“早稲田の名探偵”工藤慎作が学生ハーフ優勝「学生トップとしてさらに抜けた存在に」
第28回 日本学生ハーフマラソン選手権大会
2月2日@香川県立丸亀競技場ハーフマラソンコース
優勝 工藤慎作(早稲田大2年) 1時間00分06秒
2位 馬場賢人(立教大3年) 1時間00分26秒
3位 上原琉翔(國學院大3年) 1時間00分30秒
4位 帰山侑大(駒澤大3年) 1時間00分32秒
5位 吉中祐太(中央大3年) 1時間00分45秒
6位 近田陽路(中央学院大3年)1時間00分45秒
7位 青木瑠郁(國學院大3年) 1時間00分47秒
8位 辻原輝(國學院大2年) 1時間00分51秒
2月2日に香川丸亀国際ハーフマラソン(丸亀ハーフ)と日本学生ハーフマラソンが併催され、早稲田大学の工藤慎作(2年、八千代松陰)が学生ハーフ優勝を飾った。丸亀ハーフでも5位に入賞し、長距離界トップの仲間入りへ名乗りを上げた。
自分で設定したペースを守り、後半一気に前方へ
学生ハーフマラソンは例年、3月に開催される立川シティハーフマラソンと併催されていたが、今年度から学生チャンピオンシップ大会として、「よりレベルの高い競技会」である丸亀ハーフと併催されることになった。今大会は7月にドイツで開催予定のFISUワールドユニバーシティゲームズの日本代表選手選考も兼ねていた。
国内屈指の高速レースとして知られる丸亀ハーフでは、これまでも男女の日本記録が誕生。今回は「夢の59分台を後押し」するとして、日本記録更新のために大会史上初めてペースメーカーがついた。その目標の通り、入りの3kmは2分47秒、2分50秒、2分46秒とハイペース。果敢にトップに食らいつく選手もいる中、工藤は冷静に第2集団の中で走った。
先頭のハイペースについて行った立教大学の馬場賢人(3年、大牟田)や第2集団から飛び出した駒澤大学の帰山侑大(3年、樹徳)、國學院大學の上原琉翔(3年、北山)は15kmからの上りでペースを落とした。工藤は淡々と走り、前から落ちてくる選手をとらえ続け、17kmすぎで全体5位、学生ハーフエントリー選手の中でトップに躍り出た。そのまま勢いを落とすことなく、名探偵コナンの「真実はいつも1つ」のポーズを取りながら1時間00分06秒でゴールした。
想定よりも好タイムも「欲を言えば…」
「61分を切れたらいいなと思っていたので、それを大きく上回るタイムで走れたのは、自分の中でものすごく大きかったです。欲を言えば60分を切りたかったなというのはあったので、あとひと伸び足りなかったなとは思います」。レース後、感想を聞かれてまず工藤はこう口にした。
ペースメーカーの設定は5km14分、10km28分のハイペース。それについていくのは、自分の力としては難しいと考え、自らのペースを守った。「14分10秒から15秒ぐらいのイーブンペースで押していけば、かつての日本記録ぐらいのペースでは推移します。前半はそれで余裕を持つことができていたので、後半になってのペースアップにつながったのかなと考えています」
学生で3位以内に入ればワールドユニバーシティゲームズへの出場権を獲得できる、ということは頭の中にあった。最初の5kmでは多くの選手に先行されたが「そのままのペースで行くことは到底考えにくい」と思っていた。後方で余裕を持って、後半はどんどん抜いていく。冷静なレース運びが好結果につながった。
昨年の学生ハーフでは3位だった工藤。立川から丸亀にコースが移ったことについて聞かれると「アップダウンのあるコースを得意としているので、立川のほうが自分にとっては有利」と言いつつも、このコースでも15km過ぎに上りがあった。「そういったところで他の選手たちからアドバンテージを取れたのも大きかったのかなとは思います」と分析する。
学生トップの自覚を持ち、さらに上へと
年始の箱根駅伝では山登りの5区を区間2位で走り、「山の名探偵」として一躍その名が全国にとどろいた。しかし「山に向けた練習というのは、1年間を通しても片手で数えるほどしかやっていませんでした」と明かす。「やっぱりそれが(区間賞を獲得した)若林(宏樹、青山学院大学4年)さんとの差だったとは思います。とはいえハーフを60分一桁で走れる程度の走力があったからこそ、箱根の結果につながったのかなと思っています」
花田勝彦監督は工藤のことを「実力を練習以上に出せるタイプ。1=1ではなく、1=1.2ぐらい出せる」と評価する。箱根でも練習以上の力が出た結果、疲労がかなりたまり、1月はほとんど疲労を抜くことに注力していたという。
「1週間ぐらいしか、しっかりとした練習ができなかったんですけど、それまでに結構走力は上がっていたので。整えたリズムで走って、調子を上げることができたのが今回の勝因なのかなと思います」とさらりと言うが、並大抵のことではない。言葉の端々に大物ぶりを感じさせる。
新しいシーズンの目標を問われると「昨年度とは異なって、全員からマークされる展開になってくると思います。その中で勝つことができるのが本当の学生のトップなのかなと思っているので、今もトップだとは思いますが、そこからさらに抜けた存在になれるように頑張ります」と口にする。
思わず、すでに学生トップの自覚はあるのですか、とたずねると「今の自分は試合に出るたびに良い結果を残すようになっているので、今回の結果も含めて、やっぱり学生トップレベルなのかなと思います」と答えた工藤。自然体ではあるがすでに自覚を持ち、さらに上を目指していこうという思いが感じられた。
ちなみに、「山の名探偵」というニックネームが定着しつつあることもそうだが、注目されることを力に変えられるタイプなのかが気になり、工藤にそのことを聞いてみた。すると「全員が注目されるわけではないので、注目されていることをプレッシャーに感じるのではなくて、楽しんでいければと考えていました」と言う。今回もレース中に、すれ違う市民ランナーから「名探偵頑張れ」と多くの声をかけてもらった。「とはいえ、ここで記録をかなり出したので、『山の名探偵』ではなくて、平地でも全然いけるよな、と思ったりしています」と笑う。
出雲駅伝や全日本大学駅伝の際、工藤の応援ハッシュタグは「#早稲田の名探偵」となっている。「でも山の方がインパクトが大きくて認知していただいている部分があるので、一応『山』と『早稲田』の二本立てでいきたいと思っています」と工藤はいたって真面目に答えた。
目標はロス五輪、在学中にマラソンも視野に
出場権を獲得したワールドユニバーシティゲームズでの目標を問われると、「正直あまり見ていなくて、どれぐらいのレベルなのかはわからないのですが」と前置きした上で「日本は駅伝文化がある分、ハーフマラソンは特に強いものだと思います。ユニバーシティゲームズは欧米の国が多い印象ではあるので、その中で日本人は勝っていくべきなのかなと思います。強みである分、優勝も視野に入れていきたい」と頼もしい。
工藤の目標は2028年のロサンゼルス・オリンピックにフルマラソンで出場すること。出場権をかけたMGCは27年の秋に行われる。MGCシリーズは27年3月までのため、工藤は大学在学中にMGCの出場権を獲得する必要がある。「そのために在学中にマラソンを走っていくというのが、自分の中でプランとしてあります」
注目を力に変え、気負うことなくどんどんと実力を高めていく工藤。3年生となる新シーズン、さらなる活躍を楽しみに待ちたい。