早稲田大・鷺麻耶子 葛藤と向き合い続けた競技生活、自分を信じた最後の日本インカレ
創部110年を誇る早稲田大学競走部で女子主将として1年間駆け抜けた鷺麻耶子（さぎ・まやこ、4年、八王子東）は、約10年間にわたる陸上競技人生に終止符を打ち、この春から新たな一歩を踏み出す。「競技に関しても、人としても、人生の中で一番学んで成長できた」。早大競走部での4年間はどのような時間だったのか。彼女の言葉をたどりながら、その軌跡を振り返る。
「ここに来たら全然違う角度で成長できる」
今でこそ早大の顔と言える鷺だが、陸上競技との出会いは偶然だった。「何か緩い部活動に入りたい」と軽い気持ちで中学の陸上部に入った。入部から1年ほどが経った頃から短距離の100mで徐々に頭角を現し、中学2年で都大会入賞、翌年は全国中学校体育大会（全中）に出場した。
高校3年時には、新型コロナウイルスの影響でインターハイが中止になったが、それに代わる大会として開催されたセイコーゴールデングランプリ陸上のドリームレーンに出場。国立競技場で100mを走ったことで「レベルの高さを痛感し、貴重な経験ができた」と振り返る。この経験が、大学でさらなる飛躍を遂げるための大きな糧となった。
早大競走部で1学年先輩の津川瑠衣さんから練習見学に誘われ、「高校以上に競技に集中したい」という思いで見学に訪れた。競走部の雰囲気に触れ、最初に感じたのは、純粋な「楽しさ」だった。自身が知らなかった補強トレーニングや、新たな視点を学ぶ中で、「ここに来たら全然違う角度で成長できるな」と確信。早大への進学を決めた。
「1年目は行けるところまで頑張ろう」。受験明けということもあり、大学での競技生活は控えめな目標を掲げてスタートした。しかし「深く考えすぎずに走れていた」ことが奏功し、自身の予想を超える飛躍の年となった。初めての関東インカレは女子1部100mで堂々の3位。6月の日本選手権では11秒67（+2.0m）で早大記録を更新し、準決勝進出を果たした。大会を経るごとに好記録を残したルーキーイヤーだった。
意見を聞けば聞くほど、分からなくなった時期
ただ、この時期を振り返る鷺の言葉は、意外なものだった。「当時の走りが自分の中ですごくかみ合っていたかというと、意外とそんなことはない」。2年生になると思わぬ壁に直面した。「積極的に分からないことを聞きに行った。でも、どれが自分に合うのか分からず、いろいろな方の意見を聞けば聞くほど、本当に分からなくなった」。2、3年目は答えが見つからないまま、もどかしさを抱え続けた。
一方、仲間が着実に力をつけていく姿には喜ばしい気持ちもあった。思い出すのは3年時の日本インカレだ。「自分一人では行けなかった決勝に、4継（4×100メートルリレー）で行くことができたのは、すごいうれしかった」
自らの葛藤と向き合い続け、迎えた最終学年。鷺は、前年の川村優佳さんたちの代から新設された「女子主将」を担うことになった。「川村さんたちが引退された日は、本当に寂しくて悲しかった。それ以上に不安が大きすぎて、自分が本当にやっていけるのか不安だった」。偉大な先輩と自分を比べ、落ち込む日もあった。しかし、周囲への気配りを忘れない鷺は、後輩たちにとって安心できる女子主将でいようと決意を固めた。
最後の対校戦となる9月の日本インカレには、特別な思いがあった。「決勝に行くしかないと思っていたし、行かない姿は想像できなかった」。2、3年の頃は決勝の舞台に立つ自分を思い描けなかったが、最後は自分を信じた。仲間の声援を受けて走りきった女子200m準決勝で、組1着。決勝は4位と、惜しくも表彰台に一歩届かなかったが、鷺はこのレースを振り返り、このように語った。
「本当にいろいろな気持ちがあった。最後の形がこれで良かったという気持ちもあった。終わってしまったな、自分が本当に取りたかった頂上を一度も取れなかったなという気持ちもあった。でも、何よりもこのチームで最後の対校戦を一緒に戦うことができて本当に良かった」
「人としてどうありたいか」を探り続ける
誰よりもチームを思い、部員一人ひとりと向き合って、ともに成長してきた女子主将。一緒に戦ってきた同志が躍動すれば、自分のことのようにうれしかった。その姿は後輩たちにも伝わっていたようで、清水奈々子（3年、札幌南）が「部やその人のことをしっかり考えてくれている」と言えば、1年生の千葉史織（仙台一）も「女子チーム全体を考えながら、すごく周りを見ている」と感謝の言葉を贈る。
1年時から早大女子の短距離を牽引（けんいん）し続け、苦しかった時期も、プレッシャーを感じた時期も乗り越えた。卒部した今、鷺は「やっぱり早大で大学4年間を過ごすことができて良かった」と迷いなく言った。春からは陸上競技を離れ、一般企業への就職が決まっている。戦うフィールドは変われど、鷺の根本にある思いは変わらない。「人としてどうありたいか」。それを探し求めながら、新たなステージへと歩みを進める。
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