コー・フリッピンは群馬クレインサンダーズで新シーズンをスタートさせる ©B.LEAGUE(いずれも2023年5月撮影)
Bリーグの群馬クレインサンダーズに、強力な戦力が加わった。5月にあったチャンピオンシップ(CS)ファイナルで、琉球ゴールデンキングス初優勝に貢献し、「日本生命ファイナル賞」を受賞したコー・フリッピンだ。新天地でチャンピオンチームに押し上げる原動力として期待がかかる。
“恐るべしフリッピン”を見せつけた
あんなにうれしそうに笑うコー・フリッピンを見たのは初めてかもしれない。
5月27、28日に行われたB.LEAGUE 2022-23シーズンCSファイナル。琉球はレギュラーシーズン史上最高勝率を誇る千葉ジェッツに2連勝し、悲願のリーグ王者に輝いた。
フリッピンが受賞したのはファイナルで最も印象的な活躍をした選手に贈られる「日本生命ファイナル賞」だ。名前を呼ばれた瞬間、小さく首を振りはにかんだ笑顔は、湧き上がる歓声とチームメートたちの熱烈な祝福の中でみるみる大きな笑顔へと変わった。
さかのぼること4か月前、3月の天皇杯決勝で千葉Jと対戦した琉球は76-87で完敗している。その後も千葉Jは24連勝の新記録を打ち立て東地区首位を独走。ファイナルを前にした下馬評には「千葉J優勢」の声が目立ち、それは琉球がダブルオーバータイムの死闘を制した(96-93)第1戦の後も消えることはなかった。
「さすがに次は千葉が取るだろう」「あの千葉に2連勝するのは難しいだろう」。しかし、結果は先述のとおり。88-73と予想外の点差がついたコートにはアンストッパブルなフリッピンがいた。
後半、一気呵成(かせい)に攻める千葉Jに逆転を許した場面ではすかさず再逆転3ポイントシュートを沈め、絶妙なアシストパスで味方の得点を演出したかと思えば、わずかな隙(すき)をついてゴール下に走り込むなど、まさに変幻自在の活躍。
約27分のプレータイムで3本の3ポイントシュート含む21得点、8アシスト、フリースロー10/10と、残した数字も見事だが、それにも増して印象的だったのはどんな状況下でも“らしさ”を失わず、終始伸びやかにプレーする姿だ。
聞けば、「バスケを楽しもうと決めてコートに立った」という。
「前のシーズンは自分の中であまりいい形で終われなかったというのがあって、考えると自分にプレッシャーをかけ過ぎていた気がするんですね。だから、今回のファイナルはまず自分がバスケを楽しもうと決めていました。もちろんモチベーションとなるのは勝ちたい気持ちですが、同時に自分が担ったプレーを楽しみたいと思ったんです」
彼が考える自分の役割とは「常にチームをプッシュし続けること」。特に今シーズン意識したのは「いかにチームメイトがプレーしやすい環境をつくるか」であり、それを念頭に置いて試合に臨んだという。その結果として得たのは栄えあるリーグ優勝と日本生命ファイナル賞。
「優勝はもちろん、個人としてもあんな素晴らしい賞をいただけてものすごくうれしかったです。自分のキャリアの中で誇りになるものだと思うし、琉球でプレーできたことにあらためて喜びを感じました」
群馬クレインサンダーズの新しいエネルギーに
フリッピンの言葉から伝わってきたのは、琉球の確かなワンピースとなった手応えと充足感だった。ではなぜ、結果を残した琉球を離れ、群馬クレインサンダーズに移籍しようと思ったのか。
振り返ればフリッピンは、2019年に千葉Jでプロ選手としてのスタートを切り、チーム内で存在感を示し始めた2年後に琉球に移籍している。はからずもそれは千葉Jがリーグ優勝を果たした翌年のことだ。
「千葉ではプロ選手の在り方とかいろんなことを学ばせてもらいました。より多くのプレータイムを求めて移籍した琉球ではいろんなポジションでプレーすることができて、それは自分の成長につながったと思っています。沖縄は母の故郷であり、親戚の人もいるし住むには最高の場所。もちろん琉球も最高のチームです」
だが、自分が求める“最高の選手”は常に上書きされていく。
「自分にとって快適な環境でプレーするのは、言い方はおかしいかもしれませんがすごく楽なこと。でも、自分が成長するためには違ったシチュエーションの中で勉強してみたい気持ちが強かったんですね。違う場所、違うチームで新しいことを学んでステップアップしたいと思いました」
東地区1位、西地区1位で毎年リーグトップを競う千葉Jや琉球に比べると、2021-22シーズンにB1の舞台に上がった群馬はこれからのチームという印象が強い。
「確かにそうかもしれません。でも、チーム力を見れば成績こそ東地区5位でしたが、上位に行けるかどうかのボーダーライン上にいる感じで、この先が楽しみなとてもいいチームというのが僕の印象です。琉球で一緒だった(並里)成さんもいるし、新しく辻直人さんという力があるシューターも加入したし、どんなチームになっていくのかわくわくしています」
フリッピンの図抜けた身体能力は誰もが認めるところだが、本人が考える自分のストロングポイントは「1対1の強さ」。それを生かして群馬に勝利をもたらす戦力になりたい気持ちはもちろんあるだろう。が、自分の立ち位置について語るフリッピンの言葉に気負いは感じられない。
「自分が入ったからどうのこうのと言うんじゃなくて、あくまで群馬に入った新メンバーとして新しいエネルギーを与えられたらいいなと思っています。もともとある群馬のいいところを生かしながら、そこに自分の力を加算するというか、そういう存在になりたいです」
試合で何回か訪れたことはあるものの群馬という土地にはなじみはない。だが、不安はまったく感じていないという。
「むしろこれから群馬のことをいろいろ知っていくのが楽しみです。まずはおいしいご飯屋さんを知りたいですね。成さんや(八村)阿蓮にいろいろ教えてもらいながら少しずつ開拓していこうと思っています」
ちなみに開拓を目指すお店のマストは「大好きな焼き肉がおいしい店!」だそうだ。
新しい仲間から刺激を受けて成長したい
オフは生まれ育ったアメリカのLA(ロサンゼルス)で過ごした。LAは12歳でバスケットを始めた場所。レイカーズを応援し、コービー・ブライアントに憧れ、将来は自分もプロになるんだと誓った場所。懐かしい友だちと会って思い出話に花を咲かせ、一緒にバスケットも楽しんだ。
1人になるともっぱら読書をして過ごす。ジャンルは問わず興味をひかれた本を手にゆっくり過ごす時間が好きなのだという。コートの上の“動”とコートの外の“静”。正反対のようでいて共通するもの。おそらく彼は本でもバスケでも自分を刺激してくれるものと向き合い、そこから学ぶことが好きなのだろう。
「新しいシーズンは、新しい仲間からたくさん刺激を受けてまた成長していきたいです。最終目標は当然優勝ですが、大切なのはまず水野(宏太)ヘッドコーチのバスケットをよく理解していい戦いができるようになること。全力で頑張りたいと思っています」
コートの上ではあまり感情を見せないフリッピンの中にあるバスケットへの情熱。さらなる高みを目指す27歳のチャレンジャーに最後の質問をしてみた。
あなたにとってバスケットとはなんですか?
少し考えた後、返ってきたのは短く、まっすぐなひと言。
「LIFE(人生)です」
(文・松原貴実)