バスケ

拓殖大・益子拓己「挑戦」で始まった男が3ポイント王を経て主将に、コート上で感情を

益子は自分のスタイルを貫きながら、様々な役割を担っている(撮影・すべて青木美帆)

拓殖大学の主将・益子拓己(4年、祐誠)はコート上でとても忙しそうだ。武器とするアウトサイドのシュートを打つのはもちろんのこと、ファストブレイクの先陣を走り、相手エースをマークし、ルーズボールやリバウンドに敢然と突っ込み、仲間たちに絶えず声をかける。

ポイントゲッターであり、ディフェンダーである。リーダーであり、モチベーターであり、メンターでもある。さらに加えると、関東大学選手権(スプリングトーナメント)に参加した選手の中で最もプレータイムが長い。

準々決勝の試合後、「やることが多くて大変そうですね」と声をかけると、益子は「大変か大変じゃないかで言えば大変です」と笑った後、「外から見ている人は『4年生だしキャプテンだから頑張ってる』と思うかもしれないですけど、どんどん声を出すのも最後まで走るのも、僕自身のスタイル。勝っていようが負けていようが、それを貫き通そうと思ってます」とコメント。大会を通して多様な役割を果たした益子は、チームを昨年大会の成績を1つ上回る7位入賞に導き、個人としては得点と3ポイントの2部門でランキング2位につけた。

バスケは高校までのつもりだった

益子の出身地は、バスケどころの福岡県。ミニバスケットボールチームの監督をしていた父に「野球をやるつもりが強制的に体育館に連れられて」バスケを始め、自宅から自転車で10分ほどの距離にある祐誠高校に進んだ。過去の実績を問うと「何も……」と苦笑い。「中学の時は県大会1回戦負け。高校は運良く県3位になりましたけど、選抜みたいなものには大学に入るまで一切選ばれていません」。福岡大学附属大濠高校や福岡第一高校と対戦すれば、100点ゲームのダブルスコアで負けた。

高校でバスケはやめるつもりだった。「大学で普通に勉強して、卒業後は普通に就職しようかなと思っていました」。しかし、祐誠の監督と親交のあった拓殖大の池内泰明監督からまさかのオファーを受けて、現役を続行することになった。

拓殖大の池内監督との出会いで大学バスケの道が開けた

拓殖大でシューターへ

関東の上位リーグは、全国からエリート選手が集まるカテゴリーだということは知っていた。「他の選手には申し訳ないんですけど『挑戦してみようかな』と、ちょっと軽い気持ちで入っちゃったんです」と当時を振り返る益子だが、その気持ちは入部後すぐに改まった。「4年生にボッコボコにされて、歯が立たなくて。悔しい思いで練習したから今があるなと思います」

入学当初の益子には、もうひとつ大きなモチベーションがあった。インサイドプレーヤーからシューターへの転身だ。

「高校時代までは4番ポジション(パワーフォワード)で走る選手で、3ポイントは1本でも決められればいいかなっていう選手でした。でも、池内監督は僕をシューターとして育てたいと言ってくれたんです。高校時代から外のプレーをやってみたいと思っていたので『シューターとして試合に出られるんなら、やってやろう』と。1年生の時、チームには多田武史さん(現・秋田ノーザンハピネッツ)というすごいシューターがいたので、『多田さんを見習いながら、いつか超えたい。絶対うまくなってやる』と思いながら練習していました」

3人制の日本代表候補合宿を経験

非エリートという出自によるものか、本人の性格によるものかは分からないが、益子には凝り固まったプライドがなく、話の中には「競争相手を見習いたい、マネしたい」というニュアンスの言葉がよく出てくる。「中学で都道府県選抜に選ばれたり、高校で全国に出たりした選手と比べたら、僕なんて高校まで何も経験してないようなやつ(笑)。自分が持っていないものはどんどん見習って、盗めるものは盗んでいきたいです」

謙虚に貪欲に。他の選手のプレーから学び、力をつけてきた

そんな素直さも手伝ってか、益子は少しずつ自らの可能性を広げ、2年生でのオータムカップ(10月~11月に行われた代替トーナメント)からプレータイムを獲得。3年生でのスプリングトーナメントでは3ポイント王に輝き、今春には3人制バスケットボールの日本代表候補合宿にも招集された。

「昔は会場で『あ、あの有名な選手だ!』って思うこともありましたけど、今は……『この選手、俺のこと覚えてるかな。やり返してやろう』って気持ちの方が大きいです」。謙虚さを土台に、自信と強い気持ちが備わった。

全員が感情を出せるチームに

昨秋のリーグ戦以来、約半年ぶりに拓殖大の試合を見て、「あれ」と思ったことがある。プレー中に感情をあらわにする選手が増えたことだ。「確かに、それは去年から変わったところかもしれません」と益子。「キャプテンである自分が気持ちを出してプレーしちゃうタイプなんで、そこに乗っかってくれているのかなと思います」

益子(左端)は皆が感情をむき出しにしてバスケを楽しめるようなチームを目指している

いくつかの問答を経て、最後に「キャプテンとしてどんなチームにしたいですか?」と尋ねると、益子はこの「感情」にフォーカスした理想を語った。

「やっぱり……嬉(うれ)しかったら喜ぶ、悔しかったら悔しがる。何でもいいんですけど、全員でその瞬間に起こったプレーに対して喜怒哀楽を出して、楽しくバスケができるのが一番だと思います」

仲間のプレーは、いいものも悪いものも常に笑顔で受け止めようとする。相手が好プレーを見せると「すごいな」というような笑みを見せる時もある。自分がミスをした時は大いに悔しがるが、その後すぐに切り替えて次の戦いに備える。チームの中心で豊かな感情を表現するハードワーカーのもと、今季の拓殖大がどのように成長していくかが楽しみだ。

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