陸上・駅伝

太田智樹と駒澤大・篠原倖太朗 Ggoatでも高め合う2人が丸亀ハーフで日本新記録

ラスト勝負で太田は篠原(後方)を引き離し、日本記録を更新した(すべて撮影・藤井みさ)

2月2日に開催された第77回香川丸亀国際ハーフマラソンで、トヨタ自動車の太田智樹が59分27秒、駒澤大学の篠原倖太朗(4年、富里)が59分30秒をマークした。日本人で初めてハーフマラソンで59分台に突入し、ともに日本記録を更新した。練習をともにしたこともある2人は、お互いの強さをたたえあった。

終始ハイペースで30秒以上の記録更新達成

香川丸亀国際ハーフマラソン(以下、丸亀ハーフ)は男女の日本記録が誕生した、国内屈指の高速コース。従来の日本記録は2020年の第72回丸亀ハーフで小椋裕介(ヤクルト)がマークした1時間00分00秒だった。今回の大会では「夢の59分台」への後押しのため、77回目にして初めてペースメーカーが導入された。

招待選手である篠原と太田は、最前列からのスタートとなった

入りの3kmは2分47秒、2分50秒、2分46秒と序盤からハイペース。5km、10kmの通過でも日本記録を上回るペースでレースが進んだ。2年前に優勝、昨年は2位だったアレクサンダー・ムティソ(NDソフト)を先頭に、マル・イマニエル(トヨタ紡織)、太田、篠原、中央学院大学の吉田礼志(4年、拓大紅陵)、立教大学の馬場賢人(3年、大牟田)らが集団を形成した。

折り返しの手前で吉田が、14km手前で馬場が集団から離れると、トップ集団は4人に。17.3kmほどで篠原と太田が先頭から離れ、2人でゴールを目指した。残り3kmとなったところで篠原は太田の前に出たが、ラスト1kmを切って競技場の敷地内に入る手前で太田が仕掛け、篠原を引き離した。太田は59分27秒、篠原は59分30秒でゴール。篠原は東京国際大学のリチャード・エティーリ(2年、シル)が持っていた59分32秒の日本学生記録も更新した。

篠原は59分30秒で、従来の日本学生記録を2秒更新

太田「何としてでも勝たなきゃという思いで」

太田はレース後、「いつかこの記録は破られると思っていますけど、初めて60分を切ったということは変わらない事実で、そこが一番良かったかなと思います」と日本記録更新について感想を口にした。周りからの期待も大きく、「(60分を)切れる」とずっと言われてきた。「ようやくタイミングとコンディションがいろいろあって、今回(60分を)切れたというところはすごくホッとしてます」

太田は23年の秋から、駒澤大の大八木弘明総監督が指導するGgoat(旧・Sチーム)の練習に参加するようになった。23年4月に駒澤大からトヨタ自動車に入社した田澤廉が強度の高い練習をともにするパートナーを求めており、太田に「一緒に練習をしませんか」と声をかけたのがきっかけだ。

本来はマラソンでの世界陸上を狙っていたが、けががあり思うようにいかなかったとも話す

Ggoatでは駒澤大OBの鈴木芽吹(トヨタ自動車)と篠原も練習している。参加した当初は田澤、鈴木に比べて篠原はまだ力がないという印象だったが、昨年の夏、駅伝シーズンを経て、着々と力をつけていると感じていた。「まだ若いのでこれからも全然伸びしろもある選手だと思っています。でもやっぱり年上だし、負けちゃいけないというのはすごく思っています」

18kmを過ぎてムティソ、イマニエルの仕掛けについていけず、余裕がなくなった。そのタイミングで篠原が前に出たことを「本来もっとどんどん引っ張らなきゃいけない自分が、篠原の後ろについてっていうところはちょっと申し訳ないと思いました」という。「(篠原の)後ろに下がってからはとにかく最後に勝ち切ることだけを考えていました。うまく力をためながら少し上げたりしていて、篠原も上がりきっていなくてきつそうだったので、タイミングを見ながら仕掛けました」

