筑波大学・三谷桂司朗主将 YouTubeコメント欄の悔しさバネに、築いたスタイル
昨シーズンはインカレの初戦で中京大学に敗れ、2019年度以来となる大学日本一を逃した筑波大学。今シーズンの主将には高校時代の2019-20シーズンと2022-23シーズンにB1広島ドラゴンフライズの「特別指定選手」となった三谷桂司朗(4年、広島皆実)が就任した。経緯と「オールラウンダー」と評されるプレースタイルの背景を尋ねた。
インカレ王者と戦った「TSUKUBA LIVE!」
筑波大の主将は例年、推薦で入部した選手の中から選ばれるという。三谷の代は横地聖真(4年、福岡大大濠)と木林優(4年、福岡大大濠)の3選手だった。三谷はもともと学年のリーダーを務めていたこともあり、下級生の頃から主将になる流れはできていた。インカレが終わって新チームが結成された後「さらっと」決まった。
いざ就任してみると、特に周囲への目配りの面で大変だなと感じる場面も多かった。「練習中や試合中に『今、何ができていないか』とか『ちょっと緩い空気のとき』とかをいち早く感じ取って、なるべく早く流れを止めることが大事な役割だと思っています」。一つ上の代で主将を務めた中田嵩基(現・ライジングゼファー福岡)には強いリーダーシップがあり、練習中に納得できないことがあればプレーを止めて選手たちの気を引き締めていた。三谷もいま、先輩が示してくれた姿を参考にしている。
筑波大の学生たちが主体となって運営を担う「TSUKUBA LIVE!」では3月22日、昨年のインカレ王者・東海大学と対戦した。途中まで互角に渡り合っていたが、結果は48-67。三谷は試合後「自分たちがやりたいバスケットをさせてくれない時間帯に足が止まったり、受け身の姿勢になってしまったりすることがある。そこで一気に離されてしまった。そういう場面でも『徹底する能力』が必要だと思います」とチームを代表して課題を総括した。
高校1年で八村阿蓮とマッチアップ
バスケは小学校3年の夏から始めた。当時から背が高かったため、仲が良かった友人からミニバスに誘われた。「その前からも『バスケやろうよ』と言われてたんですけど、なかなか気が向かなくて(返事を)先延ばしにしていました。でも1回体験会に行ったら楽しくて、やめる理由もないので続けました」。小6のときにミニバスチームの監督が広島皆実高校のOGに代わり、「県外に出るのは大学からでいい。高校までは広島県内でバスケットを続ければいい」と言われた。当時の三谷はピンときていなかったが、中学時代に広島皆実高校の藤井貴康監督から声をかけられ、この話を思い出し、進学した。
高校では3年連続で全国高校総体とウインターカップの舞台に立った。1年時のウインターカップでは準々決勝で対戦した宮城・明成高校(現・仙台大学附属明成)の八村阿蓮(現・群馬クレインサンダーズ)とマッチアップ。「当時は本当にバスケットのことを全然知らなくて。全国の強豪とか、有名選手も知りませんでした。それがいい意味で緊張せずにできていたのかなと、今になって思いますが、そこからは意識するようになりました。当時の経験は大きいですね」
それ以前から藤井監督には、大きな期待がかけられていたようだ。中学を卒業する前、高校バスケの全関西大会に藤井監督から「来ないか」と誘われた。三谷はてっきり「ベンチから見るのかな」と思っていたら、ユニホームを受け取りスタートからメンバーに入っていた。「何をすればいいのか分からない状態」だったが、留学生と相対する経験を積み、大学の先輩にあたる二上耀(現・千葉ジェッツふなばし)とも対戦した。
体が「なまりきった」コロナ禍
高校時代から、留学生がいるチームに苦しめられてきたと振り返る。それが進学先に筑波大を選んだ理由にも、つながっている。「筑波大学は留学生がいない中で、ずっと大学バスケのトップにいる素晴らしいチームだと思っています。そういうチームから推薦をいただけたことが、本当にうれしくて……。高校3年間で苦しんだところから、自分は逃げたくなかったですし『ここで日本一になりたい』と思ったんです」
ただ入部すると、すぐにコロナ禍に見舞われた。国から緊急事態宣言が発出され、チームに合流してから約1カ月で、全体練習そのものがストップした。「外にも出ちゃダメだったので、ずっと家にいて広島にも帰れませんでした。バスケ自体のモチベーションはあったんですけど、動けなかったので、むしろ吹っ切れてすごく休んでました。(体は)なまりきりましたね」
Zoomを使ってミーティングを行ったり、チームのトレーナーから教えてもらったトレーニングを自宅で行ったりしていた。ただそれ以外はテレビを見たり、YouTubeを見たりといった生活。「何をしているんだろうか」と思うこともあったが、いまになって練習がしんどくなると「あの時期ぐらい休みは欲しかった」とプラス思考になることもある。練習が再開されると、フルコートを使った練習は「本当にきつくて、ちょっとやばい」というほど体力の落ち込みを感じた。しかしそれ以上に「すっごい楽しかった」という気持ちが勝った。
「ファイブアウト」に挑戦中
三谷はゴール下にも強く、ペイントエリア外からも攻撃を仕掛けられるオールラウンダーだ。礎は高校時代に築かれた。「中学まではずっとセンターでリバウンドを取ってましたが、高校に入って藤井先生が『将来的には外回りで使いたい』という話をしてくれました」。高2のときに出場した国体で、ペリメーターからのオフェンスを担ったが「全然うまくいかなかった」。YouTubeに挙げられた動画には、厳しいコメントが並んだ。「それが悔しくて、スクショして、(携帯電話の)ホーム画面にして、見返してやろうみたいな気持ちで練習していました」
チームは今季、2019年度から遠ざかっている日本一をめざす。今は留学生選手がいない筑波大ならではの戦い方を磨いている。これまではコート上にいる5人のうち、4人が外回りで1人をインサイドに置くのが基本スタイルだったが、5人が外に広がる「ファイブアウト」に挑戦している。「ドライブしたときゴール下にいる相手留学生の高さに苦しめられてきました。そこで5人全員を外にして、留学生やビッグマンに的を絞らせないことを考えています」。それも、留学生がいない中で戦う筑波大ならではの戦術だ。