筑波大・内野航太郎 「三笘薫さんが示している」大学からプレミアで活躍する道を追う
今季、関東大学サッカー1部リーグで話題の大型ルーキーがいる。筑波大学の内野航太郎(荏田/横浜F・マリノスユース)は開幕からスタメンで出場し、リーグ戦6試合で7ゴールをマーク。6節時点で得点ランクの単独トップに立っており、2010年度の赤崎秀平(当時・筑波大)以来、13年ぶりとなる「1年生得点王」への期待が高まっている。
「周囲のサポートを受けながら、長所を発揮」
2022年に高校年代最高峰の高円宮杯プレミアリーグEASTで21ゴールを挙げて得点王を獲得した内野は、「大学の壁」を物ともしていないようだ。2節から2試合連続で2得点を挙げ、5節の法政大学戦では圧巻のゴールで周囲の度肝を抜いた。ペナルティーエリア内で味方の強烈なシュートを右足でコントロールすると、身長186cmの体を軽やかに反転させて、利き足とは逆の左足でゴール右隅へ。ボールの軌道を直前で変えられた相手GKはお手上げ状態だった。1年生とは思えない働きぶりに筑波大の小井土正亮監督も舌を巻く。
「ストライカーとしての能力は、抜けています。得点につながりそうにない場面でも、ゴールに変えることができるので」
点を取る才能に加えて、努力も惜しまないという。入学当時から将来を見据えて、筑波大が誇る専門家の下で体づくりに励み、居残りのシュート練習も納得いくまでこなしている。試合前日であっても、お構いなくゴールに向かっている。コーチ陣が「そろそろ止めておけよ」と声をかけることも珍しくない。小井土監督は1年目から得点を量産している理由を端的に話してくれた。
「1人の力で点を取っているわけではないんです。周囲のサポートをうまく受けながら、自分の長所を発揮していると思います」
コミュニケーションの大切さを知ったユース時代
内野はチームの中で点を取るすべをよく知っているのだ。入学前から筑波大の試合をチェックし、攻撃陣の特徴を把握。大学の練習に合流してからは同期、先輩問わずチームメートと積極的に話し、自らの特徴を理解してもらうことに努めている。同じ前線の選手、中盤のパサーと感覚をすり合わせ、練習からパスを出してもらうタイミングを確認。グラウンドの外でも顔を合わせ、特に司令塔である主将の山内翔とは頻繁に意見を交換する。
「『前を向いたら、このタイミングでパスを出してほしい』とか、具体的な話をしています。翔くんからは『どんどん、言ってほしい』と言われているので。僕のプレースタイル的にも必要なことだと思っています。いま点を取れているのは、チームメートたちが試合中に僕の動きをしっかり見てくれるからです」
コミュニケーションの重要性に気付いたのは、横浜F・マリノスユース時代。より多く点を取るために考えをめぐらせ、行き着いた先の答えだった。
当時はアクション(動き出し)の回数を増やせば、得点機会も増えると思っていたが、予想以上にパスを引き出せずに自らのプレーを見直した。「前線でどれだけ動いても、パスは思うように出てこなかった。FWはボールを引き出せなければ、意味がありません」
まずは自分の形を確立することから始めた。手本にしたのは、クロスへの入り方が巧みで、相手の裏に抜け出すことを得意とするFW。Jリーグで歴代2位の通算得点記録を持つ興梠慎三(現・浦和レッズ)をはじめ、佐藤寿人(引退)、古橋亨梧(セルティック=スコットランド)、上田綺世(セルクル・ブリュージュ=ベルギー)といった実績を残している日本人ストライカーたちの映像は何度も見た。
「一度相手マーカーの視界からふっと消えて、クロスに合わせる興梠選手の駆け引きは参考にしました。動き出す適切なタイミングをつかんでくると、点の匂いがする場所も分かってきたんです」
動画を反転させ、ハーランドを参考
次はパスを出してくれる味方に、自分の動きを知ってもらう作業が必要だ。当初はイメージを言葉にする難しさを感じていたが、試行錯誤を繰り返していくうちに、伝え方も上達した。そして、大学1年生となったいまは自信を持って言う。
「自分のなかで言語化できるようになってきました。筑波では一番得意な場所(エリア)でずっと勝負できています。開幕当初は2桁ゴールを取ると公言していましたが、この調子で行けば到達しそうなので、15ゴール以上を取って、得点王を目指します」
早くも目標を上方修正した。サイズ、技術、スピードと三拍子そろうルーキーの理想とするストライカーは、現在、欧州を席巻するマンチェスター・シティーのアーリング・ハーランド。身長194cmと体格が近いFWから学ぶべき点は多く、試合前にはゴール集の動画を目に焼き付けるのがルーティン。今季、イングランド・プレミアリーグの得点王に輝いたノルウェー代表は自身と異なり左利きではあるが、ひと工夫を加えて、自らの姿に重ねていた。
「動画を反転させれば、ハーランドが右利きになるのでイメージしやすいんです。毎回、50ゴールは見ています」
最終目標は世界の舞台。内野は高卒から無理にプロの道に進むのではなく、大学で試合経験を積むことで成長できると信じている。将来のビジョンは明確だ。Jリーグからステップアップし、世界最高峰と言われるプレミアリーグのチームでエースになること。
「筑波大のOBでもある三笘薫さん(ブライトン)が大学サッカー出身の選手でも、プレミアリーグで活躍できることを示してくれています」
規格外のゴールゲッターは大学1年目から得点王を獲得し、大言壮語ではないことを証明するつもりだ。