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特集:第73回全日本大学バスケ選手権

筑波大・二上耀「物足りなかった」インカレ準優勝から1年、「点を取るキャラ」を示す

筑波大のエースとして、二上は2年ぶり6度目のインカレ優勝を目指す(撮影・全て小沼克年)

「来年のチームで特に期待している選手はいますか?」。昨年のインカレ最終日、筑波大学の主将を務めた菅原暉(てる、現・群馬クレインサンダーズ)は、記者会見でそう問われると迷いなく答えた。「二上です。今大会もクラッチタイムでシュートを決めてくれましたし、プライベートでも仲がいい後輩なので、今回悔しい思いをした分、来年もっと暴れてくれると思います」。その言葉から1年。二上耀(ひかる、4年、北陸)は12月6日開幕のインカレをまっすぐ見据えている。

筑波大・菅原暉「自分なりのキャプテンシー」 全てに秀でたガードが狙うインカレ連覇

昨年はピンチを救う活躍でも、エースの山口さんの裏

昨年は惜しくも準優勝でインカレを終えた筑波大。前主将の言う通り、二上は準々決勝の専修大学戦、準決勝の大東文化大学戦ではともに試合終盤にチームを救う3ポイントシュートを沈めた。シックスマンとしてコートに立ちながらも、二上は計5試合で平均9得点をマーク。大会後は「自分の中では積極性が出せた大会だった」と振り返っていた。だが、今改めて思い返すと、やっぱり物足りない。

「アベレージで点数が取れなかったです。多分10点以下だったと思いますし、去年はエースの山口さん(颯斗、現・レバンガ北海道)がいて、僕はその裏を狙う感じでした。確かにクラッチシュートは決めましたけど、全然物足りなかったなと今は思っています」

人生最大の大けがを乗り越えて

高校生の頃、当時筑波大でプレーしていた馬場雄大(現テキサス・レジェンズ)の姿を見て大きく心が動いた。二上は地元の北陸高校(福井)から筑波大への進学を決め、ドライブ、トランジション、3ポイントシュートと多彩なパターンから奪える得点力を武器に、1年のリーグ戦から出場機会を増やした。

「1年の時はインカレ前にけが人が出て、自分がポイントカードやるという話になったんです。バスケ人生で初めてポイントカードをやらされたんですけど、ボコボコにされた記憶しかない(苦笑)。ボール運ぶのに精一杯で……」

主戦場はシューティングガード。過去にはそんな出来事もあったそうだが、二上は大学でも順調にキャリアを積んでいた。

しかし、悪夢は突然訪れた。右膝の前十字靭帯(じんたい)断裂。2019年の6月末に参加したU20の強化合宿で「やってしまった」。二上にとって生まれて初めての大けがだった。

「けがした瞬間は大丈夫だろうと思ったんですけど、病院で診てもらった時に前十字が切れてるって言われて。もうショックすぎて……。その時は新人戦が終わってすぐの時期で、新人戦もすごく調子が良かったので気持ち的にも結構キツかったですね。1年間のリハビリも辛(つら)くて、毎日毎日同じことの繰り返しでした」

2年生の時に二上(右)は前十字靭帯を断裂。チームを離れている時も、菅原が支えになってくれた

二上が約1年の離脱を余儀なくされたとしても、筑波大は有能な選手がズラリと揃(そろ)う強豪チームである。当時の4年生には牧隼利(現・琉球ゴールデンキングス)や増田啓介(現・川崎ブレイブサンダース)がいて、その年、筑波大は3年ぶり5度目のインカレを制した。「自分がいなくても優勝できるんだというのが悔しかったですし、ちょっとメンタルがやられた時期もありました」。1秒たりともコートに、いや、ベンチにすら入ることもできなかった二上には、嬉(うれ)しさとともに悔しさが押し寄せた。

そんな二上の胸の内を察してか、すぐに声をかけてくれたのも当時3年生の菅原だった。「暉が色々と気にしてくれて、『お前がいたらもっと楽に勝てたよ』って言ってくれました。そう言われた時は、いい先輩だなぁと思いました」。菅原とは今でも頻繁に連絡を取り合う仲であり、「(今年の)リーグ戦が終わってからも色々話を聞いてもらった」そうだ。

インカレは得点を取り続け、チームを救う

ラストイヤーの今季、二上は山口からエースの座を受け継ぎ、春のトーナメントでは得点王を獲得。筑波大の強みは身長190cmを超える選手たちが激しい守備から速攻を仕掛け、どこからでもフィニッシュに持っていけることだが、トーナメントとリーグ戦を通しても勝負どころでは二上がボールを保持する場面が多々あった。

けれど、チームはトーナメント3位に終わり、直近のリーグ戦は6位で終了。約1カ月間のリーグ戦では主力にけが人が相次ぎ、中田嵩基(3年、福岡大大濠)や横地聖真(2年、福岡大大濠)らに加え、木林優(2年、福岡大大濠)に至っては二上と同じように前十字靭帯断裂で長期離脱を強いられた。

昨年のインカレで、満身創痍の中でも点を取り続けた山口の姿を、二上(中央)は鮮明に覚えている

「インカレまでに何人戻ってくるかは、まだ分からない」。二上も不安を抱えている。しかし、どんな状況でも「自分がチームのエース」という自覚は揺らぎはしない。二上は昨年のインカレで平均20.2得点を挙げた山口とも照らし合わせ、「自分がエースとして点を取り続ける」ことにフォーカスを当てる。

「インカレは一発勝負なので自分ができることをしっかりやり通したい。得点を取ることでチームを引っ張っていけたらなと思います」

エースとしてこれまでも、これからも

学生最後の大舞台。筑波大のエースは「このチームで全力を出して、それで負けたなら仕方ないです。ただ、後悔だけはしたくない。最後なのでやり切って終わりたいです」と強い覚悟を持って臨む。

大学日本一を目指すためにも、その先のBリーグで出場機会を得るためにも、個人としてはディフェンスを磨かなければいけないことは重々承知である。それでも、「そうすることでオフェンスをやらなくなる選手にはなりたくない」と二上は言う。

「後悔だけはしたくない」。その思いを胸に、最後のインカレに挑む

二上は昔から得点を取ることが好きだ。本人は「点を取るキャラ」という独自の言い回しで表現したが、つまりはミニバス時代からずっとエースを担ってきたのだ。根本的な疑問として、彼はなぜ得点を取ることに喜びを感じるのか。二上耀は一瞬だけ考え、子どもの頃と変わらぬ純粋な答えで返した。

「何だろ? やっぱり得点を取らないと面白くないので。今までもずっとそう思ってやってきました」

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