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筑波大学・黄雄志 医学部で学びながらチャンスつかんだPG、新人戦で「MIP賞」

新人戦で「MIP賞」を獲得した筑波大の黄(すべて撮影・井上翔太)

6月11日に閉幕した第63回関東大学バスケットボール新人戦で、準優勝だった筑波大学の黄雄志(2年、聖光学院)が最もインパクトを残した選手に贈られる「MIP賞」を受賞した。医学部に在籍しながら、バスケ部でもチャンスをつかんだポイントガード。「同じことをやっている人がいない、というのがモチベーションにもなっています」と自分にしかできない道を突き進んでいる。

高校同期のスタメンは自分以外、全員東大へ

小学生の頃はサッカーをしていたが、中高一貫の聖光学院中(神奈川)に進んだ際、6歳離れた兄がバスケをしていたことがきっかけで、自身も競技を始めた。「お兄ちゃんが家の前で自主練をしているのに付き合ったり、バスケを教えてもらったりしていました」。高校進学後、バスケに本気で向き合う出来事があった。

高校1年だった2019年、中国で開催されたワールドカップを兄と見に行った。黄のおじさんがちょうど中国にいたこともあって、色々と手配してもらいながら、上海で行われた一戦を観戦。そこで「代表の人ってかっこいいな」と感じた。「この舞台には立てなくても、Bリーガーにはなりたいと思いました」

とはいえ聖光学院は、決してバスケの強豪校とは言えない。むしろ、毎年多くの学生が東京大学に合格する進学校だ。黄が高校3年のときの全国高校総体(インターハイ)神奈川県予選で1回戦を突破した実績はあるが、それまでは県大会前の支部予選敗退が続いていた。一方で「同期でスタメンだった選手たちは、僕以外、全員が東大に行きました。東大4人と、筑波が僕1人みたいな感じです」。

高校時代に先発で出場した同期は自分以外、全員東大に進んだ

「バスケの技術だけで見てくれるのがありがたい」

筑波大進学の際は、推薦で入部する選手たちが集う体育専門学群に進むことも考えた。しかし「今まで勉強も頑張ってきたし、諦めるのはもったいないと思いました」と医学部を志し、現役合格を果たした。

授業や実習は毎日、午後5時ごろまで。黄は練習開始に間に合わないこともよくある。ただバスケをしているときに、学部のことは関係ない。「『医学部だからこれはできないよね』というのは嫌なので。そこはフラットに、うまいとか下手とか、バスケの技術だけで自分のことを見てくれるのがありがたいんです」。筑波に進む前から、部の雰囲気は先輩から聞いていた。「練習に遅れてしまうことも分かってくれていますし、尊重してくれるのが筑波のいいところだと思っています」

鋭いドライブが持ち味。もちろん自らシュートまで持ち込むこともある

高校時代は「ガンガン点取る」、筑波で「周りを生かす」

今回の新人戦は同じポジションの岩下准平(2年、福岡大大濠)がけがで出場できず、スタートから起用され続けた。特に自信を持ってプレーしているように感じられたのが、9日の中央大学戦。前半で三つのファウルをもらってしまったが、後半はポイントガードとして、オフェンスを組み立てた。「高校時代は自分がガンガン点を取って、ディフェンスはほとんどしたことがなかったんです。けど、筑波はポイントガードのディフェンスを重視するので、最初はそのギャップに苦しみました。今は自分が攻めるよりは、福田君(健人、2年、中部大第一)とかに攻めさせる方が流れは良くなるので、周りを生かすようなプレーを心がけてます」。中央大戦は、終盤まで追いかける展開が続いた中、焦ることなく、自分たちが今できることをしっかりと遂行し、71-68で競り勝った。

中央大戦は福田(左端)ら、周りの選手たちを生かして競り勝った

吉田健司ヘッドコーチも、新人戦を通じた黄の成長を評価している。「1年目はBチームで下積みをして、途中からAチームに入ってきた。今までは控えでしたが、岩下がけがをしている前提で新人戦のチーム作りをしてきて、ポイントガードは黄しかいなかった。実際、1試合1試合うまくなっています。まだ周りがボールを待っているのに、自分でいっちゃうところがあるので、色んなミスをしながら経験を積んでいってもらえたらと思います」

黄によると、医学部は学年が上がるにつれて少しずつ忙しくなる。その分、練習時間を捻出することが大変になるが、「そこは自分が頑張らなきゃいけないところですね」と本人。「高校時代に、『ちょっとでもいいからプロに入ってみたい』とBリーグに興味を持って、今は『どうせだったらBリーグも医学部もどっちもやっちゃおう』というテンションで続けています。高校のときに高いレベルを経験していなかったので、全国のトップレベルを味わってから、プロをめざすか決めたかった。チャレンジせずにやめるのは嫌だったんです」

これからも道は自分で切り開く。今回の新人戦は、その第一歩となった。

これからも自分にしか進めない道を切り開く

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