を元気づけること。「人から認められたい」という動機でバスケを始めた少女は、「自らのプレーで人々に影響を与えたい」という主体的な意志を携えて、次のステージへと進んだ。

トム・ホーバス氏から「あなたはシューターです」

ルーツをたどる旅を経て「私」への自信を手に入れたたオコエだが、「バスケ選手」としての自信は、デンソー アイリスに入団した後もなかなか芽生えなかった。1年目は高校時代のケガが完治せず、2年目は髙田真希や赤穂さくら、同期の赤穂ひまわりからプレータイムを奪えなかった。ベンチを温める日々に悶々(もんもん)としていたオコエに手を差し伸べたのが、ホーバス氏だった。

「珍しく10分くらいプレータイムをもらってめちゃくちゃ点をとった試合を、トムさんがたまたま見に来ていて、代表合宿に呼んでくれたんです。スタッフから聞いた時は、『え!? 私ですか?』みたいな感じ(笑)。何かの間違いだと思って、わざわざ監督に確認しに行ったくらいです」

なんで私が選ばれたんだろう……。半信半疑の状態で合宿初日を迎えたオコエは、ホーバス氏との面談で思いがけない言葉をもらう。「『僕は試合を見て、あなたの素質をすごく感じた。あなたは東京オリンピックに必要な人間。あなたの可能性をもっと見たい』というようなことを言っていただきました」

オコエ(左)は東京オリンピックに向けた代表合宿の中で、自分の役割を実感した(撮影・恵原弘太郎)

ホーバス氏のバスケは、センターの選手がアウトサイドに開き、積極的に3ポイントを打つスタイル。インサイドでのプレーが求められるデンソーではなかなか発揮できないものの、3ポイントを1つの武器としていたオコエには、このスタイルがよくフィットした。

「トムさんには、一次合宿では『スリーをどんどん狙ってくれ』、二次合宿では『あなたはシューターです』と言われました。私は高校時代から、何でもできるけど何かが飛び抜けてるものもない選手で、いつも『自分の取り柄ってなんだろう』って悩んでたんですけど、トムさんが『あなたの一番の武器は3ポイントで、そこをチェックされるからドライブが生きる』と整理してくれたおかげで、まずは3ポイントを磨こうと考えられるようになりました」

プレータイムと3ポイントを打てる環境を求めて富士通 レッドウェーブに移籍し、シュートフォームも見直した。スランプに陥り、「このままだったら候補から落とさなければいけない」という言葉を突きつけられた時もあったが、大会の延期にも助けられて復調。見事、東京オリンピックの12人のロスターを勝ち取った。「人生で初めて夢がかなった瞬間でした」とオコエは言った。

「これが私なんだ」と自信を持って

6月7日、日本代表の強化方針に関する記者会見が行われた。恩塚HCは「パリオリンピックでは金メダル」という目標を明言。期待している選手を問われると、赤穂ひまわり、東藤なな子(トヨタ紡織 サンシャインラビッツ)、そしてオコエの名前を挙げた。

「この3選手は、高い能力と高い志を持っている素晴らしい選手です。これまでは自分を一歩引いてとらえているところがありましたが、今は『こういう選手になりたい』という気持ちがふくらんできています」

オコエ(左)は恩塚HC(中央)から期待を受けながら、これからもオールラウンダーとして活躍を誓う ©JBA

6月18、19日、「三井不動産カップ2022(千葉大会)」が千葉ポートアリーナで開催される。対戦相手はヨーロッパの強豪・トルコ代表。W杯に向けた選手選考の場でもあるこの大会の抱負を、オコエはこう語る。

「トムさんのもとで3ポイントを磨けた今、高校生の時は中途半端に感じたオールラウンドなオフェンスを、『これが私なんだ』と自信を持って表現できているように思います。東京オリンピックの選考の時から積み重ねてきた日本代表としての経験値を見せて、お客さんを楽しませられるように頑張ります」

若きポイントゲッターの躍動が楽しみだ。(文・青木美帆)