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筑波大・岩下准平 チームを勝たせられ、世界との差を埋められるポイントガードに

大学の公式戦デビューを果たしたスプリングトーナメントでも、岩下は存在感を発揮した(撮影・すべて青木美帆)

短く立ち上がっていた前髪が、額にかかるほど長くなった。「大学に入ったら髪を伸ばそうと思ってたんです」。筑波大学の岩下准平(1年、福大大濠)は少し照れくさそうに言った。

昨年12月、福大大濠高校をウインターカップのチャンピオンに導いた司令塔兼エース。並み居る強豪を突き放して頂点へ駆け上がったチームの中心で、岩下は圧倒的な存在感を発揮していたが、大学の公式戦デビューとなった関東大学選手権(スプリングトーナメント)でも、その存在感にくすみはなかった。

大学バスケ初戦は「1年生らしく、ハードにフレッシュ」

筑波大には中田嵩基(しゅうき、4年、福大大濠)、笹山陸(4年、洛南)、小川敦也(2年、洛南)と、エース級のガードがそろっている。シックスマンとして起用された岩下は、10分から20分ほどに限定されたプレータイムの中で、1対1、2対2、ディフェンス、ルーズボール……。出場すれば必ず、何かしらのプレーで、コートに「岩下准平」の痕跡をくっきりと残した。

スプリングトーナメントでコンビを組んだ笹山(21番)とはよくコミュニケーションをとっていた(13番が岩下)

「プレータイムや起用方法は大会前から大体分かっていたので、15、6分の中で、自分がどれだけチームに貢献できるか考えながら試合に臨みました。(ガードとしてコンビを組む)陸さんとは、『シックスマンはいい時も悪い時も流れを意識してプレーするのが大切』と話しながらやっていたので、より激しくディフェンスしたり、ルーズボールでハッスルしたり、気持ちの部分で絶対に負けないと思ってやりました」

自身の役割にフォーカスし、持ちうる力を存分にふるった岩下のパフォーマンスは、ルーキーとしては文句のつけようのないものと感じた。本人も「1年生らしく、ハードにフレッシュにプレーできたのかなとは思います」と手応えを語ったが、反省点についても口にした。

「ポイントガードとしてまわりを落ち着いて見て、冷静に状況判断することはこれからの課題です。体の強さとディフェンスのハードさが高校と全然違って、ドライブした時にディフェンスの寄りが速くて慌てたところがあったので。そういう時に落ち着いてプレーしたり、仲間やディフェンスの動きをゆっくり見ながらピックの状況判断をしたりしたかったなと思います」

6月の新人戦、そして秋のリーグに向けて、しっかりと収穫を得た大会となったようだ。

高校までとは違う当たりの強さを肌で感じた(右が岩下)

悩むことなく筑波大に決めた理由

中学時代に全国準優勝に輝き、名門・福大大濠では1年生の時から主力としてプレー。3年生の時にはU19日本代表の主力としてワールドカップにも出場した。本人が望みさえすればどの大学でも選べただろうが、岩下は大学選びにはほとんど悩まなかったという。「(福大大濠の片峯聡太)先生に『どこに行きたい?』と聞かれた時、すぐに『筑波で』と言いました」と振り返り、その理由について話してくれた。

「筑波のように、全員がゴールにアタックできて全員がシュートを打てるチームでポイントガードをしたかったというのもありますし……」。続いた言葉に、うならされた。「日本人のスクリーンをうまく使えるようになりたかったからです。プロを見据えて、大学で留学生センターとのプレーに慣れるという考え方もあると思うんですけど、僕はあえて日本人センターとやることがこれからにつながると考えています」

岩下(右)は「日本人のスクリーンをうまく使えるようになりたい」と考えたことも、筑波大に進学した理由だった

留学生センターはおしなべて、強い体、長身、高い身体能力という大きなアドバンテージを生かし、日本人選手を圧倒できる。そしてそれゆえに、スクリーンとして彼らを使う選手が精度の低いプレーをしても、局面で勝ててしまうことがある。しかし、岩下はそれを良しとせず、自らのスキルを突き詰めることでチームを勝たせる道を選んだのだ。

昨夏のU19ワールドカップで感じたこと

岩下の目線は、高校時代から“世界”を向いている。

昨夏に実施したインタビュー取材では、東京オリンピックやU19ワールドカップに触れて「日本と世界との差は、流れを読み、ゲームをしっかり組み立てられるポイントガードの存在なのかなと思いました」と話していた。

ウインターカップ準決勝の仙台大学附属明成高校(宮城)戦では、スタメン中4人が身長190cm超という大型チームを相手に、3ポイント9本を含む38得点という大活躍でチームを勝利に導いた。司令塔ながら積極的に得点を取りに行った岩下について、片峯聡太コーチは「すごく大きいチームに対しては、ガードがしっかり点数をとって、つないでいくというスタンダードを築かなければいけない。これは、岩下がワールドカップを経て改めて感じたことだと思う」とコメントし、彼の意思とパフォーマンスを高く評価していた。

大学におけるルーキーシーズンの目標も、「チームを勝たせられるポイントガード」と目線が高い。「1年生ではありますけど、チームが目標とするリーグ、インカレ優勝に貢献できるようにしたいと思います」

「高校の頃とは全然違う」と思われるプレーヤーに

大学生としての生活が始まって、もうすぐ3カ月が経つ。初めての一人暮らしに四苦八苦し、慣れないパソコンを駆使してレポート作成にいそしみ(スマホを連動させて文字を入力しているので、タイピング技術は向上していないそうだ)、当初は頑張っていた自炊のモチベーションが尽きそうだと頭をかいた。「大学生って楽しいっていうじゃないですか。先輩たちにいいことも悪いことも学びながら、楽しんでいきたいです」と、キャンパスライフにも期待を馳(は)せながらも、プライオリティは当然ながらバスケにある。

高校時代からのライバル、白鴎大の佐藤涼成(右、1年、福岡第一)とは熾烈なマッチアップを演じた。「タイマーが止まっている時に『お前、ファールしとるやん』みたいなことを笑いながら話していました」と岩下

「大学バスケを通して、プレーの質やすべての面において『高校の頃とは全然違う』と思われるプレーヤーになりたいです。そして、自分の理想像になるべく近づいた状態でプロに行けるよう頑張りたいです」

現時点ですでに完成された風格をたたえるポイントガードは、4年後にどのような怪物になっているのだろう。とても楽しみだ。

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