中堅と言われる立ち位置になってきた太田。「これからも貪欲に、しっかりチャレンしていたいきたい」

しかし、このタイミングは「正直ちょっと早かったです」と苦笑する。「仕掛けたものの最後めちゃくちゃきつくなってしまいました。でも負けたくない相手だし、負けちゃいけない相手だと思っていたので。最後、何としてでも勝たなきゃっていう思いで走っていました」。練習をともにしたことがある相手との勝負だからこそ、最後の力を振り絞る原動力となった。

篠原「タイムはうれしいけどすごく悔しい」

篠原は箱根駅伝ではエース区間の2区を走り、1時間06分14秒で区間4位だった。タフなコースゆえ、試合後は思った以上に疲労が出てしまい、1週間ほどは1日に1時間ほどしか走らないオフ期間を設けた。その後は徳之島の合宿などで30km走も行い、このレースに合わせてきた。

太田の3秒後にゴールしたあと、地面をたたいて悔しがる場面もあった。「日本記録を狙って来ていたので、タイム的な更新はすごくうれしいんですけど、やっぱり勝負の場面で負けてしまったので……。なにか自分らしいなと思いつつ、すごく悔しい気持ちですね」と素直な気持ちをまず口にした。

ゴール後、地面をたたいて感情をあらわにした篠原。勝負に負けた悔しさをぶつけた

「グラウンドに入ったときに電光掲示板が見えて、59分台はもう狙えるのであとは勝負の部分だったんですけど、ラスト200mではもう追いつかないぐらいの差が開いてしまったので、詰めが甘かったなと思います」

昨年の全日本大学駅伝のあたりから、ハーフマラソンで59分台は出るという感覚はすでに持っていたといい、今回は「太田さんに勝ちたい」という気持ちが強かった。太田と練習をともにし、彼の強さを肌で感じていたが、自分の実力もどんどん上がってきたと思っていた。「夏ほどの差はなくなったかなという感じがして、前に出たりとかちょっとしてみたんですが、やっぱりラスト勝負となると差が出てしまったなという印象です」

「一生かけて駒澤に恩返ししたい」

篠原は入学当初はBチームで練習をこなすのが精いっぱいというレベルだった。強い先輩や頼もしい仲間たちから刺激を受け、切磋琢磨(せっさたくま)して実力を高めてきた。2年前に出場した丸亀ハーフで1時間00分11秒のタイムをマークし、当時の日本人学生記録を更新。これが自信となり、飛躍のきっかけとなった。「本当に駒澤に入って良かったなと思いますし、まだまだ駒澤に対しての恩返しができていないので、これから自分の競技人生すべてをかけて恩返しをしていけたらと思います」

入学当初はBチームの練習についていくのもやっとだった。駒澤に入って良かったと話す

昨年1年間はキャプテンを務め、自分のことよりもチームにベクトルを向けて過ごすことがほとんどだった。「恩返しができていない」と言っていた篠原だが、彼のキャプテンシーがチームを良い方向に導き、後輩たちも頼もしく成長してきたことは間違いない。今回のレースでも谷中晴(1年、帝京安積)が1時間00分57秒をマークし、U20日本記録を41秒も更新。桑田駿介(1年、倉敷)も初ハーフで1時間01分09秒と好タイムだった。

「本当に競技力もそうですけど、人間性の部分で多くの選手が成長してくれたと感じています。これからどんどん、もっと良い結果を出してくれる選手たちだと思うので、これにとどまらずもっともっと期待してもらいたいなと思います」と最後まで駒澤愛を感じさせるコメントだった。

後輩たちに「もっともっと期待してもらいたいと思います」と駒澤愛を感じさせるコメントも

太田、篠原ともに今後は9月に東京で開催される世界陸上にトラック種目での出場をターゲットにしていく。切磋琢磨して日本長距離界の新しい扉を開いた2人。今後のさらなる活躍も楽しみだ。

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